ロリコンと呼ばれる話のライ視点

 任務を終えたという連絡をしに本部に向かうと、ちょうどバーボンも事後報告をしに来ていた。普段は涼しげな顔をしているバーボンが、どこか慌てた様子だった。だからといって何があったかと尋ねるような関係ではない。どうせあっちも俺のことなぞ気にしないだろうと俺は俺で用事を済まそうとしたが、予想に反してバーボンは俺を見つけるとドシドシと近づいてきた。
 バーボンは「組織で子どもを保護しているから、あなたも挨拶しに来てください」と、僅かに不服そうに言った。
 この組織が子どもを保護した? 随分と似合わない。いったいいつから俺は慈善活動団体にスパイすることになったんだ。
 詳しい説明をすることなく、バーボンはその子どものいる研究施設の名前を言って足早に本部を去った。
 バーボンが出ていった扉を見ながらため息を一つこぼしてから、俺は俺の用事を済ませた。
 本部から出て車に乗り込み、しかたなくバーボンに言われた研究施設の場所を検索する。少し離れているが、高速を使えば時間はかからない。
 エンジンをかけてハンドルを握った。



 研究施設に入り受付の女にバーボンのことを聞けばまだ来ていないと言う。それならと「子どもに会いに来た」と言えば、「この時間だと食堂にいます」と食堂の場所を教えられた。一人で会いに行っても話すこともないが、人通りの多い受付の前にずっといるのも邪魔になるだろうと、しかたなくエレベーターに乗った。
 軽い音を立ててエレベーターは七階に着いた。広くはない施設だから食堂まで迷うことはない。明るい廊下を通って匂いのする方に歩いた。
 中を窺うと、まばらな大人の中に小さな子どもがいた。
 ――小さすぎないか?
 バーボンは子どもだとしか言わなかったから、てっきり高校生か、せめて中学生くらいだろうと予想していた。それなのに食堂にいるのは小学生にも満たないような幼さ。
 本当に、この組織は慈善活動団体にでもなってしまったのか。上の考えがまったく読めない。
 あんなに小さいと、一人で食事をすることすらできないんじゃないかと、これからバーボンに言われるであろう子守りのことを考えるとうんざりした。
 しかし、その子どもは器用に箸を使いうどんを食べていた。見た目と似合わない所作をしている。
 思わず目を離せないでいると、俺の視線に気づいたのか子どもと目があった。
 ――声をかけるべきだろうか。
 迷っていると、背後からバーボンに名前を呼ばれた。振り返れば、スコッチもいた。

「何をしているんですか」
「いや、なんでもない」

 バーボンは気にすることなく、スコッチに「あの子が愛子です」と、うどんを食べている子どもを見せた。

「イタリアのマフィアに人体実験を行われて千里眼を持っているので、上は飼い慣らして、もう少し成長したら任務につかせるそうですよ。イタリアでは僕とベルモットがお目付け役でしたが、ベルモットも忙しいのであなたたちにも協力してもらいます」
「イタリアのマフィアに? 日本語は話せるのか」
「ええ。言葉も常識も問題ありません」
「どうしてイタリアのマフィアなんかに捕まっていたんだ」

 バーボンは眉をしかめた。そして「わかりません」と首を横に振った。

「捕まる前のことは何も情報が残ってませんでしたし、愛子も何も言わないので聞いていません」

 追及しようとしたが、その前にバーボンは子どもの方へ行ってしまった。
 詳しいことはあとで聞くとして、スコッチとともに食堂の中に足を踏み入れた。
 子どもの座っているテーブルに座り、バーボンが俺たちのことを簡単に紹介して雑談が始まった。子どもは多少感情的になることもあるが、癇癪を起こすことはない。受け答えは大人としているのと変わらない。言っていることがちゃんと通じるし、子どもの言うこともおかしいところはない。言い間違いもない。あまりにも自然すぎて、かえって不自然に思えた。
 妹と初めて会ったときのことを思い出す。この子どもより大きかったが、もっと本能のままに動いていた。
 個人差と言われればそれまでだが。
 また、子どもは俺が見ていることに気づいてちらっと見上げてきた。不満げな顔で、子どもは「まさかロリコン……」と呟いた。
 なんでこんな小さいのに「ロリコン」なんて言葉を知っているんだと思ったが、それを口にする前にバーボンとスコッチが噴き出した。思わず二人を睨んだ。

「あ、ごめん」
「別に怒ってはいない」

 ――「ロリコン」が蔑称だと理解していて、それをうっかり言ってしまったから謝ることもできるのか。
 俺に気を使うような表情もしている。
 子どもに怒ってはいないが、笑い続ける二人に対しては心穏やかではない。その感情を感じ取った子どもが、むっと口を尖らせた。

「怒ってない人はそんな顔しないよ。本当に悪気があったわけじゃなくって」
「ホー……、悪気ではなく本心だったと?」
「だからそうじゃなくって……ってどうして私が謝らないといけないの! あなたが私のことジロジロ見てるからじゃない! だいたい、そんなに怒るって本当にロリコンだからじゃないの!」

 わざと意地悪く言えば、子どもはムキになって声を荒らげた。
 その姿は見た目と合っていた。
 そして感情のままに「このロリコン集団!」と叫んで食堂から飛び出していった。
 子どもの後ろ姿を見ながら、子どもに感じた違和感は気のせいだったか、と警戒することをやめた。そもそも、イタリアのマフィアの手先だったとき手もあの幼さだったらどうとでもできるだろう。
 ――俺は何を心配していたんだ。

ヒトリヨガリ