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明美さんとは月に一度、前に会ったときと同じあたりの日にちで遊ぶことになった。明美さんは組織から監視されているので、私が組織に報告する前に許可の連絡がきた。組織がどういうつもりで私と明美さんを会わせているのかわからないけど、逆に指示がないのだから好きなように明美さんと過ごした。明美さんは組織の仕事とはまったく関わっていないので、話す内容も一般人のそれと同じだ。
三回目のおでかけは公園のそばのホテルでアフタヌーンティーを楽しみ、夕方に明美さんと別れた。普段は明美さんがバス停まで送ってくれるけど、今日は透くんが仕事帰りに迎えに来てくれるというので心配する明美さんを宥めて一人で公園に残った。日は落ちたけどまだ人も多いし、不審者くらいどうにかできる。
別れて十五分くらい経ったころ、透くんから連絡がきた。公園に隣接する川の向こう側
にいるらしい。歩いてそちらに向かった。
川幅は五十メートルもない程度で、向こう岸の建物もよく見える。公園の近くには学校や住宅街が密集しているので、コンクリートでできた橋の上にはたくさんの人がいた。制服姿の高校生が自転車で往来し、買い物袋を片手に子供を連れた母親や、散歩している老人がのんびり歩いている。
橋の中腹あたりを越えると白い車が見えた。透くんの車だ。
ほんの少しだけ足を早めて、水面を眺めながらお喋りしている女子中学生の横を通りすぎる。彼女たちはきゃらきゃら笑いながら片想い中の部活の先輩の話をしていた。
秋の暖かな日差しに、楽しげな声。
平和な日常にゆるんだ表情は、次の瞬間に反響した破裂音で急変した。
――パンッ!!
空気を揺らす震動が鼓膜を突き刺し、びくっと身がすくんだ。続けざまに、もう二発、背後から同じ破裂音が響いた。
――銃声だ!
そう思った一拍あと、事態を飲み込んだ周囲は悲鳴に包まれた。みんな必死の形相で逃げ惑う。銃声は背後の公園の方から聞こえてきたので、みんな私を追い越して透くんのいる方に走っていく。
一度音が止んだあと、狙いを定めるように間を置いて銃声が響き渡る。
橋の向こうで、透くんが車を降りたのが見えた。
「愛子! 早くこちらに、その橋が狙われています!」
透くんの言うように一刻も早く橋を渡りきらないと危ない。それでも私は振り返って後方を確認した。お喋りしていた中学生が、まだ私を追い越していなかったからだ。
思ったとおり、彼女たちはパニックになってその場にしゃがみこんでいた。
私は地面を蹴った。走る先は、透くんではなく中学生。
透くんの切羽詰まった声が背後から飛んできたけど、そんなものに構ってられない。そのときの私はアドレナリンが全開だった。
人影のなくなった橋の上で伏せていても意味がない。犯人から丸見えだ。
――分身を公園に飛ばすと目深にキャップを被り体格を隠すようなオーバーサイズのマウンテンパーカーを着た男が木陰から橋に向かって銃を構えていた。
間に合え、間に合え! と限界を越えて短い足が縺れそうになりながらも、なんとか転ぶことなく彼女たちのもとにたどり着いた。
――男が、トリガーを引いた。
秒速三百メートルのスピードで放たれたその弾は彼女たちと男の間に体を滑り込ませた
私の太ももを突き刺した。
「あ゛あ゛っ!」
衝撃で弾かれるように体が跳ね、中学生の上に倒れこんだ。
灰色の地面に、赤く細かい飛沫血痕が散る。
じくじく、ぎりぎり、どくどく。
熱された鉄を打ちつけられたような痛みとともに、まるでそこに心臓があるかのような強い脈拍を感じた。
溢れ続ける生暖かい血が、下半身だけでなく上半身までもぬるぬるぬちゃぬちゃ服を濡らして汚していく。
一般人の多い中で、幻術で反撃するわけにはいかない。私にできるのは、身を挺して彼女たちの盾になることだけ。少しも傷をつけないために、できるだけ私の体を彼女たちに被せる。
相手は素人だ。動かない標的を狙っているのに当たったのは私の太ももに一発だけ。他は欄干や打ち捨てられた自転車に当たっている。
なんとか意識を保ったまま犯人の動向を監視する。
――すべての弾を吐き終えると、男はすぐさまその場から走り去った。
「っ、透くん!」
喘ぐように透くんを呼ぶ。
胴体ではないとはいえ、銃で撃たれたのだから悠長に説明していられない。だけど、きっと透くんならわかってくれる。
痛みで歯を食い縛る。脂汗が額に浮かぶ。
早く追いかけて、と犯人が去った方を指差すが、透くんは私のそばに膝をついた。
「そんなこと、どうでもいいです‼ 警察はもう呼んでます、今止血しますから絶対に動かないでください!」
どうでもよくない。平和を脅かす人間を野放しにはできないよ。
そう思うのに、私は何も言えず、何もできない。
透くんが私の足の付け根をベルトで縛るのを見ながら、ふわりと意識が遠退いていった。ぷつりと視界が真っ暗になり何も聞こえなくなる寸前に、透くんが焦ったように「寝るな!」と叫んだのが聞こえて謝りたかったのにそれもできないまま、私は意識を失った。