原作編で、ジンの主人公に対しての独白
イタリアのマフィアから拾った汚ない猿は、黒に染まるごとに周りのやつらの懐にうまい具合に入り込んでいった。拷問で痛めつけられた奴の姿に、まず初めに同情したバーボンが陥落し、そして気づけばベルモットまでもが奴に気を許し始めていた。奴はこの組織にとってなくてはならない駒で、大事な切り札だ。そのことさえ理解して奴をうまいこと操れるのならば、別に同情しようがほだされようがどうだってよかった。
だが、奴を取り巻く空気はいつしか変わっていた。いつから変わったのかはわからねえ。奴の近くのいるやつが一人二人と消え、そして逆に一人二人と増えていっている間に気づけば奴は組織の駒ではなく、仲間になっていた。
拾ってきて四年も経てば構成員として十分の能力も培われ、元の素質と合わせれば幹部として十二分の力がある。奴を幹部にという声も多く、むしろなぜまだ一構成員でしかないのかという声さえある。だが奴を幹部にするには椅子が足らず、また経験も浅い。信用するべき相手かどうかもわからねえ。
奴の身辺調査は幾度となく行ってきた。結果はいつも白で、なおも疑う俺をベルモットは呆れた顔で見ていた。奴の取り巻きどもは口を揃えて「こんな幼い少女がNOCなわけがない」と言う。あのベルモットですらそう信じている。確かに奴は日本の警察にもイタリアの警察にも接点はない。それに拾ってきたときは五歳だ。そんなやつをNOCに使うやつはどこにもいないだろう。少し拷問されたら――それこそブリガンテファミリーに拐われたときにすべて洗いざらい吐いているだろう。あのアジトに残された拷問器具は、とても五歳の子どもが耐えられるようなものではなかった。それを知っているやつらは特に警戒をゆるめている。
だが――、それがよりいっそう奴の存在をおかしくする。
目の前の会議で繰り広げられる茶番劇を眺めながら奴を見る。いたって普通の子どもだ。組織にきたときから変わりのない表情と仕草。四年間、多少の心的変化はあったようだが何も変わってはいない。おかしなほど平常心を保つ。うるさいガキは嫌いだから都合はいいが、それにしても一般的なガキと解離している。
――もし万が一こいつが裏切り者になったとき、果たしてこいつを始末できるやつがいるのだろうか。まさか情を移して殺されないようにすることまで計算して組織に入ってきていたとしたら。
そこまで考えたとき、目の前の奴が一口コーヒーを飲んで顔をしかめた。すかさず横に座るバーボンが奴のコップに砂糖を入れてかき混ぜた。俺が見ていることに気づいたのか、奴は甘くなったコーヒーを飲みながら首をかしげて俺を見た。そして周りを見たあとに、何かを思い出すように宙を見つめたあと「あっ」と小さく声をあげてから俺から顔を背けた。俺にばれちゃまずい何かを思い出したのだろう。こんな考えていることが全部表情に出るやつが裏切り者なわけがない。俺の考えすぎか。