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 荷物を片付け終えると、バーボンは「紹介したい人がいるんです」と言って私を食堂に残して、その人を迎えるために一旦研究所をあとにした。
 前の研究所にはなかった食堂は、フロント企業と言うだけあって普通のおばちゃんがあくせく働いている。
 手書きのメニューの中から月見うどんを選び、エプロンをつけた小太りのおばちゃんに注文して受け取ってから適当に席に向かった。もう昼休みの時間は終わっているので、人が少なくて席は選び放題。壁際の席に座って手を合わせてから箸で卵を割った。
 誰かに見られているような気配がして、うどんを啜りながら辺りを見回した。ずるずると吸い込んでいると、私をじっと見る男が食堂の入口に立っているのを見つけた。
 黒く長い髪の目つきの悪い男だ。身動きを取ることなく、ただ私を見ている。
 なんだ文句でもあるのか、と不躾に私を見る長髪の男を睨み返していると、バーボンが髭の男を連れて入ってきた。
 バーボン! と声を上げようとしたが、私が声を出す前に髭の男が目つきの悪い男に話しかけた。そして三人連れだって私の前まで歩いてきた。

「お待たせしました」
「おかえりバーボン。そっちの二人が紹介したい人?」
「ええ。ただ僕が紹介しようと思っていたのは、このスコッチだけですが」

 チンストラップと呼ばれる頬の輪郭に沿った髭と、涼しげな目元のスコッチが朗らかに笑った。

「勝手に呼んで悪かった。でもちょうどバーボンにライを紹介したかったんだ」

 スコッチに肩を叩かれた、人相も目つきも悪い男がバーボンに歩み寄り「スナイパーをしているライだ」と言いながら手を差し出した。それちらりと一瞥してバーボンはその手を取った。

「スコッチから諜報が得意だと聞いている。また任務でほしい情報があるときに声をかけさせてもらうよ」
「ええ。僕のわかることでしたら」

 丁寧な口調なのにどことなく尊大な態度だ。謙遜は建前だけというのが透けて見えるのに、それが嫌味すぎない。ライもそんなバーボンの言動を気にする様子もない。
 スコッチとライは口々に私に「よろしく」と挨拶してきた。
 スコッチが二人にあれこれ話を振って会話を進めるのを見ながら、残りのうどんを啜った。視界いっぱいに見た目のいい男を映しながら食欲を満たす行為は充足感がすごいけど、疎外感も覚える。彼らは立ったままで顔が随分と高いところにあるから、まるで声が降ってくるよう。それにライフルの話や裏組織の情報など私もわかるけれど立ち入ってはいけない話題で見えない壁を感じる。

「あれ? 今日はご機嫌斜めですね」
「さっきまではよかったよ」

 困った顔のバーボンをツンと無視して、どんぶりとにらめっこをしているとライが鼻で笑ったのがわかった。

「嫉妬しているんだろう? バーボンが俺たちと喋っているのを見て。安心しろ、別にお前から取ったりしない」
「ははは、バーボン愛されてるな。よっ色男」
「冗談はよしてください。愛子に限ってそんなわけ……」

 私を見たバーボンと目が合った。そして驚いたようにパチリとまばたき一つ。

「別に嫉妬してるわけじゃあーりーまーせーんー。ただ、その目つきの悪い男の目がいやらしいからどっかいってほしいだけ」

 三人で話している間、やけに私のことを見てきたから適当に難癖つけてやった。するとライは簡単にその喧嘩を買った。

「そうか、なら違うところで話すとしようか。バーボンも連れて。……冗談だ、そんな睨むな」
「睨んでないし、二人とも連れていったらいいじゃない」
「まあまあ、そんな顔してる女の子を一人でごはんを食べさせられないさ。なあバーボン」
「ええ。愛子が嫌ならライを一人にさせるから安心してください」

 私のことを子供扱いするバーボンとスコッチが気にくわないので、ここは私が大人になってライの失礼な視線を我慢することにした。

「それで、バーボンたちはごはん食べないの? 何も買ってないけど」
「ああ、僕は愛子に会う前に食べてきたんで大丈夫ですよ」

 スコッチとライも同じだと頷いた。
 そして三人はスコッチを真ん中にして、私の前の椅子に座った。
 長話をするつもりか。
 うっかり嫌な顔をしてしまったのか、ライが私の顔を見てフッと笑った。ライのことをバーボンに文句を言おうとしたが、すでにバーボンはスコッチに話しかけてしまっている。
 別にライの目は私のことを探るような目ではないからいいのだけど、じっと見られたら食べにくい。さっさと食べ終えて部屋に戻ろうと、どんぶりを両手で持って残りを呷った。
 でも疑っているわけでもなく敵対心を抱いているわけでもないなら、どうして私を見ているんだろう。私が元の姿だったら一挙一動を気にするのもわかるけど、今は年端のいかない子供の姿。疑う必要もないはずだ。

「まさかロリコン……」

 思わず口から出た言葉にバーボンとスコッチが噴き出した。

「あ、ごめん」
「別に怒ってはいない」
「怒ってない人はそんな顔しないよ。本当に悪気があったわけじゃなくって」
「ホー……、悪気ではなく本心だったと?」
「だからそうじゃなくって……ってどうして私が謝らないといけないの! あなたが私のことジロジロ見てるからじゃない! だいたい、そんなに怒るって本当にロリコンだからじゃないの!」

 図星を指されたからでしょと指差した。
 笑ったままのバーボンにも苛立った。そういえばバーボンだって最初はロリコンじゃないのかと思ったし、今思えばジンがあの人相で私を攻撃しなかったのだって不可思議だ。まさかジンもロリコン……。そう考えると鳥肌がたった。

「このロリコン集団!」

 そう叫べば、バーボンが固まった。だけどそんなこと気にしている暇はない。三人から逃げるように空になった食器を持って席を立った。一刻も早く部屋に帰りたい。
 スコッチの笑い声を聞きながら、急いで食堂から飛び出した。

ヒトリヨガリ