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犯人の姿が見えた次の日、透くんは犯人がスナッフフィルムを密売していることを突き止めた。「参加者が死んでも金が支払われる」と聞いたときから、改造拳銃が暴発して参加者が死んだときの映像を売り捌いている可能性を考えていたらしい。生きていたらその映像を公開してロシアンルーレットのファンを増やし、死んだらスナッフフィルムとして闇市で売る。なんともうまくやるものだ。
ちなみに芝崎を襲ったイワケンもお金がもらえるから襲ったと供述したらしい。
でもそこまでわかっても、巧妙に海外サーバーを経由していて犯人はまた特定することはできなかった。
そうこうしているうちに、再度芝崎のもとに招待状が届いた。再度挑戦しろということらしい。そして何の因果か、銃を受け取るのは並盛だった。
「え? どうして警察に任せないのか?」
「うん。だって別に警察に投げちゃえばいいじゃん。あ、透くんのやってることを否定したいわけじゃなくってね」
私はベルモットの指示でたまに新出医院に行くか、シェリーを捜すくらいしかやることはないし、メインのシェリー捜索だってベルモットいわく「ジンが固執してるだけ」らしいからあまり真剣にはやっていない。それでも誰にも怒られない。ベルモットも他の構成員もシェリーのことはたかが研究員と思っているから。
それに比べて透くんは、前から入っていた依頼に組織の仕事にと大忙しだ。
だから警察に任せない理由が気になった。
「警察は、僕たちが困りますからね。いくら僕が『安室透』でも、警察に助けてもらうのってなんだか変な感じがしませんか? それに、この事件の犯人を捜すのも組織の仕事の一環ですよ」
「そうなの?」
「ええ。拳銃の取引は組織の定番ですから、組織の縄張りに素人が入ってくる前にどうにかしたいんですよ。それに、加工拳銃なんて粗末なものが出回ると、僕たちの組織の銃の質まで疑われかねませんから。こちらは愛子が引っ張ってくれた上等な武器商人がいるのに」
「たしかに。加工拳銃を引き合いに出されて値段交渉で安く吹っ掛けてこられたら嫌だもんね」
退勤ラッシュの過ぎた夜。並盛駅構内で、私たちは芝崎を待ち伏せながらそんな話をして時間を潰していた。
「来ましたね」
芝崎は駅の片隅に設置されたコインロッカーに近寄り、あたりを警戒しながら持っていた小さな鍵を挿した。ガチャリと中から布に包まれた塊を取り出し、鞄に素早く隠した。
「愛子は、芝崎さんと同じ方向に歩く人の中でカメラを向けている人がいないか確認してください」
「うん」
かけていたサングラスの位置をなおし、分身を放つ。
芝崎は駅から出て、そのままトンネル状になった高架下に向かった。歩行者用として存在するそれは、通学路として使われることが多くて今のような時間帯はあまり利用者がいない。
だからといって通行人が来ないとも限らないので急いでカメラを向けている人を捜す。
――さすがにこの前のようにあからさまにスマートフォンを向ける男はいない。だけど、近くに植えられた街路樹の下で電話をしている、キャップを被り赤ぶち眼鏡の男の顔が芝崎を向いていた。その表情は真剣で、偶然そちらを向いているわけではなさそうだ。
――眼鏡のツルが一般的なものより太い気がしてよく見ると、キラリと光る小さなレンズがあった。
「透くん、あの木のところにいる中年の男、眼鏡に隠しカメラ仕込んでる」
「それでしょうね。僕はそっちを追うので、愛子は芝崎さんをお願いします」
「はーい」
二手に分かれて駆け出す。
芝崎の元に駆け寄り、もう大丈夫と言おうとした瞬間、感じた強い殺気に私は飛び退きながら顔を上げた。
そこには、トンファーを手にして悠然と立っている雲雀くんがいた。
「それ」
「あ、うん。例の改造拳銃だよ」
「そう。彼が犯人?」
「違うよ! 被害者! 犯人はあっちで……」
勢いで犯人の方を指差してから、「しまった!」と叫ぶ。向こうに透くんがいるのに教えてどうするんだ。
すでに雲雀くんは犯人を咬み殺すために地面を蹴っていて、私はややこしいことにならないようにそれを追いかけた。
私たちの三十メートルほど先で、透くんが犯人の腕を捕らえた。そのまま地面にうつ伏せに押し倒し、両腕を背中でクロスに押さえつけ、その上に透くんはのしかかっている。
彼らが立ち止まったことにより、雲雀くんと私はあっという間に差を詰めた。
「僕の並盛で、なに群れてるの」
胸の前でトンファーを構えて戦闘モードに入っている雲雀くんを見て、透くんは目を見開き、それからキッと睨むように眉間にシワを寄せた。
「……雲雀恭弥」
透くんも犯人の上から立ち上がり、迎え撃とうとファイティングポーズを取る。
一触即発な雰囲気に私は頭を抱えたくなった。
「透くん! け、警察来たから雲雀さんに任せて私たちはもう行こうよ」
私は、走って透くんの腕を掴み距離を取らせようとした。
そして幻術で物陰に男を作り出し、それっぽい動きで姿を現させた。私に想像力はないから、その容姿は、前にイワケンを取り押さえた眼鏡のサラリーマンをモデルにしている。ちょうど似合いそうだったから。
雲雀くんに「あとは任せた」とアイコンタクトを送ったけど、ツンと顔を逸らされてし
まった。だけど雲雀くんなら本物の警察が来るまで犯人をボコボコに殴っていてくれるだろうから、取り逃がす心配はない。犯人の身の安全はもうこの際無視する。よりにもよって並盛を選んだ自分を恨んでほしい。
透くんはというと、私が警察の名前を出したからすんなり動いてくれて、ちらりと幻覚の警察官を横目で見て「か、」と声を上げた。
「か?」
「いえ、なんでもありません」
透くんはもう一度後ろを振り返り、それから幻覚の警察官を見て険しい顔をした。
もしかしたら、透くんはイワケンを取り押さえていたサラリーマンを覚えていたのかもしれない。透くんなら覚えていても不思議じゃない。
やっちゃったなあ。雲雀くんと透くんを近づけないことばかり意識していた。
透くんが深く考えないことを願いながら、家に着くまでどうでもいい世間話を振り続けた。