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私だって過剰な反応をしてしまったという自覚はある。子供に、知り合いが殺されるのを見せてしまったという負い目があるのもわかる。だけど何度も何度も言外に大丈夫かと聞かれると、そろそろ鬱陶しい。
翌朝、ホテルをチェックアウトして大月さんの喫茶店に入ることなく通りすぎたときもバーボンは私の方を見た。いつもの涼しげな顔に心配の色が混じっていた。
最初は申し訳なくて、それからだんだん嬉しくなって、そして今はもうめんどくさくなってしまった。大丈夫だよと笑えば気丈に振る舞っているのかと心配顔になり、何も反応しなければ物思いに耽っているのかとまた気がかりそうな顔になる。
研究所に戻ったら、すぐに「一人になりたい」と言って部屋に戻った。心を砕いてくれるのは本当に嬉しいけど、バーボンがいるとゆっくり大月さんを偲べないのだ。羽織っていた深い緑のカーディガンを無造作に椅子に投げてからベッドに潜り込み、毛布を頭までかぶって目を閉じた。
まぶたの裏に焼き付いている大月さんの笑顔が、私にこのままでいいのかと聞いてくる。
私は人を傷つけるためにマフィアの道を選んだのではない。友達の笑顔を守りたくて、綱吉の率いるボンゴレに入ったのだ。それなのにどうして私はこんな人を人と思わないような組織にいるのだろう。できることなら今すぐイタリアに帰りたい。
ぐっと枕を掴んで顔を押しつけた。なによりも悲しいのは涙が出ないことだった。
私の甘い考えを知っている綱吉は、私の潜入先をきちんと選んでくれていた。だから一般人を巻き込む側になるのは久しぶりのことで、大月さんが死んだことにとてもショックを受けた。だけど涙は流れない。昔だったら泣いていたはずなのに、どうしてか涙は出てこない。なんて酷い人間になってしまったのだろう。
「愛子」
バーボンの声とともにノックが響いた。沈んでいた気分を浮上させる、優しい声だった。その声を聞いた途端に、さっきまで頭の中にめぐっていたイタリアの景色は払拭された。まぶたを開ければ、いつもどおりのホテルみたいな私の部屋。
返事をしない私に痺れを切らしてバーボンが入ってきた。手にはコンビニの袋をぶら下げている。
「起きていますか?」
ベッドに寝転んだまま、バーボンに目をやればバッチリ目が合った。
「朝ごはんを買ってきました」
「もう昼だよ?」
部屋の時計は十一時半を示している。
それでもバーボンは私にコンビニ袋を差し出してくるので、ベッドから起き上がりそれを受け取った。よじよじとベッドの縁に移動して、毛布の中の足を床に下ろす。足の裏にカーペットの毛が当たって少しむず痒い。
袋ごと渡してきたけれど、バーボンの分は? と首をかしげて聞けば「僕はいりません」と返されますます首を曲げる。
「このあと報告に行くので、ここで食べている暇はないんです」
「時間ないのにわざわざ買ってきてくれたの?」
目をパチパチさせてコンビニ袋を見ると、白い袋から透けて中のサンドイッチが見えた。
「そんな顔している愛子を置いて行くほど、僕は冷たくありませんよ」
「うん。……知ってる」
バーボンが買ってきたサンドイッチはベーコンレタストマトだった。
「……何か嫌いなものが入っていましたか?」
サンドイッチを持ったまま動かない私に、バーボンが躊躇いながら声をかけてきた。
「……ハムサンドだったんだ」
「え?」
「喫茶店で食べようと思っていたサンドイッチ」
「それなら今度買ってくるときはハムサンドにします」
「バーボンは作ってくれないの?」
笑ってバーボンを見れば、バーボンは顔をしかめて「サンドイッチは苦手なんです」と小声でもらした。
サンドイッチみたいな簡単なものを苦手と言うなんてバーボンらしくない。そう思って何が苦手なのか聞くと、「うまく切れないんです」と苦虫を噛みつぶしたような顔をした。それとは逆に私はポカンと口を開いてしまった。
「うまく切れないって。それくらい別にいいじゃん」
「いえ、切るときにレタスが飛び出すとせっかく作ったサンドイッチが不味く見えてしまうでしょう? 料理は、味より見た目や他の情報で美味しいと感じるんですよ」
「確かにそうだろうけど、レタスをはみ出すくらいで大袈裟な……」
つくづく真面目な人だと呆れてしまった。手作りのサンドイッチからレタスが数枚飛び出していたって愛嬌なもんだろうに。
じゃあ切らずに大きな四角のままで食べればいいじゃないと言おうとしたけど、きっと見映えが悪いと言い切られそうだから言うのをやめた。それに、「特に愛子にはちゃんとしたものを食べさせたいですし」と言われると何も言えなくなってしまった。
バーボンは私の頭をぽんぽんと撫でると「それじゃあ、ちゃんと食べるんですよ」と言い残して部屋を出ていった。
ぽつんと一人でベッドに腰かけて、そういえばさっきバーボンは、もう大丈夫か伺うような目をしていなかったなと気がついた。それもきっとバーボンの優しさなんだろう。不安な出来事に直面すると、人は平穏を求める。だから、あえていつもどおりの会話をした。
サンドイッチを買ってきたのも全部バーボンの優しさで、組織にいても優しいままでいられるんだと知れた。
結局、このまま私が酷い人になってしまうのかどうかは私によるんだ。組織もボンゴレも関係ない。私が私のままでいられたら、バーボンみたいに優しいままでも生きていけるのだろう。
サンドイッチを軽く握りながら、明日は雲雀くんに会いに行ってみようと思い立った。