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朝と言うには少し遅い午前九時すぎに起きてきた私を出迎えたのは透くんが淹れてくれた紅茶だった。飲むと冷えた身体がじんわりと温まり、ほっとひと息ついていると、朝の家事を終えてもばたばた部屋を行ったり来たりしている透くんが「発酵している紅茶は身体を温める効果があるんですよ」と豆知識を披露してくれた。
「今日はどちらへ?」
「東京駅。組織の仕事だよ。何をするかは聞いてないから知らないんだけど」
「東京駅か……。送っていきましょうか?」
「でも透くんも同じ時間に出るんでしょ?」
私はちらりとカレンダーに書かれている予定を確認した。そこには私が出る時間と同じ数字が記されている。
「依頼人に届け物をするだけだから大丈夫ですよ。僕の用事もそっちの方ですし」
「じゃあ、お願いしようかな。……あ、今日はジンとウォッカの付き添いだから、帰りの時間はわからないし迎えはいらないよ」
「ジンですか……。彼女の死に引きずられて組織に反抗しないかどうかを確かめたいのかもしれんね。言動に気をつけてくださいよ」
「あり得ないよ。それを確かめるならジンは直接来ないでしょ。誰か他の人に確認させるよ。今だと、うーん、キュラソーとか」
名前を挙げるとぴくりと透くんの人差し指が動いた。
のどかな土曜の朝の気配が揺らぐ。
「キュラソーとは?」
「あー……、最近知り合った人」
キュラソーからトレーニングを受けていることは、まだ透くんに言っていない。言う必要性を感じなかったから。
「どんな人です?」
「どんなって……」
「男性?」
「ううん、女性だよ。すっごく美人」
それだけ教えると、透くんはキュラソーについて深くは聞いてこなかった。
それよりも、という風に首をかしげて私の顔を覗き込んでくる。
「彼女のプリクラは、渡せそうなんですか?」
「……ううん。直球勝負でジンに妹さんのいるラボの場所を聞こうかと思ったんだけど、それこそ不審に思われるでしょ?」
「そうですね。……ああ、それなら僕が預かっておきましょうか? 代わりに渡せそうなら渡しますよ」
にっこりと笑う透くんは、善意で言っているような気もするし、何か裏がある気もする。プリクラを道具に優秀な研究員である妹さんと関わりを持ちたいのかもしれない。
部屋の机の引き出しにしまっているシールに写る、まだ少女の面影のある妹さんの顔を思い浮かべ唇を引き結ぶ。
「……透くんが私の立場ならどうする?」
「僕なら、……預けないですね。ほとぼりが冷めるまで自分で持っておきます」
だよね。と同意すると、透くんは妙に神妙な面持ちで納得した。
たかがプリクラ。だけど知らない男にプライベートな写真を見られたくないだろうし、渡されるのも絶対に怖い。
話はそこで終わり、お互いに出かける準備をしているうちに家を出る時間になった。
私はいつものリュックを背負い、透くんも珍しく鞄を持っている。中には例の届け物が入っているのだろう。さっきチラリと茶色い封筒が見えた。
私もそれくらい簡単な仕事だったらいいなと思いながら、玄関の扉をくぐった。