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「みんな黒色が好きなの?」
「別に好きなわけではないですが……」

 右手にアイスクリーム柄のガーリーなスカート、左手にジャージ生地の黒いスカートを持ちながらバーボンに聞けば、歯切れの悪い返事が返ってきた。
 ヴェネツィアに着いたものの、ベルモットは私の荷物なんて準備していなかったものだからバーボンと一緒にディスカウントストアに来ている。ベネチアの、それもサン・マルコまで来たというのに日本にもあるファストファッションブランドなのはもったいないけど、馴染みのあるデザインが多くて安心する。
 ベルモットはというと、店の前で「じゃあね」と言い残し、私をバーボンに押しつけてどこかへ行ってしまった。男の人と二人で服を選ぶより、女の人と選んだ方が絶対に楽しいのに。
 それにバーボンの持つレジカゴにはすでにパステルカラーの可愛らしい下着が数着入っている。ベルモットの前で着替えたときとは違って、心を無にして乗り越えなくてはいけなかった。

「黒色じゃない服を買っても怒られない?」
「怒られはしないですよ。……でも、みんなと会うときや、ちゃんとしたときは黒色の服がいいでしょうね」
「みんなと会うとき? みんなって?」
「ああ、愛子はまだ僕とベルモットにしか会っていないんですね。これからは他にもいろんな人と会うことになります。そのときは黒色の服を着てください」
「ふうん、じゃあ黒を買った方がいい? でもこの黒のスカート可愛くないんだよね」

 両手に持ったスカートを見比べて、やっぱりアイスクリーム柄のスカートをバーボンの持つカゴに入れて、左手の黒のスカートは棚に戻した。
 代わりに五歳の女の子が選びそうな黒の服がないか店内を探す。私が本当に五歳だった頃はピンクの服や、キラキラしたスパンコールのついた服を着ていた。黒色の服なんて発表会のときくらい。それだって全身真っ黒じゃない。
 黒と白のギンガムチェックのブラウス、黒地に白の丸襟のブラウス、柔らかいチュール生地の黒のスカート。選んだ服を見比べる。これくらいだったら五歳の女の子が着そうかな。黒の割合は少ないけれどしかたがない。これが組織と私の妥協点なのだ。
 選んだ服がバーボンに見えるように腕を上げた。すると服を見たバーボンは無言で頷いてカゴを近づけてきたので三着を入れた。ヴェネツィアに滞在する間なら、黒い服はこれだけあれば充分だろう。
 カゴに入った服を見たバーボンが「他にも欲しいものがあるなら買ってもいいですよ」と言ってくれたので、大喜びでアイスクリーム柄のスカートに合う服を探して店内を歩き回った。
 真っ赤なワンピースが目について、それを手に取ろうとすると割って入るようにバーボンが口を開いた。

「愛子は何色が好きなんですか?」
「うーん、空の色が好き」
「空の色? 青や水色のことですか?」
「うん。それに夕方の赤やオレンジや紫色も好きだし、雨の日の白や灰色も好きだよ」
「そんなにたくさん好きな色があったら、服を選ぶときに迷いますね」

 一緒に服を物色しているバーボンが赤と水色の服を見せながらそう言ったので、私は迷わず水色の服を手に取った。

「迷わないよ! だって一番好きなのは水色だから。綺麗で優しいから好きなんだ!」
「水色が優しい?」
「優しいよ。青空はみんなを包んでくれるんだって」
「何か本にでも書いてあったんですか?」
「ううん、そう言ってる人がいたんだ」

 バーボンから受け取った服を見ながら綱吉を思い出す。綱吉はいつまで経っても中学生のころの優しいまま変わらない。だからこそボスの使命である調和をうまく行えている。普段はあんなに頼りないのに。
 この服は綱吉の大空の水色とは少し色が違う。大空の鮮やかな水色とは違って少しくすんでいる。この落ち着いた色合いの水色、どこかで見た気がするな。
 自分から話を振ったのに、あまり興味のない様子のバーボンを見上げてその正体がわかった。

「バーボンの目」
「え、何か言いました?」
「バーボンの目も水色だ。じゃあ、バーボンの目は優しい色の目ってことになるね」
「そう言われると、なんだか恥ずかしいですね」

 そう言うけど照れた様子も見せないので、悔しくてどうにかそのポーカーフェイスを崩したくなった。だけどかっこいいなんて絶対に言われ慣れているだろうし、他の褒め言葉だって今まで飽きるほど言われてきたはず。
 うーんと頭をひねっていると、疲れてグズっていると誤解したバーボンがひょいと私を抱き上げた。
 急なことに驚いて「わあ!」と声を上げながら、バランスを崩さないようにバーボンの襟をぎゅっと掴む。収まりのいい場所を探して体勢を整えてみると、ずいぶんバーボン顔が近くにあることに気づいた。
 そうだ、いいこと思いついた。

「バーボンありがとう。バーボンがお世話係でよかった。これからよろしくね」

 よしよしと、小さな手を伸ばして頭を撫でた。
 それなのに、やっぱりバーボンは動揺することなく「こちらこそ、よろしくお願いしますね」と、大きな手で私の頭をひと撫でした。そして逆にあやすように体を揺すられ、私の方がいっぱいいっぱいになってしまった。

ヒトリヨガリ