└つづき
「え。なんでここにしたか?」
「……東京より家賃が安くて、大きい駅から東京にバスで行けたから……?」
割と現実的な理由だった。
「いや、割と切実で。実家からも東京にもいい塩梅のとこ、ここら辺でしたし、家は仕事部屋にもなるので。先輩作家さんも勧めてくれたのもあって」
「あとモーニングおいしいですよね。私、仕事明けは喫茶店とかでモーニング食べるのが好きになっちゃって……」
「」
#名前#の部屋は一人暮らしの女性にしては大きめの部屋だ。それも角部屋である。
「今住んでるところ、知り合いの作家さんの運営してるとこなので安心なんですよ。住人も女性限定ですし」
「そうなのか?」
「徒歩で駅行けるし、コンビにもスーパーもドラッグストアもあるし、部屋は十分すぎるくらい大きいし」
だいたい住んでるのはフリーランスの同業や夜のお仕事の方だと笑っていっていた。
「賃貸だけど割とお手頃で、あと友人価格で他の人より安くしてもらってますし。弟とか、休みになると泊まりに来たいってごねてたくらいで」
引っ越してきたばかりだという部屋のなかは、シンプルながらも節々に見える女の子らしさが際立っている。
ピンクの掛け布団のベッドに、淡い花柄のカーテン。ベッド横のサイドテーブルには時計と小さな観葉植物が置かれている。
リビングが仕事部屋を兼ねていて、デスクとパソコン、その横には資料が入ったラックが置かれている。カーペットの上には小さめのテーブルとクッション、そしてカラーボックスの上に置かれたテレビ。
一人暮らしの女性の部屋、それも恋人の部屋など随分と縁が無かったので年甲斐もなくついきょろきょろしてしまう。「あんまり見ないでください」と恥ずかしがる声はスルーした。
「いやさー、女の子の部屋なんて早々入ることねーからつい」
「はは……今年越してきたばかりで殺風景ですけど」
「えー、十分じゃん。家事とか全部自分でしてるんだろ? すごいな」
「ええ? 零さんも洗濯機とか回したりしません? 食洗機とか、お風呂とか」
「まあ実家暮らしだしやるときゃやるけどさ、やっぱ頼りっぱなしになるんだよなー」
「あー、私もそうだったかも。でも結局慣れですよ、こういうのは」
「へっへーん。びっくりした?」
「よ、よーちゃん、なんで?! 学校は? まさか退学?!」
「ちがわい! 今は休みっ、そして俺はおやじとおふくろからねーちゃんの様子を見てこいというミッションを預かったのであーる! つーわけで、とーめてっ」
「……なんてこった……」
「俺、ねーちゃんに彼氏ができたって聞いて心配で心配で! ねーちゃん鈍感だから変な男に騙されてんじゃないかと」
「言ってくれるわーこやつ」
「うち、一番上に兄貴がいたんすけど、勘当されて実質俺とねーちゃんのふたり兄弟なんで。だから余計心配なんだよな、ねーちゃん面倒見よくていろいろ無自覚だから……」
「よーちゃん……」
「変な男に捕まったんじゃないかって俺もう夜しか眠れなくて……」
「夜寝てんだから十分だろうが」
「兄貴ってどんな人だったんだ?」
「……外道」「ナチュラルサイコパス……?」「温厚な顔した事故物件」「人でなし」
「「みたいな?」」
――下の兄弟にそこまで言われる兄とは一体……
「勉強は? ちゃんと着いていけてる?」
「うん。分からんかったらせんせに訊いてるし、予習復習ちゃんとしとるから」
「ならよかった。がんばってね、応援してる」
「ん、ありがと」
「……ねーちゃん、兄貴のせいで進学が絶望的になっちゃって、それで卒業してからは何すればいいのか分かんなくて塞ぎこんでたんだぁ」
「それは……」
「それで、偶然読んだリハビリで書いてた小説が面白くってさ、俺、ネットとかで投稿しよって手伝ったりしてたの」
そんで大賞獲ってデビューしたんだ、と耀太は誇らしげに話した。
「周りからなんて言われようと、うちのねーちゃんは立派な人だし、だからおやじもおふくろも兄貴を勘当したわけで」
「俺としては、ねーちゃんは俺のせいで諦めたってとこもあると思ってて、進学時期被ってたし、俺は高専行きたいって頑張ってたから。……だからねーちゃんには幸せになってほしいんだよな。学歴とかそんなん気にしない、中身見てくれる人と」
だからおにーさんがねーちゃんを見つけてくれて良かった、と心底安心した顔で耀太は笑った。
「年上だし、ねーちゃんちょっとおっちょこちょいなとこあるからちゃんと手綱握っててくれそうなとことか、よーちゃん的には花マルなので」
「そか。ありがとなー」
「あと俺的には新しい兄貴がマトモで美形なのがとても嬉しいっ、他の親戚に自慢するもんね!」
「俺も弟できんのは初めてだなぁー」
「じゃあおんなじなんすね!」
「だなー」