ウォッカ×わたあめ

「ほらよ」

 差し出された棒を受け取った。棒には大きく膨らんだ、アニメの柄のついた袋がついている。
 人混みの中を歩きながら、たまたま視界の端にとらえたこのアニメの袋を見つけた瞬間、指差して叫んでしまった。ウォッカにねだって買ってもらい大満足だ。大きくお礼を言うと屋台のおじさんが笑った。ウォッカはよくわからない顔をしている。

「そんなもんが嬉しいのか?」

 ウォッカは膨らんだ袋を指差す。

「可愛いでしょ?」
「でも開けちまったらただのゴミだぜ? 中身は全部同じわたあめなのに」
「わかってないなあ、ウォッカは」

 こういうのは食べる前に楽しめて、食べて美味しいっていうのがいいんだよ。そう言ってもあんまり理解してくれない。今はカラフルなわたあめがあるけれど、昔は袋をつけて見た目を華やかにするしかなかったんだと思うと時代を感じて楽しいじゃない。
 好きなアニメのマスコットキャラがでかでかと描かれた袋を外すと、私の顔よりも大きいわたあめが現れた。
 手で千切ると指がべたべたになるので、そのままかぶりつく。
 口に入った瞬間溶けていくわたあめ。

「ウォッカも食べる?」

 口をつけてないところをウォッカの方に向けると、戸惑っているのか遠慮しているのか、おずおずとわたあめを少しだけ摘まんだ。だけど引っ張り方が悪くて千切れずに、わたあめがくるくるとめくれていく。

「うわ」
「ははは、わたあめは棒に巻き付けてるから、逆向きに引っ張らないと千切れないよ!」

 私の言った通りに、巻き付いているのと逆の向きに引っ張ればようやく千切れた。だけどウォッカが最初に思っていたよりも多い量になってしまって、呆然とわたあめを見ている。

「あ、早く食べないと手がべたべたになるよ!」
「そういうことは早く言え!」
「わたあめ食べたことないとは思わなかったんだもん」

 大きな塊のわたあめを、大きく口を開いて一口で食べたウォッカは「うげ」と言いたそうな顔になった。サングラスをつけているのにわかりやすい。周囲の屋台の灯りでウォッカの顔が赤く照っている。
 遠くに太鼓の音と、男たちの叫び声がうっすら聞こえる。周りのみんなは楽しそうなのに目の前の男はまったく楽しそうにしていないのが浮いていて面白い。

「甘かった?」
「ああ」
「でも美味しいでしょ?」
「うまいより甘いしか感じねえ」

 うんざりした声。こんなに美味しいのにもったいない。
 わたあめに顔をくっつけて、唇でふわふわの感触を楽しみながら口内でふわりと溶けて重い甘さが口中に広がるのを楽しみながら人気のない方を目指して歩く。人混みの中だと、周囲の人にわたあめがくっつきそうで緊張する。
 半分くらい食べたころには口の周りが溶けたわたあめでべたべたになった。

「べたべた」
「ああ? ……ああ、そうだな。俺も手が汚れたから公衆トイレで手を洗うつもりだ。一緒に洗えばいいだろう」
「うん。トイレどこだろう」

 ウォッカの動きが止まった。トイレの場所を知らずにずっと歩いていたのか。

「はあ。車に戻るぞ」
「手は?」
「車にお前用のウェットティッシュがあるだろ。それでいいさ。……それより早く帰らねえとアニキが怒るぜ?」

 車を降りてからあまり時間は経っていないけれど、ジンは短気だからいつ怒るかわからない。ここはウォッカの言う通りにした方がいいだろう。

「まったく。お前が急に祭りに行きたいなんて言うからだぞ」
「だって車の中から見えちゃったんだから行くしかないでしょ」
「だからってアニキも一緒にいるのに、無理やり行くなんて命知らずなことよくやるな」
「えへへ」
「褒めてねえからな」

 冗談で笑えば、本気にされてしまった。
 だいたいジンが許可したんだから、今さら文句言われても困る。私だってまさか行っていいなんて言われると思わなかったよ。
 「ほら、さっさと帰るぞ」と足を速めるウォッカについて、待ちくたびれているだろうジンのもとへ急いだ。


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「ウォッカ×わたあめ」のリクエストありがとうございました!

ヒトリヨガリ