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パーティも、目的が変われば雰囲気や客層も変わるものだな、と黒い服に身を包んだ人たちを見回して思った。
晩冬のある夜、杯戸シティホテルで開かれたのは著名な人のお別れ会だった。
私はその故人を知らないけど、招待された竜太郎さんとは親しい間柄だったらしい。それでも、そういう場に一人で行くのは気が進まないからと、私が船上パーティをねだった対価として付き添いを頼んできた。子供を連れていたら余計な歓談に巻き込まれないと、この前の鈴木家のパーティで味をしめたらしい。
外ではしんしんと雪が降っているけど、会場内は気分が重くなるほど暖房が効いている。
私と竜太郎さんは、テーブルの料理を食べながら、ふらふら人のいないところを目指して歩いていた。
「あ、クリスさんも来ているんだ……」
人混みの中、竜太郎さんが指差す先には黒いフォーマルドレスを着たクリス・ヴィンヤードがいた。シャロンさんよりキツい顔つきで、ツンと澄まして通訳の人と一緒にいる。
シャロンと違って無愛想ではあるけど、会場に花を添えるような美しさは芸能人がたくさんいる中でも際立っていて、まさに世界的大女優シャロンの娘というオーラがある。
「挨拶しに行く?」
「……ううん、会ったことないからいいや」
「そう?」
豆粒くらい小さい距離にいるクリスを見ながら、私はぼんやりと料理名のわからないジュレで和えられたサラダを食べた。何が入っているかもわからないけど美味しい。
偉い人はどうして喋るのが好きなんだろう。なんて思っていると、視界の端にこの場に似つかわしくない服装の子供が映った。
「コナンくん!」
声を上げると、コナンくんがこちらを向いた。
大きなメガネをかけていない姿に首を傾げ、そのあと彼の隣にいた少女の顔にコナンくんのメガネがかかっているのを見つけた。
「本当によく会うね! 私は今日も竜太郎さんの付き添いなんだけど、コナンくんは? 毛利小五郎さんの付き添い?」
キョロキョロあたりを見回すけど、彼の保護者はそばにはいない。
「あー、今日はおじさんは関係なくて……」
「へえ、そうなんだ」
まあ誰であれ保護者が長話を始めてしまって退屈で冒険を始めてしまったパターンだろうな。私もジンの取り引きについていって、途中で飽きて帰りたくなったことが何度もあるから、その気持ちはすごくわかる。
そんなことよりも、コナンくんの後ろに隠れてしまった少女の方が気になる。
「こんばんは。私はコナンくんの友達の、安室愛子です。あなたのお名前は?」
「……灰原哀」
竜太郎さんも、前にコナンくんにしたようにしゃがんで自己紹介すると、灰原哀ちゃんは隠れたままぺこっと頭を下げた。
随分と人見知りな子だ。
「ねえ、どうしてコナンくんのメガネをかけてるの?」
「……取り替えっこをしたんだ!」
「ふうん」
灰原哀ちゃんの顔を確かめようと覗き込んだら、怯えるようにコナンくんの背中で小さくなってしまった。なんだか私がいじめているみたいだ。
コナンくんもそう思ったのか、訝しげに「灰原がどうしたの?」と聞いてくる。
「……知り合いに似てる気がして」
「それって、……その知り合いって誰?」
「それがわからないんだよねえ。知り合いとかじゃなくて、何かで見たのかなあ。……うーん、芸能人? 灰原哀ちゃん、可愛い顔してるし」
腕を組んでどうにか思い出そうと頑張っていたら、横にいる竜太郎さんも「たしかに子役みたい」と同意してくれた。
なんだかコナンくんと知り合ったときのことを思い出した。あのときはコナンくんが私に見覚えがあると言っていた。思い出しながらコナンくんを見れば、こっちはこっちで誰かに似ているように思えた。喉元まで出かかっているのに出てこなくて頭を抱えると、その答えは竜太郎さんがあっさり言い当てた。「コナンくんは藤峰有希子さんに似てるんだよ」と。
そうだ、それだ! と、盛り上がっている間も、灰原哀ちゃんはコナンくんの後ろから出てこない。それどころか、どんどんコナンくんの服を掴む手が強ばっていった。
「……愛子ちゃんって、今日はこの前と服のタイプが違うんだね」
唐突に、そして覚悟を決めたような顔で聞いてきたコナンくんに私は目を瞬かせた。
私の今日の服も竜太郎さんが準備したものだけど、テイストはコナンくんが言うようにまったく違う。リボンタイがついたふわっとしたブラウスも黒なら、その上から着ているジャンパースカートも黒。全身真っ黒で、まるで組織の仕事みたい。
だけど、それも仕方ない。
視線を壇上の横断幕にやった。
そこにはでかでかと「酒巻昭氏を偲ぶ会」と書かれている。
「まあ、こういう場だし、この前みたいなふりふりドレスは着れないよ」
「……そうだよね。ちょっとイメージと違ったから驚いちゃった」
「そう? どちらかというと、前のパーティの方が特殊だよ。……それより私からすると、コナンくんたちが普段着な方が不思議」
コナンくんは青いカジュアルなブルゾンに明るい色のジーンズを穿いている。普段着と言ったけど、コナンくんは普段蝶ネクタイ姿なことを知っている。フォーマルな服を持っているのに着てこないなんて。
私の感想に、コナンくんは目を泳がせて「あ、はは」と愛想笑いをした。
もしかして触れちゃ駄目な話題だったか。そうだよね、コナンくんたちが服を選んでないだろうし、私の言い方だと、フォーマルな服を着せない保護者を批判しているみたいだ。
慌てて話題を変える前に、灰原哀ちゃんがコナンくんの服をくいくいと引っ張った。
「ああ、そうだな。……ごめん愛子ちゃん、俺たちもう行かないと」
「うん。あ、でも危ないからあんまりうろうろ……、って行っちゃった」
言いきる前に、二人の後ろ姿は人混みに消えていった。
「危ないって?」
「……ほら、コナンくんたち小さいから、変に動き回ってたら蹴られちゃいそうで」
口から出任せを言ってから、私はウェイターからトニックウォーターの入ったグラスを受け取った。
実はクリスさんを眺めていたとき、遠くにファルコを見かけたのだ。
武器商人がどうしてこんな場に。
マフィアと業界が公然と繋がっていることなんてよく知っているし、実際、ニューヨークのパーティでディーノさんと会っている。ファルコもそういう理由で招待されたのかもしれないけど、近寄らないに越したことはないだろう。
コナンくんは空気の読める子だけど、無鉄砲なところもあるから少し心配で声をかけてしまった。