ライ×きのこの山、たけのこの里

 ノックもなく開いたドアの音に、体が大きく跳ねた。別に驚いたからではない。待ち望んだ音だったからだ。
 ご主人様の足音を聞いた犬のように、鉄砲玉のごとくソファーを蹴ってドアの方へ行く。部屋に入ってきたばかりのライは呆れ顔。

「お前がそんなに嬉しそうに俺を見るのは初めてだな」
「そう?」
「ああ。いつもはもった暗い目をしている」

 どんな目だ。と、自分の顔をぺたぺた触りながらいつもと比べるけれどわからない。

「まあ、お前が楽しみに待っていたのは俺ではなくこれだろう?」

 前に突き出したコンビニの袋に歓声をあげた。中が見えない白いビニールがいじらしい。ライからそれを受け取ると、福袋を買うときのようなわくわく感がわき上がってきた。
 いつまでもドアの前で喋っているのも変なのでライを部屋の奥に招き入れて、ソファーに座ってもらってから、私はベッドに腰かけた。

「ありがとう!」
「任務の話が進められないのは困るからな」

 任務の話をしに来たライに「お腹がすいて何も考えられない」と言って追い返したのは三十分ほど前のこと。お菓子を買ってきてと言った私に、ライは文句言いたげな顔をしたけれど結局何も言わずに買いに行ってくれた。
 食べながら話すのかと思ったけれど、「食べながらだと話に集中しないだろう」と図星を指された。そして「先に食べてしまえ」と言われたので、お言葉に甘えて右手に持ったままだったビニール袋の中を見た。
 よくあるポテトチップスと、コンビニのプライベートブランドのクッキー、そして――。

「たけのこの里!!」

 見た瞬間に叫んで、そして次の瞬間には袋からたけのこの里の箱を取り出してライに投げていた。

「憎っくきたけのこめ!!」

 親の仇のごとく睨んでビシッとライを指差した。ライは、ふんと鼻で笑ったような顔をして、私を見下ろす。

「なんだ、お前はきのこ派か?」
「そうだよ! なんでたけのこの里なんて買ってくるの!」
「俺が買い出しに行ったんだ。きのこの山を買ってこいなんて言われてないのに文句を言われるのはおかしいだろう?」
「おかしくない。おかしいのはライよ。まさかたけのこ派なの?」
「そうだな。どちらかといえば、たけのこの里の方が好きだ」

 素直に頷くライに「裏切り者」と叫ぶ。
 どうして裏切り者呼ばわりされるかわからないというライに、この間ジンにきのこの山をあげたことを伝えると、なんだそれはという顔をされた。失礼な。

「つまりジンは立派なきのこ派ってことだよ。つまりつまり、ライは裏切り者ってこと。裏切り者には死だよ?」
「そんな戯れ言」
「ライがたけこの派って言ったことは内緒にしておくから、その代わり今からきのこ派ね! きのこ派にならないとジンにバンってされちゃうよ?」

 ノリノリで手を銃の形にしてライの方に向けた。
 そんな私を無視してライはたけのこの里の箱を開けた。「なにしてるの」という私の言葉も無視。
 まさか改心しないつもり? と聞こうとして開いた口に、たけのこの里が押し込まれた。吐き出すわけにもいかないので咀嚼すると、ライに「まずいか?」と聞かれた。

「美味しいよ」

 ビスケットをザクザク噛みしめながら、何を当たり前なことをと言う。

「なら、それでいいだろう?」
「いやいや、まずいからたけのこを目の敵にしているわけじゃないんだよ? たけのこの里はたけのこの里で美味しいんだけど、それとこれとは別で……」
「その話は今度しよう」

 「とりあえずお菓子を食べてくれ」と言われて無理やり言葉を打ち切られた。だけどライの言うことももっともで、今は任務の話をしないといけないんだった。しかたがない。第一次きのこたけのこ戦争はこれで終結としよう。
 次の日、バーボンとスコッチも巻き込んで第二次きのこたけのこ戦争が勃発するとは、このときのライは予想だにしていなかったのだった。


――――

「ライ×きのこの山、たけのこの里」のリクエストありがとうございました!
遅くなってしまい、申し訳ありません。

ヒトリヨガリ