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このまま降り続けるかと思った雪が止んだ。
映画撮影班は続きのシーンを撮りに、服部少年は捜査の続きをしにホテルを出ようとするのでこっそりと追いかけた。
玄関から出ると、今まで感じなかった寒さが襲い掛かってきた。吹雪がおさまったとはいえ風は依然として強く、木々の間を吹き抜けてきた風がヒュオーと音を立てている。顔に当たる細かい雪が痛い。無防備な首元を守るためにダウンの襟元をぐっと上げたけど、それくらいでは冷気は防げない。
しかたない。あたりに人が少ないことを確認して幻術を使った。頭上に透明の板を出現させ上からの雪を防ぎ、そして寒さを少しだけ和らげる。あまり板を大きくしたり、寒さを和らげたりし過ぎると周りにばれてしまうからほどほどに調整しないといけない。完全に寒さを取り除くことはできないけどないよりはマシだ。
じりじりと様子を見ながら服部少年とその幼馴染みの少女に近づいて「あの!」と意を決して声をかけた。
二人は同時に私を見た。
「どうしたん? 迷子?」
少女が心配そうに膝を曲げて私の顔を覗き込んできた。少女の後ろにいる服部少年はめんどくさそうな表情をしている。
「迷子じゃないよ。お兄ちゃんが探偵だって聞いたから追ってきたの」
服部少年を指差して言えば、嬉しそうな表情に変わった。ダメ押しで「すごい探偵なんでしょ!」と付け加えると、にんまりと笑った。わかりやすすぎる。
「誰に聞いたか知らんけど、目の付けどころがいい嬢ちゃんやな」
「愛子だよ」
「俺は服部平次や。まだ駆け出しやけど将来有望な探偵のたまごやから、よう覚えときや。こっちは遠山和葉や。別に俺と違って探偵でもないから覚えんでいいで」
「ちょっとなんでやの! 愛子ちゃん、よろしゅうね」
和やかな自己紹介に胸をなで下ろした。ずっと喧嘩腰の服部くんを見ていたからすんなりと話が進んで安堵した。
しかし安心も束の間。服部くんは「じゃあそういうことで」と私を置いて捜査に繰り出そうとする。早く謎を解き明かしたいのだろうけどそれでは困る。
慌てて服部くんの服の裾を引っ張った。
「ねえ服部お兄ちゃん、四年前のこと調べてるんだよね。本当に雪女じゃなくて人間がやったの?」
雪女か、雪女に扮した術士がスタントマンを殺して、そして吹雪に混じって消え去った方が私にとっては不自然がなくすっきりする。「雪女」「マフィア」「死ぬ気の炎」。そんな言葉が頭の中をぐるぐる回る。
しかし服部くんは嫌そうに顔を歪めた。
「アホか。雪女なんかおるわけないやろ」
「どうしていないって言い切れるの? 雪女も幽霊も、いないって証明できる人なんていないのに」
「……まあせやな。でも、少なくともこの事件の犯人は人間や」
服部くんはガシガシと頭を掻いた。
「仮に雪女やとしたらリフトの上で殺す必要ないやろ。わざわざ不可能と思われるところで殺したんは、自分が捕まりたくないからっていう浅ましい人間の考えや。万が一、雪女がたまたま不可能犯罪を作り出してもたとして、銃で殺すか? 雪女はその銃どうやって手に入れてん。……まあ、あとは明らかにトリック使ったあとがあるんやけど、それはまだ言われへんわ」
服部くんの言い分はとてもわかった。たしかにそのとおりだ。
銃に関しては、術士なら入手できるが、それこそ幻術で殺してしまえば足がつかないのに、銃を使う意味がない。能力を持っているのに疑われるような方法を取るのは変だ。
そう考えれば、なるほど犯人はリフトの上でしか自殺に見せかけることのできない能力のない者だとわかる。
「わかったか」と聞いてくる服部くんに首肯した。
このまま服部くんについていこうと思ったけど、ピンと何かの気配を感じた。
視線だ。殺意はないが、じっとりとした熱を感じる。
その先を追うと、そこにはビデオカメラをかまえた女性がいた。スキーゴーグルで顔はわからない。
彼女のかまえているビデオカメラのレンズは私たちの方を向いている。
うわ、カメラだ、と慌てて顔を隠そうと手が動いたけど、そんなあからさまなしぐさをしては無駄に怪しまれる。幸い今はダウンの襟で首元を隠しているし、ニット帽も深めに被っている。私を撮っているわけではないのなら、ただの背景の一部でしかないだろう。
そう思ってもカメラのレンズが気になる。
同行するのはやめにして、二人にお礼だけ言って踵を返してホテルに駆けていった。