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 ベルモットと過ごして二週間。きっと退屈だと思って始まった生活は、シャロン・ヴィンヤードの娘としての顔見せやショッピング同行などで意外と忙しく過ぎていった。
 そのうちの、とある映画スポンサーをもてなすパーティで、キャバッローネファミリーのボスであるディーノさんと遭遇した。顔を合わせたときは二人で驚いて目を見開いたけど、さすがボス歴の長いディーノさんはすぐに取り繕って初対面を装ってくれた。
 私がいつも見るディーノさんは、綱吉に兄貴風を吹かせていたり、リボーンにいじられているところだったり、お茶目で可愛い印象だった。だけどその日の部下を連れたディーノさんは、一切ドジをすることなくハリウッド俳優にも負けない輝きを放っていた。バーボンよりも明るい少し癖のある髪や、微笑を絶やさないスマートな態度にマダムたちの視線を一人占めしていて、さすが地域住民から愛されるボスだと思った。
 ディーノさんはスポンサーというわけではなく、映画の中にディーノさんのシマでの撮影があったからそのお礼のために招待されたらしい。
 ニュースでは政治家がマフィア排斥を訴えているのに、実際はこんなものだ。
 その町を束ねるマフィアにさえ筋を通しておけば撮影中無為ないざこざに巻き込まれることはない。だから業界人はもとより地元の人もマフィアに付き従う。マフィアがなくならないのも無理はない話だ。



「近づかないの?」

 政治家のバースデーパーティで訪れた豪邸で、ベルモットは壁の花を決め込んでいた。
 この前の落ち着いたものとは違う、胸元がざっくり開いたラップドレスを着ているベルモットに声をかけてくる男はたくさんいる。だけど軽く挨拶だけしてベルモットから動こうとはしない。
 日付でいえば、このパーティでファルコと出会うはずなのに。

「バカね。シャロンがどうして武器商人と仲良くするのよ」
「……それもそうか」

 ただの女優が武器商人に近づくなんて、パパラッチしてくださいと言っているようなものだ。それなら、せっかくパーティに来たのにどうするのか。という疑問はすぐに解消された。
 ベルモットは私に、誕生日パーティ用のロウソクがデザインされたサングラスをつけさせ、「これで見張れるでしょ」とのたまった。
 私の今日のドレスが、子供っぽいパステルカラーのチュールスカートだった理由がわかった。このご機嫌すぎるパーティグッズに合わせるためか。

「ああいうのは絶対に裏で何かよくないことやってるものよ」
「でもわざわざパーティで動く?」
「そんなの人それぞれよ。ここでしか会えない立場の人と接触するかもしれないでしょ」

 その言葉に納得して別の部屋にいるファルコのもとに分身を出した。
 ――私的なパーティだからかファルコも前よりもスーツを着崩している。焼けた肌も相まってワイルドな雰囲気を放っていた。ファルコは代わる代わる誰かと話していた。親しげにバグをし、チークキスを送っている。だけど会話はたわいもないものだし、何かを隠れて渡している様子もない。
 ――彼のそばには常に赤紫色の髪をした女性が控えていた。奥さんではない。この前のパーティではいなかった。正体はすぐにわかった。秘書だ。彼女はファルコが挨拶相手のプロフィールを思い出せないとき、すかさず自然にアシストしていた。
 ファルコは終始英語で話し、秘書ともプライベートで使うというイタリア語で話すことはなかった。ビジネス用語たっぷりのたいして面白くもない会話を聞いていると、ベルモットが周囲の雑音にまぎれるような小声で「赤井秀一を狩るわよ」と耳打ちしてきた。

「FBIが追っている通り魔を使うわ。通り魔に変装して、あの男をおびき寄せるの」
「それはいいけど……、どうして私に言うの?」
「あなたにも手伝ってもらおうと思って」
「手伝う? ……通り魔を? おびき寄せるのを?」
「通り魔よ。ちょうどいい獲物を探すだけ。簡単でしょ」

 エメラルド色が、サングラス越しに私の赤い目を突き刺す。
 簡単なのは簡単だ。だけど、私はごくりと唾を飲み込んだ。

「……それでベルモットが獲物を撃つの?」
「ええ。ただ歩き回ってるだけじゃFBIは釣れないでしょ。あなたが選ぶ、私が狩る。それを赤井秀一が現場に現れるまで繰り返すの」
「いやだ。やりたくない。一般人を巻き込むなら私はやらない」
「……そんなわがままが許されると思っているの?」

 どうしてもこれは、これだけは譲れない。
 私が撃つわけじゃなくても、一般人を巻き込むことに私は加担しない。

「許されないとしても、それはいや。……だって組織は、悪い人を懲らしめるんでしょ? どうして一般人を傷つけるの」

 組織が私を懐柔したときの台詞を逆手に取れば、ベルモットは少し黙って、それから長い溜息を吐いた。そして小声で吐き捨てるように「バーボンのやつ、甘やかしすぎよ」と忌々しそうに言った。

「……いいわ。今回は多めに見てあげる。だけど覚えておきなさい。これがジンならあなたは明日の朝日を拝むことはなかったわ。バーボンが何を言ってるか知らないけど、組織は家族ごっこをする場所じゃないの」

 ぴりぴりと肌に刺す緊張感に負けないように、ぐっと両足に力を込めた。だけど「わかった?」と聞かれて頷けば、さっと、その殺気とも取れる重圧は解かれた。
 たしかに、今日一緒にいたのがジンなら殺されていたかもしれない。ジンはこんな簡単に怒りを鞘に納めないから。

「あなたは男の監視を続けてちょうだい」
「うん」

 また頷き、代わり映えのしない男の見張りを続けた。
 私が一日でも早く平和な日本に戻れるように何か情報をこぼしてくれと願ったけど、残念ながらこのパーティでもファルコが弱味を見せることはなかった。

ヒトリヨガリ