色褪せるシャングリア

 夏めくにつれて、新しく付き合いだす同級生が目につくようになった。
 三年生は冬には授業がほとんどなくなるし、その前の本格的な受験モードに入る前に青春を味わっておきたいのだろう。夏休みの講習を一緒に受けるだとか、花火大会や夏祭りに行くだとか、そういう浮わついた話が僕の耳まで届いた。
 彼女への想いを周囲に隠している僕は、それに興味ないという顔をしたり、話を振られれば「彼女と一緒にいて勉強に集中できるのか?」と真面目くさったことを言ったりしていたけれど、内心ではそういったものへの憧れは多少あった。
 季節が移っても、僕は彼女の横顔ばかり眺めていた。日に日に焼ける肌を見ては、僕と一緒に遊びに行って焼けたらいいのにとさえ思った。
 しかしそんな妄想をしている間に無情にも時間は過ぎ、梅雨も明け、一学期の期末試験が終わってしまった。
 試験結果はいつもどおり良好。学年一位として先生から褒められ、クラスメイトには称賛されたけれど、これからやってくる彼女と会えない長い夏休みを思うと憂鬱だった。



 四限目の授業が終わり、終礼が終わると僕は昼食をとるためにヒロの教室に向かった。
 終業式までは短縮授業だけれど、僕たちは午後から夏期講習がある。他にも部活を引退していない生徒や、学校で昼を食べてから帰る生徒もいて、それなりに校内は騒がしい。
 ヒロの教室の扉を開くと、弁当や塩素、シャンプーの香りが冷房で冷やされた風とともに流れてきた。
 ヒロのクラスは、四限目はプールだったらしい。
 前の扉のそばにある神崎さんの席に、あくまでも自然に視線をやった。
 彼女も学校に残る生徒の一人なのだ。
 クマのキャラクターもののフェイスタオルを肩にかけた彼女の髪はしっとりと濡れている。この時期しか見れない姿に鼓動が早くなる。
 神崎さんはもう部活を引退したけれど帰る前に昼食をとるタイプで、同じ部活だった友達と輪になって弁当を食べている。
 心持ちゆっくりと彼女の横を通った。
 僕に気づいた彼女の友達が、ぱっと顔を赤らめて濡れて乱れた前髪を箸を持っていない手で整えた。そのあと友達につられるように顔を上げた彼女は僕の存在を認めたあと流れるようにヒロの席を振り返って見た。だけど、それだけだ。同じクラスになったこともない、ただの同級生の僕にそれ以上のリアクションはなにもなかった。
 神崎さんは僕のことをどう思っているのだろう。
 友達の方の感情は手を取るようにわかるのに、彼女の気持ちはまったく僕にはわからない。僕と彼女にはほとんど接点がないから嫌われていないとは思うけれど、言い切る自信はない。

「はあ、今日の降谷くんもかっこいい」
「……もしかして、そのために毎日、終礼終わったら私の席に集まってるの?」
「まあね〜。遥の席に来たら、降谷くんが真横を通ってくれるじゃん?」

 こそこそと小声で話しているのが背後から聞こえた。きっとそういう風に僕に関する様々な噂は彼女の耳にも届いているのだろう。それがプラスのものなのかマイナスのものなのかがわからなくて、僕はまた不安になるのだ。

ヒトリヨガリ