ライ×ガム

 つまらない会議に駆り出され、終わったら誰かとごはんに行こうと思っていたのにバーボンもベルモットも、みんな早々に任務に出かけてしまった。残ったのは私とライだけ。いつもはすぐに帰るのに、どうして今日は残っているんだろう。チラッと見やれば、バチリと目が合った。

「なに」
「お前こそなんだ」

 ジリリと二人で睨み合っていると、ぐう〜と間抜けな音が静寂な会議室に響き渡った。ハッとお腹を押さえたがすでに遅い。絶対にライに聞かれた。顔に熱が集まるのを感じる。
 一気に気がそれた。べたりと机に臥した。

「おなかすいた」
「ああ、聞いていた」
「聞かないでよ」
「勝手に鳴らしたのはお前の方だろう?」
「しかたないじゃない」
「それなら俺もしかたないだろう」
「しかたないけど、ライはデリカシーがないの! 普通女の子がお腹鳴らしたら聞かなかったフリするでしょ」
「ホー……。一人前にレディというわけか」

 なんて失礼な人だ。ぶうと頬を膨らましてライを睨むと、またお腹がぐぐ〜と鳴った。
 私の胃が腹立たしい。顔が隠れるように両腕で頭を抱えた。
 ダメだ。お腹がすいて動けない。今すぐ部屋から出ていきたいのに。こうなったらライを頼るしかないか……。

「何か持ってないの?」
「何かとは?」
「お菓子だよ! わかるでしょ。何か持ってない?」
「生憎、お菓子を持ち歩くタイプではないのでな」

 使えない! と心の中で悪態をつくと、「ああ」とライが何かを思い出したように声をあげた。そしてポケットを漁る音がするのでガバリと体を起こした。
 ライは「ガムなら持っている」と言って、銀紙に包まれた小さいタブレット状態のガムを投げて寄越した。予告もなく投げたので慌てたが、なんとかギリギリキャッチすることができてよかった。

「ほら。腹には溜まらんが、気は紛れるだろう?」
「うん! ありがとう!」

 悪態ついてごめんね、とこれまた心の中で謝罪して、手の中の小さいガムを見る。ガムと言えば、この前期間限定のリンゴ味のガムを見つけて食べたいと思ったんだった。結局買わなかったけど、期間内に一回買ってみないと。このガムは何味だろう。
 銀紙をめくり、ポイと口に放り込んでカリッと噛むと中からガムの味が染みてきた。

「かっらい!! 辛い!!」

 強いミントが口の中を刺激する。息を吸えば鼻がスーッとし過ぎて痛い。

「にが! 辛い! すっごくスースーするし!」
「眠気覚ましのガムだからな」

 飄々と言うライの顔を殴りたくなった。

「もう! ライなんて嫌い! せめて食べる前に言ってよ!」
「そうか。悪かったな」

 謝る気なんてまるでない声音で言う。悪びれない様子を見て、ちょっと本気で怒ろうと思い、ドンと机を叩くと叩き方が悪かったのか思ったより手の衝撃が強かった。「いたい」と反射的に両手を握ると、笑い声が聞こえた。私とライしかいないのだからライに決まっている。こんな辛いガムを渡して、しかも笑うなんて!

「笑わないでよ! 痛いし辛いし!」
「ふっ、痛いのはガムのせいか? それとも机を叩いたからか?」
「両方よ!」

 銀紙を握りつぶしてライの方に投げた。軽い銀紙が飛ぶはずもなく、ライのところまで行く前に墜落した。それを見てまたライが顔を背けて笑った。もう我慢できない。「ライのバカ! 嫌い!」と叫んでから勢いよく席を立ち部屋から飛び出した。ライの笑い声が聞こえるけれど、ライよりも早く水を飲んで口の中の強烈なミントを流したい。次にバーボンとスコッチに会ったら、絶対に言いつけてやる!


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「ライ×ガム」のリクエストありがとうございました!

ヒトリヨガリ