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薄暗い待ち合いスペースで、一人ぽつんと行き交う人を見ていた。
東京都の警察の総本山である警視庁は、警察署と違って外部の人はほとんどいないからサイズも色も異なる私は浮いている。厳めしい顔つきの人たちにちらちら見られながら、私もみんなが首からぶら下げているIDカードがぷらぷら揺れるのを眺めていた。
私が少年探偵団にお願いしてまで敵陣に乗り込んだのは、そろそろ松田の同期に会いたいと思ったからだった。松田の今際の言葉を伝えたい。ずっとそう思っていたけど、爆弾犯が捕まるまではそちらが気がかりで、しかも相手が警察ということもあって積極的に探すことはなかった。だけど事件も終息し、警察と関わることを許された今、きっかけさえあれば警視庁に行きたいと思っていた。
都内には警察官が四万人以上いる。私が探している人が警視庁内にいるかどうかはわからないけど、とりあえず彼らがどこに配属されているかだけでも調べよう。そう考えていたのだ。つい数分前までは。
はあ、と吐いた息が固い床に跳ね返ることなく転がっていく。
重い頭はだんだんと下がっていき、視界に入った足元にちょこんと見えた可愛らしいパンプスが、今の心境と不釣り合いすぎて笑みさえこぼれてしまう。
「伊達さんなら、一年前に亡くなったよ」
それが、数分前に言われた言葉だった。
松田に近そうな年代に当りをつけて声をかけてみれば、まさに同期の教育係が伊達航さんだった、という男性だった。
幸先がいいなと思ったのは一瞬で、事故で亡くなったと教えられてから、すっかり気分は沈んでいた。
「あれ? 愛子ちゃん、どうしてこんなとこに」
ヒールが床を叩く音が私の目の前で止んだかと思うと声をかけられて、私はゆっくりと顔を上げた。
「えっと、由美さん?」
たしか子供たちがそう呼んでいたはず。
半年前に佐藤さんから軽く紹介をされたけど、そのあとは少年探偵団と一緒にいるときにたまに声をかけられて挨拶する程度の関係だったから名字は忘れてしまっていた。
由美さんは名前で呼ばれたことなんてまったく気にすることなく、「ああ」と何かに気づいた様子で天井を仰いだ。
「高木くんの件?」
「うん。本当は少年探偵団のパンフレットの撮影について来たんだけど……」
「災難ねえ」
生暖かい目に苦笑いを返す。
「あの、進展は?」
コナンくんたちと別れてからそんなに時間が経っていないから期待はしていなかったけど、やっぱり由美さんは残念そうに首を横に振った。
「タブレットが改造されているから発信元の特定も難しいし、充電もできないからタブレットの画面をビデオカメラで撮りながらヒントがないか調べているみたい」
由美さんは心配そうに目を細めたあと、きゅっと唇を噛んで私をまっすぐに見た。
「こんなこと愛子ちゃんに頼むのもあれなんだけど、美和子のこと気にかけてやってくんない?」
「佐藤さんを? どうして?」
「あの子、大切に思っていた人を何人も亡くしてて、そのせいで死神が憑いているんだって思い込んじゃって。でも東都タワーで高木くんが助かったおかげで、それもおさまっていたんだけどね。……もし、高木くんがこの事件で——」
言葉は掠れて途中で消えた。
だけどその続きはなんとなくわかった。もし高木刑事がこの事件で命を落としたら、その理由に佐藤さんが関係なくても佐藤さんは自分のせいだと自責の念に苛まれるだろう。
そんなことになったら、やっと松田のことから立ち直った佐藤さんがまた闇に飲まれてしまう。
ぎゅっと手を握りしめると、伸びた爪が手のひらに刺さる。その痛みで脳内の霞が晴れた。
やらないといけないことはたくさんあるけど、今、私が一番強く思うことは、松田を佐藤さんの枷にしたくないということ。
松田の残した傷は、誰かの前に進むきっかけになってほしい。間違ってもとどまる原因にはなってほしくない。
そのために私は何をすればいいのだろう。