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 生で見た三谷原裕紀はたしかにイケメンだったけど、あくどい表情のせいでかっこよさは半減されていたと思う。最近、三谷原が出演したドラマの役は愛を知らない殺人者だった。三谷原とは違い、傷ついたような顔をするキャラクターだった。影のある演技がうまい俳優さんだと思っていたが、まさか本当に裏の顔を持つ人だったとは。
 次の任務に向かう車の中で、ウォッカに三谷原裕紀の話を振ったが反応は薄いし、ジンは相変わらず鼻で笑ってくる。もう少しコミュニケーションをとる努力をしてほしい。

「ねえ、どうして三谷原って人はあんなにSPを連れていたの?」
「そんなこと知らねえよ。……おいおい、あんまり取引相手に首を突っ込むな。まさか惚れたなんてことはねえだろうな?」
「もうウォッカ、冗談きついよ。ちょっと気になっただけじゃん」
「それならいいが」

 演技をしている三谷原はかっこいいけど、さっきの三谷原は薬物しか興味のない廃人のようであんな人間を好きになれるはずがなかった。
 ウォッカが教えてくれないということは、これ以上三谷原の情報は集められないかと諦めかけた、そのとき。私の横に座るジンが重い口を開いた。

「あいつは、俺たちに負けず劣らずのことをしているから、ビビって護衛をつけているだけだ」
「負けず劣らず?」
「敵が多いってこった」
「ふうん」
「それより、なんでそんなに三谷原のことが気になる? 何か気になることでもあったのか」

 ギラリと光る目で睨まれた。
 気になることと言えば、幻術が跳ね返されたことだけど、そんなことをばか正直に言えるはずない。千里眼が使えないことを知られれば、今の立場が危うくなる。
 頭を働かせて、「いっぱいSPいたから何かに狙われてるのかなって思っただけだよ」と無難な返事をした。ジンは私の返事に満足したのか、それ以上深く話を聞いてこなかったが、少ししてから急にコートから携帯を取り出してどこかに電話をかけた。

「至急、三谷原裕紀について調べろ。……ああ、最近何かに巻き込まれたとか、現在何かに追われているとかだ。……ああ」

 一方的に喋って電話を切り、そのままウォッカに「マンションへ帰る」と低い声で指示した。
 私もウォッカもぽかんとしているが、やはり慣れているのかすぐにウォッカは気を取り直してUターンした。
 何かあったのか聞いてみたが、念のためだとしか答えは返ってこない。私は、その「念のため」が何なのか知りたいのに。

「情報が返ってきたら追って連絡する」
「へい」

 サクサクと予定が決まるのは見ていて楽しいけど、おいてけぼりはつまらない。場合によっては私が困るから、早く何をしようとしているのか教えてほしい。もし、さっきのホテルで戦闘になったら私は使い物にならなくなる。それだけは避けたい。

 「ねえ、ねえ」と甘えるようにジンに話しかければ、鬱陶しくなったのかようやく口を開いた。

「前からSPを侍らす小心者だったが、今日はやけに多かった。もしかすると、お前が言うように狙われているのか、……それともつけられているのか」
「つけられている?」
「サツやマスコミだ。あいつだけが捕まるだけならいいが、もし俺たちのことを喋られたら厄介だ。捕まる前に始末しねえとな」

 にやりと口元を歪めたジンに背筋が凍った。私は始末されないように気をつけよう。
 とりあえず始末をするだけなら問題がなさそうで安堵した。いつもジンは任務の様子を見せるだけで私に手を出させようとしない。三谷原を始末することになっても、今までどおり見ているだけだろう。
 車は幾度となくカーブを曲がり、もう見慣れてしまったマンションの前に到着した。
 車から降りるとき、軽い電子音が響いた。発信源はジン。
 もう結果が出たのかと思ったが、電話に出たジンはピクリと動きを止めた。
 何かの報告を受けているらしい。一言も発していないジンの機嫌がどんどん下がっていくのが手に取るようにわかる。ウォッカも身体が強張った。

「そうか。俺は用事があるから代わりのやつを向かわせる」

 結局ジンはそれだけ言って電話を切った。
 私がジンの名前を呼ぶのに被せるように、少し強い語調でジンがウォッカを呼んだ。

「へ、へい」
「裏切り者だ」
「俺が始末して来やしたらいいですかい?」
「いや、それは別のやつにさせる。お前は死体の確認だけしてこい。いいか、必ず死体が合っていることをその目で見てこい」

 不可解な命令に私とウォッカは顔を見合わせて首をひねった。だけどジンは説明する気はないらしい。
 裏切り者の始末はすでに何件も見ているけど、いつもなんとも言えない気持ちになる。色んな考えで組織を裏切り、そしてその願いが届くことなく死んでいく。
 今まで見た、恐怖と後悔の滲んだ幾多の顔を思い出した。
 少しでも気持ちを軽くしようと車から出て外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。決して綺麗な空気とは言えないけど、それでも車内よりは澄んでいた。

ヒトリヨガリ