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金貨の行方を探したけど、見つからないまま一日が過ぎた。
構成員はアパートに戻っていないらしく物が動いた様子がない。
ボスが捕まったことを受けて、根城を変えたのかとも考えたけど、それにしては鞄や衣類が残されたまま。どちらかというと、用があって外に行ったまま帰ってきていないような気がする。
それに、逃亡犯が複数人で新居を探しに行くのは、あまりにもリスクが高い。
あえてリスクを負ってまで外に出たということは、それ相応の理由があったから。
ボスか、金貨か。
月曜日の今日。すでにボスの逮捕のニュースは出ている。ということは行方不明のボスを捜しているという可能性は低く、ボスが隠した金貨の行方を構成員が知らず、それを捜していると考えるのが自然だろう。
となると、私が広い東京でボスが隠した金貨を捜すより、構成員を捕まえて何かヒントとなるボスの残した言葉や手がかりを教えてもらう方が得策だろう。
物を捜すより、人を捜す方が得意分野だ。
そうと決まれば早速行動を開始した。
今日は運転手がいないから、都営バスに乗り込み都内をうろつく外国人を捜す。
東京にいる外国人なんて数えきれないほどいる。その一つ一つを確認しながら、記憶の中のジェンマファミリーの顔写真と照合していくのは骨が折れた。
だけどその苦労の甲斐あって、何度かバスを乗り換えて日が暮れたころ、路地裏で固まって怪しい動きをしているジェンマファミリーの構成員三人を見つけた。体格はばらばらだけど、みんな同じようにサングラスで顔を隠し、お揃いの白いスーツを着ている。一昨日追い詰めたボスも同じ色のジャケットを着ていた。
今すぐ追いかけたいけど、もちろんバスだから見つけた瞬間に降りることはできない。
降車ボタンを押して一秒でも早くバス停に停まるのを願い、停まった瞬間バスの出口にダッシュした。
彼らの目的地は、煌々と光る巨大な酒屋のネオンが屋上に配されているビルだった。
彼らがそこに着いてからしばらく経って、私はようやく追いついた。
なのに、結局私は彼らと会うことはできなかった。
そこにはすでに警察が規制線を張っていたからだ。
黄と黒のテープで区切られた向こう側で、わたわたと警察官が動き回っている。その様子はまさに寝耳に水といった感じで、ジェンマファミリーを追っていたようには見えない。
どういうことだろう。野次馬に紛れて様子を窺っていると、仕事をする大人たちの中に小さな人影を四つ見つけた。そのうちの一つは見覚えのあるものだった。
「……江戸川コナンくん?」
二日前、新幹線の中で知り合った少年がそこにいた。
距離が離れていたけど私の声が届いたらしく、江戸川くんは私の方に顔を向けて目を大きく見開いた。
「愛子ちゃん?」
「え、本当に江戸川くんだ! 本当にまた会えるなんてびっくりだよ!」
「それは僕もだよ。どうしてここに?」
江戸川くんはわざわざこちらに近づいてきてくれた。
「散歩だよ。そういう江戸川くんは何があったの? 警察と一緒なんて……」
このビルにジェンマファミリーの構成員がいたことを知っている私は嫌な予感で胸が押し潰されそうだったけど、そんな不安を一蹴するように、江戸川くんの後ろにいた子供たちがずいっと前に出てきた。
「私たち、強盗団をやっつけたの!」
「盗まれた金貨を取り返したんですよ!」
「オレたちにかかれば、これくらい朝飯前だぜ! なんたってオレたちは、少年探偵団だからな!」
「少年探偵団?」という声が、江戸川くんとハモった。
どうして江戸川くんも私と一緒に首を傾げているんだ。
「なんだよ、その少年探偵団って」
「だってコナンくん、今日、ボクたちは暗号を解いたり犯人と戦ったり、まるで探偵みたいじゃないですか」
「冒険よりそっちの方がカッケーだろ!」
「探偵は別に犯人と戦ったりしねえけどな」と呆れつつも、江戸川くんも満更でもない顔をしている。新幹線でズバズバ私のことを言い当てていたから、きっとそういうのが好きなんだろう。
それにしても――。
「少年探偵団かあ。私の、お兄ちゃんも探偵をやってるんだよ。私、助手したことあるんだ」
探偵というキーワードに、ちょっとだけ得意気な顔をして言ってみれば幼い彼らは素直
に顔を輝かせた。
「じゃあ先輩ですね!」
「……先輩ってほどじゃないけどね。私が探偵ってわけでもないし」
あまりにも純粋な目に、早くもほんの少し罪悪感が芽生える。
子供の遊びの中に、大人が混ざって本気を出してしまったみたいな気恥ずかしさで頬を掻いた。見た目だけならほとんど変わらないけど。
そんな私の気持ちとは裏腹に、彼女たちは私に親近感を覚えたようで興奮気味に名前を教えてくれた。
「私、吉田歩美」「ボクは円谷光彦です」「オレは小嶋元太だ!」
ぐっと気圧される。
今まで自己紹介は名前だけで済ませてきた。だけど、さすがにこの姿の私より幼い彼女たちがフルネームを告げたのに私が名前だけを言うのはあまりにも不自然だ。
熟考の末、もごもごと妥協の結果を口にした。
「……私は、……安室、愛子」
「安室さん?」
「あー、下の名前で呼んで? 私もみんなのこと名前で呼ぶから」
「なんだか仲良しみたいだね!」
歩美ちゃんの笑顔があまりにも眩しい。
さすがに透くんの名字を呼ばれるのは、と思って言った言葉なのに純粋に喜ばれると居心地が悪い。
私は選択を間違えたかもしれない。適当な偽名を言った方がよかったのかも。でも、咄嗟に思いついた名字をそのあと私が使いこなせるとも思えないから、その点で言えば、まだ安室という名字は聞きなれているからなんとかなりそう。ただ、透くんには恥ずかしすぎるからバレないようにしないといけない。
ただただ、心の底から彼らと透くんが出会わないことを願った。
そうこうしているうちに、ビルの方から彼らを呼ぶ大人の声がした。
「目暮警部だ」とコナンくんは呟き、「じゃあ俺らはまだ警察と話さないといけないから」と言ってビルの中に入っていってしまった。
聞きたいことはいくつかあったけど、表向きは部外者の私が規制線の向こうに入ることはできないので諦めてその場を離れた。
ひとまず私の目的だった金貨をイタリアに還すというのは警察がやってくれるから私の仕事は終わった。ボンゴレ経由にできなかったから、どこかに恩を売ることもできないけど、風紀財団の隠し財源やら組織の軍資金にならなかったからいいや。
雲雀くんはもしかしたら何か言ってくるかもしれないけど、咬み応えのあるエサを献上
すれば気が済むだろう。お金より戦闘。それが雲雀くんだ。
心配ごとが一つ消えたことと、そして週末にある楽しみなパーティのことを考えていると、頭上に輝く大きく欠けた月も笑っているように見えた。