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「どこのお店で買いますか?」
米花百貨店の子供服フロアに着くと、透くんは私の肩をポンと叩いて好きな店を選ぶように言ってきた。
明るい色や可愛い柄、フリルやリボンに囲まれた甘い世界は昔は抵抗があったけど、何年も着ているうちにだいぶ慣れた。特に今日は組織の仕事のための服を買いに来たから、少女趣味的な服は選ばなくていいから気が楽だ。
ふらふらと歩いて見て回りながら落ち着いたテイストの商品を試着しては透くんに選んでもらう。
キュラソーから久保田正也が北海道に行った痕跡を見つけたと連絡をもらったのは今朝のことだった。消されたメッセージの中に、北海道に住む誰かに接触して何かの取り引きを試みるものがあった。細かいやり取りは電話で行っていたようなので復元はできず、私とキュラソーは痕跡を辿りながら久保田正也の取り引きの内容を探ることを余儀なくされた。
真冬の北海道でのあてのない捜索。服もそれに適したものになる。もこもこのムートンブーツの底には滑り止めがついているし、マフラーや手袋、耳当てのついた帽子はしっかり風から肌を守ってくれる。寒波がきたときに備えて透くんは分厚いインナーまで買った。
「お腹すいた〜。ちょっと休憩しない?」
お昼は家で食べてきたし、透くんのおかげでてきぱきと買い物は進んでいるけど、それでも何度も試着をしているとどんどん体力がなくなっていく。
透くんは、両手いっぱいの紙袋を持ったまま腕を伸ばして袖口から時計を確認して、難しい顔を浮かべた。
「あとはアウターだけなので、先にそれを買いましょう」
ええーと文句を言いそうになったけど、荷物は全部持ってもらっているし、カフェに行ってからこのフロアに戻ってくるのは面倒。そもそも今買っているものは私の必要なもの。私より透くんの方がずっと疲れているはずだ。そう思うと不満は引っ込んだ。
だけど、アウターを探してフロアをぐるりともう一周したけど透くんが納得するものは見つからなかった。
「これもダメなの?」
もこもこの暖かそうなアウターを手にとる。中にはぎっしりと綿が入っていて寒いところでも通用しそうなのに、透くんは首を横に振る。
「愛子は野外で見張りをすることが多いので、中綿よりもダウンの方がいいんです」
「……中綿とダウンって何が違うの?」
「中綿は中に詰まっているのが化学繊維の綿で耐水性に優れています。ダウンは水鳥の綿毛のことで、毛と毛の間に空気を溜め込むので保温性が高いんです」
「へえ。中綿の方が寒いんだ」
「普通に旅行するだけなら中綿でも十分なんですけどね。水に強いから雪がついて融けても平気ですし」
と言いながら、透くんは違う棚のアウターのタグを見る。
「それはダウン?」
「ええ。でも、撥水加工がされていないのでダメですね。あとは首元とか手首が絞まっている形がいいんですけど……」
「ないね……」
「見た限り、ここはタウンユースのものばかりですね」
透くんは見ていたタグから手を離した。
結局この階にはないだろうと諦めて、一度カフェで休憩してからアウトドア用品のあるフロアに移った。
外で活動することを前提にした服は、機能性は抜群だけどデザインは無骨なものが多い。カジュアルなデザインは好きだけど、さっき買った小物や中に着る服のことを考えるとあまり合わない。
唸りながらハンガーにかかったアウターをあれこれ吟味していると、今度はさっきと逆に透くんの方が手持ち無沙汰になった。
「ごめんね、もうちょっとかかるかも」
「ええ、かまいませんよ。せっかくだからショッピングを楽しんでください」
にっこりとそう言われても、せっかくの休みをこんなことに潰させるのは気が引ける。
「ああ、僕がいたら気になりますよね」
「あ、いや、そういうわけじゃないんだけど」
「外のソファーで待っているので、ゆっくり選んでください」
お会計のときに呼んでくださいね。と言い置いて、透くんはさっと去っていった。
別に邪魔なわけじゃなかったけど、休憩してくれるのなら私も安心して買い物がでてきる。
一人きりになって何度も棚と鏡を往復して、やっと持っている服に合いそうなチャコールグレイのダウンコートを見つけた。膝丈でタグを確認したら撥水加工も施されている。
鏡の前で後ろ姿を確認したり動きを確認したり、くるくる回っていると、鏡越しに見覚えのある顔が映った。
「あれ、高木刑事?」
「え? 愛子ちゃん?」
二人して変な格好で停止して、首を傾げあう。
「一人?」
「ううん。保護者は外で待っている」
見えない透くんを指差せば、高木刑事は苦笑いしてそちらに向いた。きっと、高木刑事には荷物持ちに疲れた保護者の姿が見えているのだろう。
「そういう高木刑事は? 仕事?」
「いや、今日は非番だから買い物を」
高木刑事は片腕にかけているアウターをちょっと持ち上げた。
私も真似して羽織っているダウンの裾を持って「私と一緒だね」と見せる。
「暖かそうだね」
「北海道に行くから、それ用なの」
「えっ? 愛子ちゃんもかい?」
「高木刑事も?」
「ああ、今週ね」
偶然だね、と言いながら鏡の前を譲ってダウンコートを脱ぐ。
交代で試着した高木刑事は、肩回りだけ具合いをみて満足そうに頷いた。それから少し思案して「愛子ちゃんはそれだけ?」と聞いてきた。
「うん。他はもう買ったから」
「じゃあ保護者の方のところに一緒に行こうか。僕も挨拶をしておきたいからね」
少年探偵団は警察と関わりが多すぎて、仲のいい刑事たちと保護者は何度か顔を合わせていると聞いていた。その流れの延長線で、私と何度か関わりのある高木刑事は保護者である透くんに顔を見せておきたいのだろう。
試着でよれた服のシワを伸ばして、まるで今から結婚挨拶にでも行くかのようにかしこまっている高木刑事に、挨拶はいらないと断っても「だけど……」と無作法を気にする。それは大人として立派な感覚だ。だけど私だって警察を透くんに紹介するなんていたたまれないことをしたくないから、私は高木刑事が先に店を出ていくまで隠れてから透くんを探すはめになってしまった。