ウォッカ×キャンディ

 バーボンとの任務のために待ち合わせ場所の駐車場へ行くと、時間が早かったのかバーボンはいなかった。時間を潰すために薄暗い地下駐車場をあてもなく歩いていると、黒いポルシェを見つけた。ジンの車だ。近寄ってみると、車の傍にウォッカが立っていた。

「お、なんだ」
「任務まで時間があるから、ウロウロしてたの。ウォッカは?」
「俺は研究所に用にあるアニキを待ってるんだ」

 お互い手持ち無沙汰ってことか。これはいい。ウォッカを話し相手にしよう。
 車の横に佇むウォッカに駆け寄った。

「ジンはどれくらいで戻ってくるの?」
「さあな。何も聞いてねえからわからねえな。……だが、入ってから結構時間が経ってるから、そろそろ戻ってくるんじゃねえか? 何かアニキに用事か?」
「ジンに用事はないけど、お互い暇なら一緒にいようかなって思って。ね、いいでしょ?」
「まあアニキが来るまでならいいぜ」
「やったー!」

 ウォッカは愛想は悪いけれど、バーボンやベルモットより絶対に優しい。もちろんジンなんて比べものにならないだろう。ウォッカから叱られたことも怒られたこともないから、安定していて好きだ。それは、私に対して無関心なところがあるからだろうけど、怒られるより多少無関心な方が嬉しい。

「どれくらいジンのこと待ってるの?」

 近寄った車から熱は感じない。エンジンを切って時間が経っていることを示していた。

「三十分……いや四十分ってところか?」
「そんなに待ってるの! それなら中で待てばよかったのに。ここで待てって言われたの?」
「いや、『ちょっと用がある』と言われただけだったから、すぐに戻ると思ってここで待ってることにしたんだ」

 殺風景で、空気の悪い地下駐車場にそんな長時間突っ立っていたなんて信じられない。私なら車の中で仮眠するわ。と思ったけれど、相手はジンか。もしジンが戻ってきたときに車で寝ていたら、そのまま永眠させられそう。そう思えば、ウォッカがジッとしているのも少しは理解できた。
 無口な人と一緒にいるだけでも息が詰まるのに、ジンみたいに気を使わないといけない人だったら気苦労も多いだろう。それなのに文句も恨み言も一切言わないウォッカを尊敬した。

「ねえ、ウォッカはチョコとキャンディどっちが好き?」
「なんだ急に」
「どっち?」
「……しいて言えばキャンディだな」

 ウォッカの言葉を聞いて、鞄の中のポーチからキャンディを一握り掴んで、ウォッカの手に握らせた。

「一つ、二つ、三つか。はい、あげる」

 サングラスで見えないはずのウォッカの目が戸惑ったのを感じた。

「いつも頑張ってるウォッカにあげる」
「頑張ってるって……」
「まあ、何も言わずに受け取ってよ。疲れたときには甘いもの、だよ」
「それは知っているが」

 ウォッカの困惑なんておかまいなしに、私はキャンディを渡せて満足した。
 手のひらの上の三つのキャンディを見つめたままオロオロしているウォッカを見かねて「じゃあ、いつも車を運転してくれてるお礼だよ」と取ってつけたような理由を言うと、渋々「『じゃあ』っていうのが引っかかるが」とぶつぶつ言いながらキャンディをポケットにしまった。
 それを見て、うんうんと頷いていると遠くから足音が響いてきた。足音の主を探すと、遠くにくすんだ金髪の頭が見えた。

「バーボンだ」
「ほら、行ってこいよ」
「うん。……キャンディ捨てちゃダメだからね!」

 バーボンの方に走りながら振り返り、ウォッカのポケットを指差して忠告したら、ウォッカは「わかってる」とふっと笑った。


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「ウォッカ×キャンディ」のリクエストありがとうございました!

ヒトリヨガリ