ジン×駄菓子
※時間軸は原作編
「怒ってる?」
「ああ?」
地を這い様な低い声に身がすくんだ。
ジンは私を見ると、小さく舌打ちをしてからそっぽ向いた。おっかない。絶対に機嫌悪いやつだ。私が原因でないことと、私に当たるつもりはないことはわかるけれど機嫌が悪い理由はわからない。聞くのも怖い。
隣を歩くジンの横顔を盗み見たが、すぐにバレて鋭い目で見下ろされる。
「なんだ」
ひっと声が漏れそうになった。平然を装って「何かあったの?」と聞いたけれど、その声は震えていた。目で人が殺せそうなジンを前に、蛇に睨まれた蛙ってこんな状態なんだと蛙に同情した。
「……お前には関係ねえ」
「そうですか」
怖すぎて敬語になった。
「お前には関係ねえ」っていうのは、部外者は黙ってろってことなのか、それともお前は関係ないから普通にしてろって意味なのかわかりかねるが後者だとちょっぴり嬉しい。まあきっと前者七割、後者一割で残りの二割はこのことに触れるなってことなんだろうけど。
だけど、しばらく一緒にいないといけないのに、こんな機嫌の悪いジンは嫌だ。三十秒に一回は舌打ちしてるし。怖い。怖すぎる。つまづいただけでも射殺されそう。
あまりの緊張に、胃がキリキリと痛んできた。これは早急にどうにかしなければ。
とはいっても、ジンの機嫌をよくする方法なんて知らない。ウォッカ助けて!
「そういえばジン、最近香水変えた?」
とりあえず無難な話で様子を見ようと思ったが、ピキリと空気が凍ったのを肌で感じた。これは殺気だ。
「なんか匂い変わったなーって思ったんだけど気のせいだったかなー、……ははは」
空気とともに私の笑顔も凍った。乾いた笑いしか出ない。
この凍った空気をどうにか溶かしたい。何か明るい話題はないかと考え、鞄を漁ると昨日買った駄菓子がいっぱい出てきた。きな粉棒、蒲焼さん太郎、ラムネ、うまい棒、あとたくさんの飴。
ジンのコートの袖をちょいちょいと引っ張って、そっと鞄から出した蒲焼さん太郎を差し出した。
「なんだ、これは」
「蒲焼さん太郎、です!」
「蒲焼?」
「え! 蒲焼さん太郎知らないの? 蒲焼の味がする何かだよ」
「何かってなんだ」
「わからない。パリパリした……板? 紙?」
「それは食い物なのか」
ゲテモノを見るような目で蒲焼さん太郎を見た。
私の説明が悪いだけで美味しいよ、ということを必死で伝えるとどうにか袋を開けてくれた。袋にへばりついた蒲焼さん太郎を出し、ジンはスンと匂いを嗅いだ。
「ソースがピリっとして美味しいんだよ」
「ふん」
鼻で笑ってから薄い蒲焼さん太郎を噛み千切った。
「どう?」
恐る恐るうかがうと、もう一度鼻で笑ってから「悪くねえ」と上出来の評価をもらった。不味くないのならいい。
「悪くはねえが安い味だな」
「そりゃあ駄菓子なんだもん。値段が安いんだから、味も安いよ」
「そうか」
ふと、ジンの顔を見れば眉間に深く刻まれていた皺が薄くなっている気がする。これは普段通りと言ってもいいかもしれない。
安心して胸をなで下ろした。
「なんだ」
「ん?」
「なに一人で笑っているんだ」
「ああ、ジンの機嫌がよくなったみたいだから嬉しくなったんだよ。さっきまで、こーんな顔してたんだよ!」
と言って、手で眉間を摘まんで皺を作った。笑ってくれるかと思ったけど、ジンは無反応。この眉間を摘まんだ手をどうしよう、と行き場のない手のことを考えていると、ジンが顔を背けて正面を向いたので、そっと手を離した。
「お前は計算高い女になるなよ」
吐き捨てられた言葉の意味はわからなかったけど、機嫌が悪かったのは女が原因か? とぼんやり考えた。
ジンが心配しなくても、私は大人になっても計算高いかっこいい大人にはなれなかったよ。一歩前を歩くジンの背中を見ながら、元の自分の体を思い出してちょっとだけ落ち込んだ。できることならジンを振り回せるような、かっこいい女性になりたかった。
――――
「ジン×駄菓子で駄菓子でイライラがおさまるジン」のリクエストありがとうございました!
どの駄菓子を食べさせるか悩みましたが、食べなさそうだけど食べたら気に入りそうな蒲焼さん太郎にしました!