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都内某所にある繁華街は、昼間は複数の大使館を有するオフィス街として機能しているけど、夜になると姿を一転させる。クラブやキャバクラのネオンが夜空に浮かぶ雲を染め、酒、女、薬、暴力、様々な欲望が渦巻いている。
そんな犯罪者の坩堝にあるホテルのジャズバーは、子供の私には不釣り合いすぎる高級感が漂っている。
艶のあるキャラメル色のヌメ皮ソファーに座って顔を突き合わせているのは、私とジンとウォッカだ。ジンが泊まっているホテルに呼び出されたのだ。一難去ってまた一難とはよく言うけど、本当に一つ心配事が晴れたら嫌な呼び出しをくらうものだ。
バーテンダーがカクテルの説明を終えて立ち去ると、ジンは「シェリーの手がかりが見つかった」とニヤリと口元を歪めた。
「え、結局東京にいたの?」
ジンが見つけるほど近くにいたなんて。
驚いて背もたれから体を浮き上がらせると、ずっと黙っていたウォッカが口を開いた。
「東京かはわからねえが、宮野明美の家に留守番電話を残していたんだ。今度逆探知を仕掛けてみる」
「ふうん」
そんな迂闊なこと、これだけ組織から逃げ切れている人がするとは思わなかった。身の危険よりも明美さんの家に電話をかけるくらい妹さんは明美さんのことが好きだったのか、それともやっぱり協力者が完璧に匿っているだけで彼女自身はあまり逃亡に慣れていないのか。
私は目の前にあるロンググラスに入ったノンアルコールカクテルで渇いた口を潤した。報告のためにわざわざ私を呼びつけるわけがない。何か次の指示があるはずだ。それが、シェリー捜索の任を解かれることを願ったけど、ジンが言ったのは私にとって最悪なものだった。
「アマレット、お前は電話番だ」
思わず見開いてジンを見た。
「留守番電話がいつかかってくるかはわかってない。俺がそれに付き合う暇はない」
「私もそんなに暇じゃないよ」
「別に四六時中、あの女の家にいろと言っているんじゃねえ。電話がかかってくるのは夜だから見張りは手が空いてるやつらにやらせる」
「……いや、余計に私必要なくない?」
今までだって夜中に仕事をしているけど、そんな無意味な仕事は初めてだった。目を使わないなら私である必要はない。
「口答えするのか?」
ぎろりと鋭い目で睨まれた。ジンの目はまるで蛇のように本能的に逃げ出したくなる恐ろしさを持っている。だからその目に睨まれた取り引き相手はいつも及び腰になる。
だけど私はまったく怖くなかった。ジンは組織に背く人間には容赦はないけど、私にそういう意志がないことをジンはよく知っているからわざわざ利用価値のある私を折檻することはない。
私は冷静に自分の意見を伝えた。
「いや、口答えっていうか意味のわからないことをしなくないだけ。今までと違って、私はバーボンについてふらふらしてるわけじゃないからね」
「意味ならある。シェリーが電話をかけてきたときにアマレットが居合わせたら電話を取れ。そうしたら、姉の知り合いと油断させて情報を吐かせられるだろ」
姉を恋しく思っている少女に血も涙もない。だからこそ、ここまでジンは確固たる地位を築いたのだろう。
つまり、私がこの仕事を断れるはずなんてなかった。