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ノックの音とともに入ってきたバーボンは、挨拶もそこそこに「僕はロリコンじゃないですからね」と言い放った。ベッドに寝転んだままの私は、まさか部屋まで追いかけてくるとは思っていなかったので驚いてぽかんと口を開いてしまった。
そもそも昼過ぎに食堂を出てから、もう数時間経ってる。すでに窓の外は茜色に染まって夕食に近い時間。
「あ、ごめんね。つい勢いで言っちゃっただけでバーボンとスコッチのことはロリコンなんて思ってないよ」
過去に思っていたけれど今は思っていないから嘘じゃない。嘘じゃないけど、やっぱりちょっとだけ疑っているのは内緒の話。
そんなことを考えていると悟られないように、「ロリコンはライだけだよ」と言ったが、「それはそれで」と渋い顔をさせてしまった。確かに言葉を間違えたかも。だけど訂正する気はない。ライの視線が鬱陶しかったから、ライが態度を改めるまでロリコンと呼び続けてやる。
「まあいいです。……それよりも伝えておきたいことがあるんです。今後のことで」
「今後のこと?」
「ええ。前に愛子の能力を組織のために使ってほしいと言ったのは覚えていますか?」
急な真面目な話にドキリとしながらも、静かに頷いた。
「覚えているよ」
「よかった。……それで、悪いやつを探しているから手伝ってほしいんです。野放しにしていると、人を危険な目にあわせたり、……愛子がされたようなことを平気でしたりするようなやつらなんです。もちろん愛子に危険がないように僕がついているから安心してください」
「うん、わかった」
「怖くはないですか?」
「怖いけど、悪い人をやっつけたいから大丈夫だよ!」
我ながら百点満点の回答をしたんじゃないかと自画自賛した。バーボンは少し心配顔だし私もちょっと不安だけれど、伊達にボンゴレに籍を置いていない。私だってやればできる。戦えないけど。
「ねえねえ、頑張るから久々に料理作ってよ」
「え、でもここだと食堂があるじゃないですか」
「バーボンの料理が食べたいの! 食堂のごはんも美味しかったけど、今はすっごくバーボンの作った料理が食べたい気分」
今の心配げなバーボンだったらわがままを聞いてくれそうと思ったが、やっぱりすんなりと頷いてくれた。
「何が食べたいんですか?」
「なんでもいいよ」
「なんでもいいが一番困るんですけどね。キッチンにあるもので適当に考えましょうか……」
「うん! 私も一緒に行くね」
思い立ったらすぐ行動。ベッドから降りてスリッパを履いてバーボンの手を取った。流れる動きで部屋から出ると、手早く施錠して簡易キッチンまで駆け足で歩く。戸惑っているバーボンは終始無視した。
部屋から出て真っ直ぐ廊下を進み、エレベーターを通りすぎたらすぐに簡易キッチンに到着する。
るんるんと冷蔵庫を開けると、それなりに食材が揃っている。
「何が作れる?」
「そうですねえ。……野菜炒めとか、ロールキャベツとか。ああ麺があるからラーメンなんていいかもしれませんね」
「じゃあラーメンにしよう!」
「何ラーメンがいいですか?」
「醤油か味噌! バーボンはどっちがいい?」
「え、もしかして僕も食べるんですか」
「そうだよ! 一緒に食べようよ。ラーメン作るの手伝うしさ」
「……じゃあ野菜たっぷりの味噌ラーメンにしましょうか」
そう言ってバーボンは冷蔵庫からたくさんの野菜を出してきた。「ピーマンは食べられますか?」「葱は?」と聞きながら次々と野菜をざっくりと切っていく。丁寧だけど、慎重ではない手際でこれが噂の男の料理かと感心した。
手伝うって言ったのに、バーボンが言ってくるのは「お玉を持っててください」や「茹でてる麺の様子を見ていてください」みたいな、絶対に私がいなくてもいいことばっかりでつまらない。火や包丁は触らせないのはわかるけれど、もう少し手伝わせてくれたっていいじゃないと頬を膨らませていると、それに気づいたバーボンが笑いながら味見用の小皿を渡してきた。味見は大事な役割だけど、そうじゃない! と言いたかったけど味見したスープが予想以上に美味しくてすっかり毒気を抜かれてしまった。野菜の甘味が溶け出しているとはこのことか。
「さあ、できましたよ」
ラーメンを二つと、一緒に飲み物もトレーに乗せた。もちろんトレーはバーボンが持って簡易キッチンをあとにした。
味噌のいい匂いを廊下に漂わせながら部屋に戻り、壁際の小さな机にトレーを置いた。部屋にはテーブルや椅子なんて洒落たものはないので、バーボンと二人でベッドに座る。
バーボンはベッドに腰かけてラーメンを食べるのに抵抗があるようだけど、無理矢理ラーメン鉢を持たせた。きっとバーボンはベッドでお菓子を食べるなんて言語道断な人なんだろう。自堕落な生活なんてしたことがなさそう。
汚れたらシーツを替えたらいいし、ベッドサイドに小さな掃除機を置いているから気にしなくてもいいのに。
野菜たっぷりの美味しい味噌ラーメンを上機嫌で食べながら、普段の私の生活を見せたら怒られそうだと、こっそり思ってまたラーメンを啜った。
「長旅で疲れたでしょうし、今日と明日はゆっくり休んでください。明後日から、さっき言った件をお願いします」
「うん。頑張るね」
「あと、何か困ったことがあったら言ってくださいね。イタリアのときより研究所に顔を出せると思うので」
「近くに住んでるの?」
「近くといえば近くですね。イタリアと日本の距離に比べたら」
回りくどい言い方に、ふふっと笑いが漏れた。
距離にして一万キロメートル弱、時差は七時間。それに比べれば、日本のどこでも近いしすぐに駆けつけられる。
イタリアにいたときと変わらない快いやりとりに、ふっと肩の力が抜けた。
これから、どんどん組織の中枢に関わっていくとしても、バーボンが世話係でいてくれたらやっていけそうな気がした。