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「ほら、じゃあ今日の目的を終わらそう」
手を叩いて気持ちを切り替えさせると、少年探偵団の三人は街行く人たちにチラシを配り始めた。
「何でも相談してください!」
「難事件も解決するよ!」
「俺たち少年探偵団って言うんだぜ!」
可愛い子供の姿に、駅に向かう人も微笑ましく見守ってくれている。
三人から遊びに誘われることは度々あるけど、保護者であるコナンくんや哀ちゃんのいない探偵ごっこは、廃墟の不法侵入とかサングラスをかけた大男のストーキングとか見ていて胃を痛めるものだった。無計画に事件を探すのは徒労だからと広報の大切さを説いて、どうにか今日の活動はチラシ配りだけに落ち着かせた。
配る場所は久保田がよく出演していたライブハウス近く。こんなことで久保田の情報が集まるとは思っていないけど、チラシを面白がって受け取ってくれる人が多そうだから三人に場所のアドバイスを聞かれたときにここを選んだ。
思ったとおり一時間ほどでチラシはもう残りはほとんどなくなった。これがなくなれば、今日の子守りは終わりになる。
「困ったことがあれば僕たち、少年探偵団におまかせください」
光彦くんが二人組にチラシを渡した。
受け取った長髪の男は「へえ」という反応だったけど、もう一人のギターケースを背負った男がニヤニヤ笑いながら受け取った男を肘でこつく。
「相談してやれよ」
「別に困ってないだろ」
「あいつのこと言ってやれよ」
こそこそと言い合うが、ギターケースの男の声が大きくて光彦くんが食いついた。
「え! 何か事件ですか!?」
その声に歩美ちゃんと元太くんも集まってくる。
「い、いや……」
「おいおい言ってやれよ。こいつら事件解決したいみたいだし」
ギターケースの男は少年探偵団では無理だと舐め切ってる。それに勘づかないほど三人は鈍感ではない。すぐに喧嘩を買ってギターケースの男を威嚇した。
彼らの反応を見た長髪の男は、溜息をついてチラシに目を落とした。
「別にお前らに言ったってしかたねえんだけど、知り合いが音信不通になったんだよ」
「いつからですか?」
「もう数ヶ月も前だ」
彼らが少年探偵団には手に負えないと思ったのも頷ける。普通に失踪事件だ。
私たちの出る幕ではないけど三人は「事件だ!」と盛り上がっている。だけどそれに水を差すように、横を通りがかった女性が「って言っても、タンクボって放浪癖だかんねえ」と声をかけてきた。
「え? 放浪癖だっけ?」
彼らと知り合いらしく、長髪の男は彼女の突然の登場を気にすることなく尋ねた。
「前も知らない間に一人で北海道行ったことあったじゃん」
「あー、あったなあ」
「でもそれだけじゃない?」
「意味もなく一人でふらっと北海道行くのはやばいっしょ。連絡つかなくなるのは前からあったし」
女性は平坦なトーンで話し、ズレたベースケースを背負い直す。
「クボタンってそういうとこあるよなあ」
「この前の飲み会ぶっちしたの、いまだに根に持ってるんだよね〜」
「いや、それはクボタンの奥さんが体調悪いって連絡あったじゃん」
「そだっけ?」
少年探偵団をそっちのけで行方不明の男の話で盛り上がる三人に、子供たちはだんだん機嫌が悪くなっていく。
「で、行方不明なのはクボタンなんですか? タンクボなんですか?」
「タンクボはこいつだけが呼んでて」
「だって可愛いじゃん」
「他のやつらはクボタンって呼んでる。行方不明だけど、北海道はともかく前からそういうことはあったし別に事件じゃねえよ」
長髪の男が少年探偵団を宥めようとする。彼は冷やかしが苦手な真面目な性格みたいでしきりに話を終わらせたがっているけど、にやにや笑ったギターケースの男が「でも今までは一週間とかだろ」と煽る。
最初はめんどくさそうな男だと思っていたけど、今はそれがありがたい。
私は子供たちが余計な口出しをする前にクボタンと呼ばれる男についていくつか質問をして、それから最後に北海道に行ったのがいつだったか聞いた。
三人は顔を見合わせて唸った。
「あー……、ほらあれだ、えっとシャロン・ヴィンヤードが死んだあと」
「ああ、だから傷心旅行とか言われてたんだよね〜」
「結局帰ってきたクボタン、シャロンって誰って反応だったけど……」
シャロンが死んだときということは北海道に行ったのは一年半も前のこと。
今度は私が腕を組んで唸る。
行方不明、奥さんがいる、音楽をやっている彼らの知り合い。そしてクボタンというあだ名がクボタからついたものだったら、それは久保田正也のことになる。久保田が北海道に行ったという情報はキュラソーからは聞いていない。もしかするとそこに手がかりがあるのではないかと思ったけど、それにしては時期が離れている気もする。
「なんだよ愛子、そいつの居場所がわかったのかよ」
「あ、ううん、ごめんこれだけの情報じゃわからないや」
探偵の助手の私にはわからないや、と透くんがよくやるように首をすくめれば、子供たちは「なーんだ」と私から視線を外した。
「きっと北海道一周でもしてるんだろ」
長髪の男の言葉に、子供たちは「奥さんがいるのに?」と納得しなかったけど、私がベースケースを背負った女の人にもチラシを渡して無理やり話を切り上げさせた。
「ほら、今日は宣伝がメインなんだから、少年探偵団の存在を広めなきゃ」
彼らと話している間にすっかり夜になってしまった。長時間、外にいる子供たちはすっかり身体が冷えている。早く終わらして帰さないと。
そんな私の気配りは必要なかった。
「でも僕たち、パンフレットに載るんですから、こんなことしなくても有名人になれますよ」
三人はもう飽きた、と気だるそうにチラシをもてあそびだした。どうやらチラシ配りは刺激が足りなかったらしい。
子供らしいといえば子供らしい反応だし無事に子守りが終わった私としては大助かりだけど、それにいつも付き合う精神年齢の高いコナンくんと哀ちゃんのことを思うと、その苦労が忍ばれた。