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「ってことがあって、すっごく焦ったんだよね」
場所は黒耀の公園。そよそよと初夏の風が吹いている。
木陰に設置されたベンチに少年と肩を並べて座っていた私は、一連の改造拳銃事件の顛末を話し終えて手に持っていたペットボトルのお茶をぐびっと飲んだ。
私が話している間、ずっと手土産のチョコレート食べていた少年が「ちゃんと誤魔化せたんですか?」と私を疑ってきた。
「まあそれなりには」
透くんは、犯人を捕らえたあの夜、私に「どうして愛子はあのとき現れた男性が警察だと思ったんですか?」と聞いてきた。よく考えれば当たり前の疑問だ。あのサラリーマンの男はスーツ姿で、制服警官でもないのに私が警察と判断するのはおかしい。とりあえず「事件現場で警察と一緒にいるところを見たから警察と思ったけど、よく考えたら違ったかも」と返事をした。
「そんな杜撰な言い訳に付き合うなんて、安室透という男も案外考えが浅いのか、それとも特別子供に甘いのか……」
「私が築き上げた信頼のおかげよ」
「あなたと信頼関係を結ぶ時点で能力の程度を察してしまいますね」
「透くんをバカにするならチョコレート返してもらうよ。わざわざ私の友達の好物を聞いてくれたから貰ってきたのに」
「それなら僕は、『そんな生意気な口をきくなら、みーくんは消しますよ』って返しましょうか?」
彼は可愛い無垢な顔で、悪党みたいな表情を浮かべた。
「そもそも、小学生の藤森みつるの姿である必要はありませんよね?」
「そうだけど……。でも年の近い子と遊ばないと透くんが心配するんだからしかたないじゃん。私が会ってるのは骸じゃなくてみーくんなの」
「はあ、甘いですね」
言いながら、またチョコレートを摘まんだ。
この前コナンくんに押しつけたのと同じように、依頼人からもらったものだ。骸が日本に来ると聞いて、みーくんの姿になってもらう報酬として献上した。
骸が中学生のころに憑依契約した小学生、藤森みつる。今、彼はもう青年といっていい年齢だし、わざわざこのために憑依してもらうのは申し訳ないからあくまで私の横にいるみーくんは骸が幻術で姿を変えたものだ。
姿を変えるのなら骸と一緒に日本に来ているクロームちゃんでもよかったんだけど、ふてぶてしい骸が無垢な小学生のフリをしているのを見たかったから骸を指定した。
だというのに、骸はまたみーくんらしからぬアンニュイな表情をした。
「でも、あなたが言うように慎重で計画を立てるのが得意な人間だとするなら、そうやってあなたが油断するのをじっと待っているのかもしれませんよ。愛子には想像もつかないと思いますが、スパイとしてひと所にとどまり続け、そこで妻子を持ち死ぬまで密偵し続けることができるような人間も世の中にはいるのですから。愛子には無理ですが」
実際に無理だけど、そんなにダメ押しをされるとむかつく。私は骸にあげたチョコレートを二つ取って両方口に放り入れた。
「家の中で油断しきっていませんか?」
「してないよ。ちゃんと毎日盗聴器を調べてるし。ボンゴレ製の発見器で見つからない新機種高性能なら知らないけど」
「機械が万能とは言いきれませんよ。ちゃんと手と目で確認しなさい」
「……はあい」
とはいっても、あの部屋は透くんが常に整理整頓しているから無駄なものなんて何もない。調べるところなんて少ないのだ。
散々バカにされて、最後の最後で骸は捕まった犯人の話をしてくれた。
曰く、犯人は人が死ぬのを見るのが好きでそういうコミュニティに属していたところ、見知らぬ人物からロシアンルーレットを持ちかけられたらしい。今日の犯人と改造拳銃の黒幕はインターネット上でのやり取りだけで実際の接触はなし。もちろん黒幕の手がかりを掴むこともできなかった。
それが並盛で使われた銃と同じだということがわかっただけでも儲けものなくらい黒幕は何も情報を残さない。それでも一応はロシアンルーレットの犯人は捕まったため、次第に世間はその存在を忘れ、姿の見えない影は事件の多い大都市の喧騒の中に紛れてしまった。