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「私も瞬間移動してみたいな〜!」
「いいですね! 僕は仮面ヤイバーのように人々の危機に一瞬で駆けつけたいです!」
「じゃあオレはキッドみたいにご飯屋に忍び込んで鰻丼を食べてえな!」
「おいおい元太、キッドはさすがに無銭飲食はしねえよ」

 帝丹小学校の近くの大通りを歩いていると聞こえた賑やかな子供たち会話に、マフラーの下で笑いつつ近寄る。
 後ろを追いかける私に気づかない彼らは、「キッドは盗ったものを返すんだから鰻丼も返さなくちゃだめでしょ」と脱線したまま話を進めている。

「そもそも昨日のやつはショーは瞬間移動だから、あのトリックじゃ元太くんはご飯屋さんに忍び込めないよ」

 ひょっこりと大股で近づいて声をかければ花丸元気な三人組が「愛子ちゃん!」と声を揃えて驚いた。しっかりもの二人組は私がタイミングを見計らっている間に気づいたらしく平然と挨拶をしてくる。

「ねえ愛子ちゃん、あのトリックじゃダメってどういうこと?」

 歩美ちゃんが首を傾げるので、テレポーテーションについて教えてあげた。
 英語だとテレポーテーションとひとくくりにされるけど、日本語だと瞬間移動と空間移動で使い分けるのだ。昨夜キッドが繁華街の往来でビッグジュエリーのついたミュールを奪って一瞬で逃げたのは瞬間移動。元太くんのように扉や鍵の閉まった区切られた空間に忍び込むなら空間移動ができないといけない。

「そういや、愛子ちゃんって手品ができるんだったな」
「じゃあ愛子ちゃんも瞬間移動とか空間移動ができるの?」
「歩美ちゃん、あれはキッドだからできることで、ただの小学生には無理ですよ」
「そうだぜ。できてるなら今ごろテレビに引っ張りだこで鰻丼食い放題だろ」
「……ご期待に添えなくてごめんね」

 幻術でも私は空間移動はできない。だからといって、光彦くんと元太くんの言い方はカチンとくるけど。
 キッドの手品の技術もすごいけど、私の種も仕掛けもない幻術だってすごいんだぞ。と、心の中で対抗心を燃やす。

「で、愛子ちゃんは、また病院?」
「ううん。もうしばらく病院は行ってないの。米花市は遠いし、お兄ちゃんが電車に乗ってまで遊びに行くなって」
「じゃあどうして?」

 大きな眼鏡の奥で、くりくりした目に好奇心の色がつく。
 こういうところは、クリスマスを心待にしている子供のようで可愛らしい。黙っていればあれこれまた自慢の推理を聞かせてくれるのだろうけど、今日はこのあとも用事があるから素直に答えを教えてあげた。

「今日はコナンくんに会いに来たの」



 前まで怪盗キッドに興味はなかったけど、ニュースでよく犯行を見聞きするとになると、キッドの手品は、ただ人を笑顔にさせるエンターテイメント性の強いパフォーマンスなんかじゃなく、どことなく戦いの要素を感じさせるものだと気づいた。よく考えてみればキッドの片手にはよくトランプ銃が握られていて、いくら警察を相手取るとはいえ宝石を狙った怪盗が持つにはあまりにも物騒だ。
 もしかすると、彼も白いマントを脱いだ姿は真っ黒だったりするのかも。そう思うとなかなかキッドのことが気になった。
 いつもは予告日に用事があったり、当日に予告が出ていることを知ったりしてタイミングが合わなくて、ショーを直接見たのは船上パーティの一瞬だけだった。今回だって、キッドがミュールを盗んだあとのニュースで犯行を知った。だけど昨夜盗んだのは片足分。左足は偽物だからと盗まず、今晩所有者の鈴木財閥相談役と再対決することになった。
 シェリーの件から降りた私は時間に余裕があるから、ショーを見に行くことを決め、どうせならより楽しもうとキッドキラーのコナンくんにキッドの話をしてもらうために訪ねたのだ。

「子供は身長が違うからキッドだって変装できないって思ってたんだけど、そのときは――」
「じゃあ、私こっちだから」

 次々にみんなが別れていき、ついに最後の一人だった灰原哀ちゃんも分かれ道で向きを変えた。
 コナンくんは「おう」と軽く挨拶を返しながら、そういえば、と私を見た。

「僕は蘭姉ちゃんとおっちゃんと一緒に行くけど、愛子ちゃんはどうするの? 車は空いてるから一緒に乗せていってもらえると思うけど、このあとすぐに行くから向こうで結構待つことになるんだけど」
「予告って遅い時間だったよね」

 まだ小学一年生が下校する時間。せっかくの申し出だったけど、夜ごはんも食べたいから断った。
 だからといって一人で夜まで時間を潰すのもつまらないなと悩んでいると、灰原哀ちゃんから救いの手が差しのべられた。

「それじゃあ私と一緒に来る?」
「え? 灰原と?」

 私以上に驚いているコナンくんに、灰原哀ちゃんはじとっと目を細めて睨む。

「いや、だって……」

 何か言おうとしたコナンくんは、ちらっと私を見て口をつぐんだ。だけど、そこまであからさまな態度を示したら「お前、愛子のこと嫌ってたじゃねえか」とかそんな感じのことを考えたのが手に取るようにわかる。
 ちょっとだけ悲しいけど、縁もゆかりもない歳上の人なんて敬遠するのは当たり前だ。それなのに歩み寄ってくれるなんて、すごくいい子だ。

「江戸川くんのせいで、あの男が鬱陶しいのよ」
「ああ、そういう……」
「さすがに、友達を連れてきたら家に来ないでしょ」
「うーん、いや、あの人なら気にせず押しかけて来そうな気もするけど」
「……さっさと追い出してよね」

 いい子、かな。
 どうやら私は何かに利用されるらしい。隠すことなく交わされるやり取りはなかなか生々しいけど、「家の押しかけてくる男」の存在に驚いてしまってショックはまったく受けなかった。

「え、哀ちゃん、ストーカーに遭ってるの?」
「昴さんはストーカーなんかじゃ――」
「似たようなものよ」

 コナンくんの言葉に被せて言いきった。
 コナンくんも完全に否定はできないみたいで、なんとも言えない表情で頭を抱えた。

「哀ちゃん。私、あんまり頼りないかもしれないけど、哀ちゃんよりは身体も大きいし力も強いと思うからストーカーが現れたら相手は任せて。急所は習ったことがあるから」

 ずいっと一歩近寄ると、灰原哀ちゃんはぱちんと瞬きした。初めて会ったとき女優に似ていると思った顔はやっぱり年齢のわりに完成されていて、幼い身体とのアンバランスさが何か惹き付けるものを感じる。ストーカーの一人二人いても不思議じゃない。だからといって子供に危害を加えていいはずはない。
 かならず守ってあげるから。
 不埒な犯罪者をぎたぎたにやっつける想像をしながらぐっと力を込めると、ふっと灰原哀ちゃんが力の抜けたような笑みを浮かべた。

ヒトリヨガリ