137

 だけど、真の危険は別のところにあった。
 大勢の人がひしめき合う会場で、大胆不敵にもシャンデリアを人の上に降らせた殺人犯がいたのだ。
 まるで事前に事件が起きることを知っていたかのように颯爽と到着した警察は、拳銃でシャンデリアを撃ち落としたことを特定した。そして現場に残されていたハンカチが撃つときに手元を隠すために使われたものだということも突き止めた。そのハンカチは式の記念品として全員に配られたもので、色は全部で七色。犯人の使った紫色が手渡された招待客が容疑者ということになり、青色を持っている私と竜太郎さんは無関係と弾かれた。手持ち無沙汰になるとさっき見た幼い少年少女の心配がぶり返してきた。落ち着きなくきょろきょろと見回していると、隣にいた竜太郎さんが私の手を握ってきた。

「前ははぐれちゃったから握っておこう」
「あのときも人が多かったもんね」

 前のパーティで撒いたからさすがに警戒しているみたいだ。安心させるように透くんとは違う肉厚な手のひらをしっかり掴んだ。

「あの子たちいないね」
「うん……、どこ行ったんだろう。怪我とかしていないといいけど」
「もう外に出ちゃったかな」

 そのとき、「高木くん!」と人を呼ぶ男性の太い声が聞こえた。
 どこかで聞き覚えのある声。
 声の方に顔を向けると、茶色いスーツを着た恰幅のいい中年の警察官がいた。
 その顔に見覚えはない。だけど、その警察官が呼ばれている「目暮警部」という名前は知っている。コナンくんが呼んでいた。ジェンマファミリーのボスが金貨を隠した倉庫で。
 私はぎゅっと手に力がこもる。竜太郎さんの顔を見上げて、それから目暮警部をもう一度見た。

「あっちに行くの?」
「……うん」

 何も知らない竜太郎さんは、軽い足取りで一歩一歩目暮警部に近づいていく。
 警察になんて近寄らない方がいい。いや、私の立場なら避けた方がいいくらいだ。だけど、私はどうにか警察に近づかないといけない。
 目暮警部に近づくにつれて、口の中がからからに渇く。ずきずきと緊張で頭が痛む。手足の先はキンキンと冷えていくのに、背中には嫌な汗が滲んでいる。
 警察に近づくという行為に対してもそうだし、なにより松田の死に触れることが身体を重くする。
 ああ、今まで積極的に警察に近づかなかったのは、無意識の内に心が逃避していたんだ、なんてやけに冷静な部分が客観的にそう思った。
 でも、今、目の前にいるのに行かないわけにはいかない。
 目暮警部の横で足を止め、大きく息を吸った。

「すみません」
「なんだね?」
「えっと、私、コナンくんの友達で、ちょっと聞きたいことがあって……」
「コナンくんの?」

 言いながら目暮警部は私を見下ろした。
 どきどきと心臓が忙しなく動く。
 十一月七日に、何があるのか。警察は何を掴んでいるのか。直球に聞くことはできないけど、暴くためのきっかけが手に入るかもしれない。
 頭の中、のんきに欠伸をする松田の顔が過った。

「あの、まつ――」
「それは事件のことかね?」

 私の弱い声は、真面目な声に遮られた。
 言おうとした言葉を唾と一緒に飲み込む。

「……ううん」
「それならすまんが、他の人に聞いてくれないかい? 私は今、手が離せないからね」
「……はい」

 パチンと松田の幻影が弾けて消えた。一気に視界が広がり、周りを見てみると目暮警部のそばには話しかけようと待機している部下たちの姿があった。
 まだ犯人がわかってないんだから忙しいに決まってる。そんなことすら気にする余裕がなかった。
 反省しながらすごすごと引き下がると竜太郎さんは気遣わしげな顔で私を見ていた。
 それからしばらくして私たちは解放された。でも犯人は結局特定できなかったらしく、目暮警部は私の話に付き合う暇はなかった。

ヒトリヨガリ