ベルモットの見解

「あなたにしては随分と可愛らしいケーキですね」

 バーボンは白いお皿に盛りつけられたカップケーキを指差した。これが愛子にあげるものだってことくらいわかっているのに、わざわざ聞いてくるところがこの男の煩わしいところ。白い生クリームが崩れないように、上に散らされた小粒の赤いハートのチョコが落ちないように、そして一番上に横たわるイチゴが転がらないように気をつけて小さなカップケーキをお皿に並べていく。

「やることがないなら先に愛子の部屋に行っていたら?」
「どうせあなたじゃないことに、あからさまにガッカリされるだけですから一緒に行きますよ」
「そう」

 背後から観察されながら最後のカップケーキも乗せ終わり、紅茶と一緒にトレーに乗せた。

「わざわざ箱から移す意味あるんですか?」
「箱の中じゃこのケーキの魅力が半減するのよ。女の子は白いお皿いっぱいのケーキと美味しい紅茶があればどこかのお姫様にでもなったように感じるものなの。それで機嫌がよくなってお喋りに花が咲くのよ」

 特に彼女はそうだ。いつでも彼女はスイーツがあるときの方が言葉数が多くなるし、気も開放的になっている。
 普段はしないケーキの飾りつけも、今日の任務のためにはしかたがない。
 トレーを持ち上げるとバーボンに前を歩かせ、簡易キッチンから愛子の部屋までケーキを運ぶ。ドアを開けてもらい中に入ると、愛子の高い声で出迎えられた。そして私の持つカップケーキを見てもう一度歓声をあげる。
 私からトレーを受け取ろうとするのを静止して壁際の小さなデスクに乗せてから、乗っているカップケーキのお皿だけベッドのサイドテーブルに置いた。そして愛子が輝く目でケーキを凝視している間にソファーに腰を下ろした。バーボンは愛子とともにベッドに。

「久しぶり、ベルモット。知らない間にアメリカに行ってるから驚いたよ」
「ごめんなさいね。ちょっと用事ができたのよ」
「用事はもう終わったの?」
「いえ、すぐにアメリカに戻るわ」
「そっか」

 愛子の顔には残念だと書かれている。わかりやすい子。
 お詫びにケーキを買ってきたの、と言えば次は大喜びすることも手に取るようにわかった。実際にそう言うと、やっぱり愛子は両手をあげて喜んで、すぐに一つ手に取った。カップケーキの紙をはがし、あっという間に一つ食べ、また次のケーキも吸い込むように食べた。
 お皿の上のケーキが半分になったのを待って口を開いた。

「元気そうで安心したわ」
「え?」
「バーボンから、先の任務であなたが落ち込んでると聞いていたのよ」
「ベルモットは愛子のことを心配して来てくれたんだ」
「そうなんだ」

 巻き込まれて死んだ大月楓を思い出したのか、愛子の表情は少し曇った。だけどケーキを食べる手は止まらない。私たちが考えているより大月楓によるダメージは少ないのかしら。
 「その人、どういう人だったの?」と彼女との出来事を思い出させるように聞けば、ぽつりぽつりと彼女との出会いやどういう会話をしたのかを話しだした。表情は懐かしんではいるが悲しみは見られない。言葉もゆっくりではあるが、しっかりとしていて揺れはない。
 私の今回の任務は愛子の精神状態を知るため。もし少し仲良くなった程度の一般人にいちいち情が移っていてはこれからの任務で使い物にならない。それに万が一、彼女を殺した私たち組織を怨んでいたら愛子の存在は脅威になる。

「彼女のことが好きだったのね」
「うん。だってすごく優しかったからね」
「そう……。それなら彼女が死んで悲しいかしら? それとも彼女を殺したバーボンやライ、スコッチが憎い?」
「ベルモット!」

 直接的すぎる質問にバーボンは声を上げた。だけど、彼女にはこれくらい直球でないと話が進まない。誘導尋問したところでのらりくらりとかわされる。それより、スイーツを与えて機嫌をよくして、ぺらぺらと喋らせる方がよっぽど詳しく聞くことができる。

「悲しいのは悲しいけど憎んではないよ。だって彼女、悪いことしてたんでしょ。それならしかたないじゃない」

 そう言い切ってからケーキをまた一口食べた。
 どうやら私の任務はこれで終わりのようね。組織が心配していることはすべて杞憂だった。
 わざわざ私が来なくてもよかったじゃないと思うけれど、目の前で言い合いを始める二人にそれもしかたがないかと目を閉じた。事前にバーボンに口出ししないように指示しておいたのは正解だったわね。愛子はやけにバーボンに突っかかるから。嫌ってはいないようだけど、私やジン、ウォッカと比べるとバーボンに対する当たりが厳しい。それだけ気を許しているのなら利用できるから結構だけど、実際はバーボンの子ども扱いに反発しているだけだから目も当てられない。女の子は幼いころからませてるものなのよ。もっとレディとして接しないといけないけれど、愛子も言い合いを楽しんでいるようなので二人の関係はこれがベストなのかもしれないわね。


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リクエスト「ベルモットによる愛子の取り扱い説明書」でした。

ヒトリヨガリ