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 療養生活のお供としてもらったシロクマは抱えて寝ているうちに愛着が沸き、子供らしくクオレと名前をつけた。あまりにも子供っぽくて透くんに言ったら笑われそうだから、心の中で呼ぶだけにとどめている。
 一人で留守番していても寂しくはなかったけど、確かにクオレはいい退屈しのぎだった。あり余った子供の体力を乗りかかったり抱き締めたりして発散している私を見て、透くんも満足そうにしていた。
 そういう風に幕開けした自宅療養は、ひどく穏やかなものだった。
 基本的に私は寝たきりで必要なことはすべて透くんがしてくれる。毎日の傷の手当ては当然のこと、透くんが仕事に行っている間に私が必要になりそうな飲食物は事前にベッドに寝たまま手の届く範囲に置かれているし、もはや看病というより介護のようにお風呂にも入れてもらっている。抵抗することは早々に諦めた。座っていても自重で傷が痛むのだから洗ってもらった方が楽なのだ。交渉の末に透くんは服を着たまま一緒に入っているから、まさに入浴介助。動揺したのは初日だけ。
 組織へは透くんが連絡をしたので仕事は回ってこない。そのため透くんは私からスマートフォンを取り上げて、代わりに勉強のテキストや本を渡してきた。最初の何日かは我慢して大人しくしていたけど、文明の利器に慣れすぎた私には穏やかな時間の流れがじれったくて、薬を飲んで痛みが引いたタイミングでベッドから抜け出し、机の引き出しの中からスマートフォンを取り出した。
 かける先は雲雀くんだ。
 すぐに電話に出た雲雀くんから今回の犯人が使ったものが並盛で使われた改造拳銃だということは判明したと教えてもらった。だけど、どこからのルートからかはわからなかったと言う。
 「貰い物」。そう犯人は供述したらしい。犯人は高校生だし銃の腕も素人。裏のルートではないだろうと雲雀くんは推測しているけど、そのわりに出どころは不明のまま。釈然としないけど私の管轄じゃないからあとは雲雀くんに任せた。
 その後、雲雀くんから並盛の最近の細々とした話を聞いていると玄関が開く音がした。
 慌てて電話を切ってスマートフォンを物陰に投げ入れたそのすぐあとに透くんが部屋に入ってきた。そしてクオレに寄りかかって地面に座っている私を見て顔をしかめた。

「ただいま。……どうして床に座っているんですか?」
「おかえり。ちょっと寝すぎて頭が痛くなっちゃって」

 へらっと笑って誤魔化すと、透くんは短く溜め息を吐いた。そして私の目の前まで近寄って屈み、私の脇に手を差し込む。
 まさか、と思っている間に私の体は持ち上げられ「ひえあ」と情けない悲鳴が口から飛び出た。
 もう随分と身長も伸びたのに、透くんはまるで赤子のように私を抱えるとそのままベッドに下ろし、床に跪いて私のパジャマの裾をめくった。傷の手当てがしやすいようにワンピースタイプを着ているから、ぺろんと脚の付け根ぎりぎりまで空気にさらされた。

「こ、これくらい大丈夫だよ? 全然痛くなかったし」
「痛くなくても傷に障ります。治りが悪くなりますよ」

 透くんは沈痛な表情でそう言うと、包帯をほどいて血が出ていないか確認した。

「それに傷痕が消えなくなったらどうするんですか」

 銃に撃たれたのだから安静したところで痕は残る。そのことはシャマルさんからも言われている。だけど透くんが言いたいのはそのことではなく、治ったあと傷痕が目立ってしまうことを懸念しているのだろう。

「……ごめんね」
「いえ、僕も心配しすぎですよね。自覚はしています。……でも、愛子は何をしでかすかわからないから気が気じゃないんです」
「うっ」

 いつもの口うるさい透くんになら反抗できるのに、しおらしくされると何も言えなくなる。
 透くんは術士でもないのに、その丸い頭の上にしゅんと垂れた動物の耳が見えた。
 仕方なく、いそいそと布団に潜り込んで、大人しくしていますというアピールをしてみせた。
 その甲斐あってか透くんはすぐに普段どおりに戻り、さっき私が寝すぎで頭が痛いと言ったから「寝すぎで頭が痛いのは脱水症状なので、水を飲んだらましになります」と脱水症状のあれこれを話ながら部屋に常設してるピッチャーからコップに水を注いで私に渡した。
 それを飲みながら、部屋から出ようとする透くんを引きとどめた。

「ねえ、今度ちょっとだけ出掛けたらダメ?」
「出掛けるって、どこへ?」
「それは……内緒。でも変なとこじゃないし、危ないところでもないよ。子供だけで行っても不自然じゃないし!」
「……まさか一人で行くつもりですか」
「そうだけど」
「なら許可できません。普段ならいざ知らず、今の愛子は何かあったとき対処できないでしょう?」

 そう言われてしまえば、ぐうの音もでない。

「ちなみに、今度とはいつですか?」
「……明後日」
「絶対にだめです」
「だよねえ」

 ぐたりと脱力して天井を見上げた。
 私も無茶だとわかってて言ったから、これ以上無駄な談判はしない。
 透くんは今度こそ立ち上がると、「もう十一月なんですから、ちゃんとかぶらないと冷えますよ」と言って、おなかまで掛けていた布団を肩まで引き上げてから部屋を出ていった。
 一人になった部屋で、はあと息を吐く。
 この時期にまさかこんな怪我をするなんて。中学生を庇ったことに後悔はしていないけど、少しだけ憂鬱になった。
視線を移動させて、机に目を向ける。その上に飾られた黒いサングラスが、爽やかな秋の午後の日差しを反射してつまらなさそうに光っていた。

ヒトリヨガリ