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 バーボンとライの仲の悪さは昔から周知の事実だったので、ライが死んだ今、バーボンがライに固執していても誰もその理由を気にしていない。だけど当事者たちと一番近い距離にいた私にはずっとスコッチの影が見えていた。
 スコッチが死んだあとから、私がライの名前を出すたびにバーボンは何かトゲトゲした大きなものでも無理やり飲み込むような不快感を露にするようになった。だから薄々、バーボンがライを嫌う理由はそれじゃないかと気づいていたけど、そのたびに私はスコッチはスパイだからそんなわけないとその考えを打ち消していた。
 ボンゴレだってマフィアと思えないほど甘い人が多いけど、始末されたスパイのことを悲しむことはあっても始末した人間を恨み続ける人はきっと少数。
 バーボンがスコッチを思う気持ちは、獄寺くんや山本くんを傷つけられたときの綱吉みたいで、まるでスパイじゃなくてファミリーを奪われたよう。まさに快斗くんが言っていたように大事なものを壊された人の死に物狂いの復讐に思える。
 もし本当にそれが理由なのだとしたら、バーボンの心根はあまりに綺麗だ。
 軽薄そうな顔に似合わず情に厚いことは知っているけど、一度懐に入れた人に対してここまで肩入れするなんて、私には眩しすぎて息苦しくなる。



 街に流れるジングルベルのリズムに合わせて歩いていると、米花百貨店のロゴが大きくプリントされた紙袋がガサガサ音を立てる。中身はクリスマスフェアで買った可愛い砂糖菓子の包みがたくさん入っている。少年探偵団や知り合いに配るのだ。
 いつ渡そうかと考えながら駅に向かっていくと、人の流れに逆らうように突き進む背の高い男の人が視界の端に映った。
 急用でもあるのかな。と、なんとなく顔を向けると、それはこんなところにいるはずのない見知った人物だった。
 トレードマークのニット帽ではなくキャップを被っているけど、癖のついた前髪も肉付きの薄い輪郭も死んだはずのライにしか見えない。
 離れていく男の足は早いけど、周りより背が高いから見失うことはない。人混みを掻き分け追いかけ、人の少ない路地に入った男の腕を掴んで引き止めると、彼は勢いよく振り返った。
 間近で確認して、やっぱりライだったと確信した。その顔には大きな火傷の痕があり肌が引きつっている。撃たれて燃やされたと聞いていたのに、両方から生き延びてその怪我だけで済むなんて、どれだけ強運なんだろう。
 堂々と往来を歩いていたライもさすがに組織の人間に会って動揺したのかグリーンの瞳が揺れた。

「まさかまた会えるなんて。ニューヨークで言い逃げ去れてから、ずっと言いたいことがあったの」

 口を開こうとしたライを制すように大きく息を吸うと、興奮して昂っていた心臓が少しだけ落ち着いた。

「バーボンは、神なんかじゃない」

 ライは口を閉じ、きゅっと眉間にシワを寄せた。

「捕まった私を助けるために無茶をしたら怪我をするし、大切な人が死んでも生き返らせられない。私よりできることが多いだけの等身大の人間だよ」

 裏切り者のスコッチを赦すのはたしかに普通にできることじゃないけど、ライのことを恨んでいてもこうしてライが無事に生きているのが私と同じ無力な人間である何よりの証拠だ。

「それにバーボンは私を導いたりはしないよ。ただ選択肢を与えてくれるだけ」

 だいたい、最初に私がベルモットを女神に喩えたのは見た目の美しさだ。性格や行動は関係ない。
 言い切って、「ふん」と腕を組んでライを見上げる。ライは呆気にとられているのか何も言わない。それどころか微動だにもしない。倍以上の嫌味でも返されると思ったから拍子抜けだ。
 薄暗いビルの谷間に冷たい風が吹いて身体が一気に冷える。
 売られた喧嘩を返すときをずっと待っていた私と違って、ライはそんなことを言ったことすら忘れていたのかもしれない。そう思うと、一人で熱くなっていた私がバカみたいだ。
 クールぶったライが気に入らなくて、私は腕に持っていた紙袋からビニールの包みを一つ取り出して、「じゃあね、シュウくん。メリークリスマス」と押し付けてから路地から飛び出した。
 前にひどく嫌がったその呼び方だったからか、それともプレゼントがファンシーなラッピングに包まれたサンタや雪だるまの砂糖菓子だったからか、最後に見えた顔は嫌そうに口を結んでいて、その表情に溜飲を下げる。
 もしまた会うことがあれば、ライのこともシュウくんのことも水に流して、赤井秀一として接してあげよう。

ヒトリヨガリ