圧倒的な存在感――下手に身動きしてしまえば殺されかねないような殺気が充満したその場で、私の目は、一人の男の人に釘付けになっていた。
全体的に黒の印象が強いものの、その金色の髪と整った顔は、あの人によく似ていて――居るわけのない彼の名前が、口からこぼれ落ちる。
「……え、」
驚愕の色に顔を染め上げて、大きく見開かれた彼の瞳が私を捉える。それに確信を得て、震える声でもう一度名前を呼ぶ。そうであってほしいと願いながら、目の前に現れた希望が本物であってほしいと。
「クリスくんなの……?」
「春音……っ!」
その声と共に視界が黒色に包まれ――私の意識はそこでブツンと途絶えた。
ぼんやりと意識が浮上する。ぱちぱちと数度瞬きをすればぼやけていた視界がクリアになり、見慣れない天井が目に映る。
むくりと起き上がって、今の状況を確認する。体は少しだけ倦怠感に包まれてるものの、どこか具合が悪いということはなく、体調は良好な方――なのだと思う。
私が寝かせられていた部屋は、まるでモデルルームのような……つまりは無機質な部屋だった。白と黒が基調になっていて、お洒落な感じがする。
窓の外が暗いということは、多分今は夜なのだろう。ベッドから降りて、ぺたぺたと裸足のまま扉の前まで行く。光が漏れているから、外には誰か居るはずだ。
そうっとドアを開けて、光の眩しさに目が眩む。寝ていた部屋が暗かったというのもあると思うが、なにより寝起きにはつらい。
リビングらしいその部屋で、ソファに凭れながら煙草を吹かす後ろ姿が見える。どう声をかけたらいいのだろうか――そう思っていると、気配に気づいたのか顔が此方に向けられて、驚いた顔をした彼は、手早く煙草を消して早足で私の元へ来てくれた。
「具合は大丈夫? ごめん、嬉しくてつい手荒なことを……」
「だ、大丈夫……あの、クリス君」
皆は何処に居るの、そう訊ねると、彼は薄く笑みを浮かべて、「違う場所に居るよ」と言った。――何故だかその笑みがとても冷たいように思えて、思わず彼の頬に触れる。
「クリス君、大丈夫?」
何が大丈夫じゃないかはうまく表現できないけど、でも……私の知ってるクリス君は、煙草を吸う人では無かったし、こんなに冷たい顔をする人ではなかった。
――なにより、彼の体はこんなに冷たかっただろうか。
外見を見る限り、私よりずっと年上の彼は、どんな風に生きてきたのだろう。きっと会えないと思ってた彼に会えたのは嬉しいけど、同時に同じ時間を生きられなかったのだと実感する。
「大丈夫だよ。……春音に会えたから、もう大丈夫」
触れた手に頬を擦り寄せて、穏やかな声で答えた彼の姿に、少しだけ安心した。
「改めて聞くけど、クリス君は皆が行った場所わかる?」
「……残念だけど、僕は知らないんだ。春音が気を失ったあと、色々あってね、君だけはなんとか助けられたんだけど」
「そう、なんだ……」
これからどうしたらいいんだろう。そんな不安が顔に出てしまったのか、クリス君が私を抱き寄せる。頭を撫でられて、大丈夫だよと言いながら抱き締められる感覚が心地好い。背中に手を回して、ぎゅうと抱き返す。
まだ希望が失われたわけじゃない。きっと皆生きてるはずだ。僅かな希望に胸を膨らませながら、今はただ、やっと再会できた彼の温もりに身を委ねたのだった。
――彼が何を考えてるかなんて、一切知ることもなく。
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