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護衛を始めて一週間が経った。
普段の尾行と違って芝崎のタイムスケジュールをこちらがすべて把握しているし、狙われている芝崎は仕事以外で外出しないようにしているので私たちの手間は少ない。だけど、私はこういうじっと待つのは苦手だ。こそこそ動くのはいいけど、張り込みみたいなのはすぐに飽きてしまう。それに比べ、透くんは辛抱強く芝崎の周囲に目を光らせている。
「透くんって釣りとか得意そうだね」
「え? まあ苦手ではありませんよ」
「やったことあるんだ」
「子供のころに。男の子の遊びの定番ですからね」
「へえ」
イメージできないような、できるような。
「海?」「両方あるけど川が多かったかな」なんて会話をしながら芝崎の帰宅を見守り、今日も何事もなく終わるかと、そう思っていた。
空気が変わったのは飲み屋街に差し掛かったときだ。今日もそこには早い時間から飲んでいる大学生や、今から飲みに行くスーツ姿のサラーリーマンがいた。その中に、小さな居酒屋の前で輪になって盛り上がってる集団がいた。彼らは芝崎をちらちら見ていて、そのうち、一人がにたにた笑いながら芝崎の方に歩み寄った。
「うぇ〜い、タマナシ芝崎じゃん〜!」
「……イワケン、なんでこんなところにいるんだよ」
「なんでもいいだろ? なあ、お前、集会にも顔出さずになにしてんだよ」
「忙しいんだよ」
「はい、嘘つけ〜。おい萎えることすんなよ。さっさと撃てよ! つまんねえ、なっ!」
イワケンと呼ばれた男が柴崎を殴りかかった。それを芝崎はすんでのところで避ける。
「愛子、近くにこっちにカメラを向けている人はいませんか?」
芝崎が蹴られ、反撃した。イワケンの仲間が手を叩き口笛を吹き囃し立てる声と、近くの大学生の悲鳴が聞こえる。
そちらが気になるけど、透くんに「早く」と急かされて私は近くに分身を数体出した。
――急な乱闘に、周りの人たちは驚いて固まったり逃げ惑ったりしている。スマートフォンを持っている人は何人もいる。友達にか警察にか電話をかけている人、歩きスマホをしたまま握りしめている人。その中に、まるでたまたま居合わせたような表情をしながらも、しっかりとスマートフォンを芝崎たちに向けているパーカーのフードを目深に被った男がいた。
「透くん、左奥にいる」
私が教えると、透くんはそっちに駆け出した。
私もつられてそれについて行きながらも「え、芝崎は!?」と叫んだ。
「周りの人が助けに入っているので、僕たちがいなくても大丈夫です」
振りかえるとたしかに眼鏡をかけたサラリーマンがイワケンを取り押さえていた。
スマートフォンを向けていた中年の男は、走ってくる透くんの存在に気づいて慌てて逃げた。
「あの人が何?」
「芝崎さんに加工拳銃を渡した犯人です」
「ええ!?」
走っている間もフードを片手で押さえているためよく見えないけど、中肉中背の体型や走り方を見る限り運動が得意そうではない。透くんにかかれば捕まるだろう。安易にそう思っていたけど、犯人は迷路のような路地裏に入ったあと、隠していたスクーターに乗って見事に逃げ去ってしまった。
ナンバープレートには目隠しがされていた。さすが改造拳銃を配るだけあって用意周到だ。
透くんも、この分だと他にも逃走手段がありそうだからと言って追跡は中止した。
犯人には逃げられてしまったけど、芝崎は擦り傷で済んだのは幸いだった。