62
連日ニュースでは今年最高気温だ、何県では観測史上最高気温を記録しただとこぞって放送している。
憎らしく思うほど眩しい晴天の今日。私はロッシに会いにいつもの神社に向かっている。
じりじりと肌に射す日差しは痛いくらい強い。ベルモットに渡された日焼け止めがなかったら、今ごろバーボンとお揃いのこんがり小麦色に焼けていた。
これでも夏本番ではないのだから嫌になる。
麦わら帽子のつばを少し上げ、空を睨んだ。
バーボンのアドバイスどおり、神社に行く前に、参道にある洒落たカフェに寄りアイスコーヒーとレモネードをテイクアウトした。そのとき店員さんに不思議な顔をされるのは慣れたものだ。
両手に持ったプラコップに気をつけながら歩くこと三分ちょっと。ロッシの待つベンチに到着した。
「ロッシ、お待たせ」
「おー」
こちらを向いて手を上げるロッシに右手のコップを差し出す。首をかしげるロッシに「相談のお礼」と教えると、「ああ」と納得して受け取った。そして勢いよく吸い込んだ。
「ふうん、うまいな」
「でしょ。ロッシってコーヒーにうるさそうだから、ちゃんと調べたんだよ」
すごく偏見だけど、ロッシみたいなタイプのワーカホリックはコーヒーにこだわりを持っていそう。だからネットの口コミを参考に店と豆を選んだ。
「小さいのに偉いな」
笑顔でがしがしと頭を撫でてもらった。大人だったら当たり前なことを手放しで褒めてもらえて嬉しい。ほくほくしながら私もレモネードに口をつけた。
「レモネードも美味しい」
甘酸っぱくて、歩いて疲れた身体に染み渡る。
ゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいると、ロッシが無言で手を差し出してきた。少し悩んでレモネードを渡すと、それを小さく一口吸い込んだ。
「あま」
「はちみつたっぷりだから」
「子供ってはちみつ食べてよかったか?」
「それ、乳児のやつでしょ」
「そういやそうだった」
ゆるく、内容のない会話が心地よい。暑さでばてた身体にちょうどいいテンポだった。
参拝客が私たちの前を行ったり来たりしていく。
その人混みにまぎれて、またあの視線を感じた。
「なんか見られてねえか?」
ロッシの言葉に驚いた。まさか一般人なのに視線に気がつくなんて。
「う、うん。この前からつけられることがあって……」
「それって大丈夫なのか」
「大丈夫じゃないけど、でも気配に鋭いお兄ちゃんでも犯人を見つけられなかったからどうしようもないなって思って」
そう言うと、ロッシは「よし」と膝を叩いて立ち上がり、私とロッシのゴミを捨てたあと私の前に背を向けてしゃがみこんだ。
「乗れ」と言うので背中に覆いかぶさろうとしたけど、すかさず「肩だ」と言われてしまった。
言われたとおり素直に首を跨いで乗ったら、ぐんっと視界が高くなった。
「う、うわあ!」
思わずロッシの髪を掴んだ。もじゃもじゃの髪は、想像よりしなやかで触り心地がいい。
「これで犯人探せよ」
「ええ……。荒っぽいやり方ね」
確かにこれなら遠くまで見渡せる。だけどそれは私の存在が遠くからでも見えるということでもある。
「もうここにいるのがバレてるなら、目立とうが何しようが一緒だろ」
「まあそうだけど、あんまり犯人を刺激するのもどうなの」
「そのときは俺が守ってやるよ。こう見えてもボクシングやってたんだぜ?」
言われてみれば、私のお尻の下にある肩は筋肉質でがっちりしているし、私を担いで動きだしてもふらつくことなく体幹がしっかりしている。
「それに、追われるより追えって言うだろ」
「言わないよ。それ、ロッシの恋愛観?」
ちょっとしたジョークなのに太ももをつままれた。
それから視線の感じた方に進んでいくが、やっぱり犯人は見つからない。ただの平和そうな人たちが歩いているだけ。
参道の端まで歩いても、不審者はいなかった。それに前と同じようにいつの間にか気配はなくなっていた。そこでしかたなく探索は終えたけど、実体の掴めない気持ち悪さがずっとついて回った。