「納得いきません」
珍しく怒った顔でそう言い切った牧瀬に、クリスは困ったような微笑みを浮かべた。
「でも、ほら、似合ってるよ?」
「……どこがですか! この、この、うさ耳生やした幼児姿のどこが! どこが良いと!? クリス君、まさか幼女趣味――」
「違う違う違う!! 春音だから似合うって思っただけで……いや、僕は春音が幼女でも好きで居る自信はあるんだけど」
きゃんきゃんと抗議するうさ耳を生やした幼い女の子をあやす成人男性――なかなか画的に怪しい香りがするものの、中身が同じ年齢なだけあって、当人達的には普通に会話しているつもりである。
事の発端は夏休み――ネギ達と共に成り行きでふたりも魔法世界に行くことになったのが原因であった。色々あって指名手配されてしまった一行は、素性を隠すためにエヴァンジェリン特製の年齢詐称薬を使い、各々姿を変えて日常生活を送っていた。――此処までは良かった。
「なんでですかーっ」
「どうどう、落ち着いて」
牧瀬が納得いかないと抗議した理由――それは、自分が幼児の姿になったのに、最愛の恋人は逆に大人の姿になったからである。
健全とは言い切れないものの、幼馴染みでありずっとお付き合いをしている同い年の恋人が大人の姿になったのに対し、自分はうさ耳を生やした幼児とは一体どういう了見なのか、それが牧瀬の抗議した内容であった。
つまり、牧瀬はショックを受けていた。恋人と居ても確実に「恋人」とは思われない――下手をすれば年の離れた妹か娘に見られかねないことに、大いに傷ついたのだ。
状況的にわがままを言えないと理解はしている、けれど納得できるかはまた別の話であり、こうしてじたばたと牧瀬がごねる理由になっていた。けして肉体年齢に精神が引っ張られてるわけではない。
「やだ……私も大人の姿になる……」
「駄目だよ、子供の姿の方がまだ安全なんだから」
膝の上に乗せられ、足をゆらゆら動かしながらごねる牧瀬をクリスが穏やかな声で宥める。ぷうっと頬を膨らませて無言で抗議してみるものの効果はなく――幼児の姿のせいか、逆に微笑ましい目で見られてる気がする。誠に遺憾の意である。
「じゃあクリスくんも子供の姿になればいいじゃない」
「僕はほら、春音を守らなきゃいけないし――子供の体よりは成長した体の方が受け身も取りやすいから」
「戦うの前提にしてるんですか、クリスくん……」
「まぁね」
魔法を習い始めて、魔法の才能があったらしいクリスはどんどん才能を開花させていった。元から身体能力が高いのもあり、戦闘スタイルは身体強化をして物理で殴る他、主に光系統の魔法を得意としている彼なら、確かに子供より大人の姿の方が良いのだろう。
余談ではあるが、魔法の適正を調べた際、エヴァンジェリンに「性質的には闇に近いのに光魔法とは……恐ろしいやつめ」と、言われたのは牧瀬とクリスしか知らない話だ。
「でもでも、私も一応魔法使えるし……役に立てますよ……」
「だーめ。春音はただでさえ可愛いのに、これ以上可愛くなったら誘拐されちゃうよ」
ぎゅう、と小さな体を覆うように抱き締めて、頬擦りをしながらそう言ったクリスの口調は至って真剣そのもので、思わずうさ耳がへにゃんと垂れる。
それすら「可愛いね」といってしまうのだから、一度熱を計った方が良いのではないだろうか。そう思ってしまうものの、二人きりの時間が嬉しくないわけがない。だかしかし、自分は幼児化が嫌でこうして恋人に直訴してるわけで――、
「かわいいよ、春音」
「うぅ……」
恋人に満面の笑みでそんなことを言われて、喜ばない乙女が何処に居ると言うのか。負けた、そう思いながらぐったりと体を恋人に預け、牧瀬は深い溜め息を吐いたのだった。
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