工藤妹

 ――どうしても許せなかった。
 ――幼子の姿になっても事件に首を突っ込むこと?

 ――いいえ、それよりももっと許してはいけないこと。

「ひとの死体を使って、死亡偽装を手伝ったことを、パパもママも、知っていたの……?」

 娘からの一言で、夫妻の顔色がサッと変わったのがわかった。同時に、それを悟った娘の表情が悲壮なものへと変貌する。

「――なんだって?」
「死亡偽装? なんのこと、紗代ちゃん? 新ちゃん、あの子いったい何を――」

 堪えきれなかった涙が頬を伝い落ちていく。泣き崩れる我が子を抱きしめながら、事が自分達の思うよりも重大な事態であると悟った工藤夫妻は顔を見合わせ、それから目の前に立つ青年に目を向けた。

「け、景吾くん、紗代子ちゃんの言ってることは……」
「……はい。公安からの情報で、CIAの工作員である女性が、組織に戻るためにその作戦をしたと、その現場には江戸川コナンを名乗る少年もいた、と――日本とCIAの連携が決まってから間もなくして報せが届いたそうです」

 さっと有希子の顔から血の気が引いていく。わなわなと唇を震わせ、泣いている娘を抱きしめる力が強くなるのが見てわかった。有希子は顔面蒼白の状態で、傍らで自分たちを支える夫を見た。

「ど、どうしましょう! 私っ、とんでもないことを……!」
「落ち着くんだ、有希子。紗代子の前だ。不安をこれ以上抱かせるのは良くない」
「でもっ、でも優作! 私……私っ、教えちゃったのよ!? 新ちゃんが、あの子が頼ってくれたのが嬉しくて、私の変装技術を彼に、ああ、そんなっ……私、なんてことを……!」
「変装技術……メイク技術か!」

 諸伏の言葉に、青ざめた顔の有希子がうなずく。

「ええ……とはいえ、娘と違って私ができるのは『存在しない誰か』の顔を作ることくらいだけど……身分証なんかは相手方で用意するからって、その設定に合わせて……」
「その設定は?」降谷が問いかける。

「――沖矢昴。東都大学工学部大学院生、という設定の青年です」

 優作の発言で部屋の中に衝撃が走る。

「沖矢昴、って――博士!」
「あっ、ああ。優作くんの家に居候してる、彼じゃろう? たしかに言われてみれば、いつもやけにタイミング良くうちにやって来ておったのう……」
「それだけじゃないわ! 紗代子さんが言ってたじゃない、うちに、博士の家に、盗聴器が仕掛けられてるって! それってもしかして――」




「ごめんね、蘭ちゃん……」

 そう言って泣いた少女の姿を、蘭は今も鮮明に覚えている。

「恨んでもいいんだよ」

 ひどいことをしたのだからと言って、深く頭を下げた少女に、蘭は慌てて彼女の両肩を掴んだ。「顔を上げて!」細くて今にも折れてしまいそうなほど脆い身体だった。蘭の言葉に渋々といった様子で顔を上げた少女の顔色は悪くて、噛み締めた唇は震えている。その痛ましい姿に胸が痛んだ。
 彼女は気づいてないのだ。
 私は昔から、彼女の憂い顔が何よりも嫌いだってことに。
 蘭はそっと一つ年下の、大切な幼馴染の女の子を抱きしめた。

「ねえ、紗代子ちゃん」
「……うん」
「きっと私、紗代子ちゃんに言われなかったとしても、アイツのことを好きになったとは思えないんだ」

 自分の服を掴む力が強くなったのを感じた。気を遣わせたと思っているのかも知れない。けれど、不思議とこの思いは『嘘』ではないのだという、そんな自信があった。

「たしかに、新一のことは好きだよ。でもそれって、友達とか……家族、みたいな感じなの。好きは好きでも、恋愛とかそういうんじゃなくて、手のかかる弟を見てるみたいな、そんな感じ。アイツ、いっつも無茶ばっかりするんだもん。心配にもなるわよ」
「でも……」

 なにか言いたげな紗代子の言葉を遮って、蘭ははっきりと言った。

「だから私、ずっと思ってた! どうして新一は、こんなに可愛い妹がいるのにこんなにひどいことをするのかしらって」

 初めて出会ったとき、まるで妖精のようだと思った。
 幼馴染(しんいち)と同じ色の瞳で自分を見て、微笑みを浮かべて「こんにちは」と鈴の音のような声で言ってくれた瞬間、胸のうちに熱い液体を流し込まれたような感覚がした。
 ドクドクと脈打ち、どうしようもなく身を焦がすこれがどういうものなのか分からないけれど――ただ、この子を大切にしたいと思った。
 だから分からなかった。
 どうして、新一は妹を大切にしてあげないのだろうと。

 正直、小学校に入る前は、新一よりも彼の妹の紗代子と遊んでいた記憶の方が多いと思う。
 同年代の男の子達と一緒にサッカーをしに行く新一を見送って、そのまま新一の家に行って、いつも母親が選んだお人形のような服を着ていた紗代子と一緒に、おままごとや当時から紗代子が習っていた英語の勉強を一緒にしていた。
 自分も活発で外遊びが好きだったけれど、不思議と彼女と居る時は、外よりも家の中で遊ぶ方が何倍も楽しかったのだ。
 三時に近くなると、母親である有希子と三人でおやつを作って、女三人でささやかなお茶会を楽しんだ。
 楽しかった。とってもとっても、一人で居る時よりも、新一と外で遊ぶときよりも、うんと楽しかったのだ。
 今ならその理由がわかる。――紗代子が一緒に居たからなのだと。




 毛利蘭には一つ年下の幼馴染が居る。
 その幼馴染は、同年代の幼馴染である工藤新一の妹で、名を紗代子という。

「紗代子ちゃん!」
「蘭ちゃん! こんにちは、突然来てしまってごめんね」
「ううん、全然いいよ! どうしたの? もしかして、お父さんに何か用? ……依頼とか?」
「依頼じゃないの。ただ、ご挨拶をしなければならないと思って」

 胸に温かいものが一気に広がっていくのを感じる。
 探偵事務所の前に立っていた人物――人形のような見た目の少女が蘭に向かって微笑んだ。
 工藤紗代子――それが少女の名前である。
 新一の一つ年下の妹で、蘭が実の妹のように思っている女の子だ。身に着けているモノトーンのクラシカルなワンピースは彼女によく似合っていて、その見た目を更に人形のように魅せる。
 髪質は父親似である兄の新一と対照的に、紗代子は髪質も見た目も、母親の要素が強かった。髪の分け目を変えれば、途端に『藤峰有希子』と瓜二つになってしまうほどに。
 唯一似ているとすれば、時に父や兄をも凌駕する、明晰な頭脳だろうか。とはいえ、彼女は目立つのを好まず、いつも最低限の接触で済ませていたけれど。

「嬉しい! お父さんもきっと居るはずだから、どうぞ上がって」
「ありがとう、おじゃまします」

 「ただいまぁ」と、蘭が嬉しそうな顔で事務所に入る。新聞を読んでいた小五郎は、娘のご機嫌な姿に不思議そうに首を傾げた。

「おとうさん! 紗代子ちゃんが来てくれたよ!」
「んん? おお、紗代子ちゃんじゃねえか! どうした? なんかあったか?」
「こんにちは、おじさま。今日は、これをお渡ししに参りました」

 蘭の背後から顔を覗かせた紗代子に、小五郎も嬉しそうに声を上げる。お久しぶりです、と紗代子が手に提げていた紙袋を持ち上げた。「蘭ちゃん」紙袋を渡された蘭は、中に入っているものを見てぎょっと目を見開いた。

「こ、これっ、紗代子ちゃんっ。ど、どうしようお父さんっ、これ最近すっごく有名なお店の予約しないと買えないやつ! たしか、予約でも半年くらい埋まってたやつだよ!」
「なにィ!? おいおい紗代子ちゃん、これは一体――」

「おじさま、蘭ちゃん」

 背筋を伸ばし、どこか緊張した面持ちで紗代子が声を上げた。
 毛利親子は、その顔をする時の紗代子が、どういう状態なのかをよく知っていた。部屋に沈黙が満ちる。
 紗代子は一度深呼吸をして、それから二人に向かい、深く頭を下げた。

「『江戸川コナン』、という子供をお預かりしていると我が家のハウスキーパーの黒田さんからお聞きしました。私は面識も存在も知らなかったのですが、工藤の親戚であるそうですね。……いくら蘭ちゃんと新ちゃんが幼馴染で親しい仲とはいえ、本来は縁もゆかりも無い、よその子供をお預かりして頂いているというのに、きちんと挨拶をしないわけにはいかないと思いまして」

 ご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。
 紗代子の声が事務所の中に響いた。「顔を上げてくれ」と小五郎が言うと、少しの間を起き、紗代子は静かに顔を上げた。その顔色は優れているようには思えず、言葉の節々に戸惑いを含んでいるのがわかった。
 一人で立つ姿は今にも倒れそうだと思ってしまうほどだ。蘭はそっと紗代子のそばに近づき、線の細い体に触れた。体温も少し低いように思える。ここ数年で、彼女は心身ともに一気に弱ったことは、周知の事実だった。

「親類である私が引き取れたら良いのですが、私も今は一人暮らしだし、おじさまのように保護者役をするにはまだ未成年でその資格もなくて……黒田さんのほうからも私のほうからも父母に連絡は入れているのですが、一時帰国するまで待ってほしいと、私たちにはいまだに説明がなされていなくて……」
「気にしなくていいんだぞ、っつっても、お前さんは気にするよなあ」小五郎が眉を下げた。「そういう子だ。兄貴とは違ってな」
「……本当に、申し訳ありません。一応、養育費は江戸川さんからお預かりしているとは聞き及んでいます。ですが工藤の親戚であるなら、父母が帰国してでも引き取るのが筋だというのに……黒田さんはあくまで新ちゃんの保護者役ですし、契約の都合で難しいと本人も申し訳無さそうにしていて……」
「綾実さん、わざわざうちにもお詫びしにきてくれた……綾実さんが悪いわけじゃないのに」
「うん。だから本来、綾実さんが連絡を入れた時点でどんな手段でも帰国しなきゃいけなかったのだけれど……」

 心配してくれてるのは分かっているのですが、と言いながらもその表情は複雑そうで、辛そうに顔をしかめた紗代子に、「本当に大丈夫だよ」と蘭が声をかける。

「コナンくん、いい子だし、頭も随分回るみたいで、まるで――」
「新ちゃんが小さくなったよう?」
「えっ?」

 予想外の言葉に、蘭は驚きながら彼女を見た。一度は自分の胸に湧いた疑念――そして否定されたものだったからだ。
 紗代子は苦い顔で「実は、これを見ていただきたくて」と、鞄から小さなアルバムを取り出した。表紙には『新一・紗代子』と書かれた見覚えのある文字。おそらく母親の有希子が作ったものだろう。
 アルバムを開くと、幼い頃の兄妹の写真が詰め込まれていた。

「江戸川コナン――名前を聞いて調べてみたら、簡単に出てきました。鈴木財閥の、次郎吉相談役と怪盗キッドとの勝負で、キッドキラーとして名を馳せた子供。……初めて見たとき、私はまるで新ちゃんのドッペルゲンガーのような子供だと、とても困惑してしまって」
「……確かに、遠縁の親戚にしちゃあ探偵ボウズに面が似すぎてやがるようにも思えるな……蘭、コナンの素顔見たことは?」
「あ、あるよ。確かに、あまりにも新一にそっくりすぎて、私、もしかして新一がちっちゃくなっちゃったんじゃないかって、一時期、疑った、ほど、で……」

 ふう、と深く息を吐く音が聞こえた。
 家主である小五郎の溜息だ。椅子の背もたれに体重を預けた小五郎は暫し天を仰ぎ、それから視線を紗代子に寄越した。その目は鋭く、蘭の背筋がピッと伸びる。

「紗代子ちゃんが来たっつうことは、そういうことなんだな?」

 紗代子が頷いた。

「私も知ったのはつい先日……ある筋から、そのことを知らされて」
「え、嘘、まさか……コナンくんは……」

 自分がこれまで子供だと思いコナンにしてやってきたことを思い出し顔を青ざめさせた蘭に、厳しい表情のまま紗代子が口を開いた。

「蘭ちゃん、その子供が現れたのは、もしかして新ちゃんが居なくなった後じゃ?」
「う、うん。トロピカルランドで、事件が起きて。いつもどおりそれは解決して、また遊びに戻ったと思ったら、あいつ、途中で先に帰っててくれって居なくなって、それっきり……もしかしたら博士のところに居るんじゃないかって、会いに行ったら、あの子が居て……親戚の子だっていうから、新一が戻ってきたらきっと一度は顔を見せに来ると思って、うちに……」

 バラバラだったパズルが繋がっていくような音がする。
 つまりだ、と小五郎は渋い顔を隠さずに言った。

「アイツがウチに転がり込んで来たのは、ウチが探偵事務所だからだろうな。……あの野郎、蘭の優しさに漬け込みやがって……」
「た、たしかに、お父さんが眠りの小五郎って言われるようになったのも、コナンくんが来てから……でも、



「デートだったんです。銀行に寄って、それからいつもより少し遠出をしようって彼が言って」
「明日も明後日も、ずっとずっと一緒に居られるって信じてた」

 本当は、そんなことありえないのに。はらはらと涙をこぼしながら呟いた彼女を見て、胸が痛むと共に不謹慎にも美しいと思ってしまった自分がいる。

「好きにならなきゃって頑張ったけど、駄目で……誰かに意識を向けようとするたびに、斃れたあの人の顔が思い浮かぶんです。……目が…血溜まりに沈んだあの人が…もう忘れるのかって……置いていくのかって……そう、言ってる気がして……そんなこと、言うわけないのに……」

 誰よりも好きで、誰よりも愛した人だった。
 幼い子供の恋だと笑われても、それでも私にとってかけがえのない人だった。あの頃持っていた全ての熱をあの人に向けていた。大好きだった。私に温もりと愛情を教えてくれた、優しい人。
 だから許せなかった。あの人を喪って心が追いついていなかったこともあったかもしれないけど、それ以上に、倫理も道徳もなにもない、非常識な兄の言葉が許せなかった。

「紗代子ちゃんの怒りは当然よ! 私だったら引っ叩いてるもの!」
「蘭の言うとおり! 私だったら引っ叩いた上で二度と顔も見たくないって追い出してるわ!」
「写真、前に手紙と一緒にくれたよね。とっても大切な人だって教えてくれたの嬉しかった。あの写真、新一も見てるはずなのに、どうしてあんなひどいことを言えたのか、もう私、アイツがわからないよ……」
「……嫉妬、かもしれないね」
「え?」

 顔を上げる。その人は片膝をついて、私に視線を合わせてくれていた。茶色の、男性にしては少し長めの髪が揺れる。跡部に不二と呼ばれた青年だった。

「……しっと?」
「そう。紗代子ちゃんがその人を好きだったように、君のお兄さんも、たぶん君が思っている以上に君が好きだったのかもしれない。……大切な妹に知らないうちに男ができてるなんて、兄としては複雑だったんじゃないかな」
「そん、な……」
「だとしても。それは傷ついてる妹に対して言っていい言葉ではないし、亡くなった人へ向ける言葉としてもそれは最低なのには変わりないから、紗代子ちゃんは怒っていいし、無理にお兄さんを許す必要はないと思う」

 バッサリと切り捨てた不二は、その美しい顔に笑みを浮かべる。



「幸運な子だ。ほんとうに、どれだけの死体の上で、幸運であるのだろうね、君は。……いや、君たちか」
「――」
「明日が当然のように訪れる幸福……死に怯える恐怖を知らないまま、己の欲を優先し、知らず識らずのうちに他社を踏み躙り、あまつさえそのツケをばっくれて、のうのうとスポットライトの下で踊り続ける。私には、それこそ不幸に思える。家族の流した涙が己が罪と理解できなかった時点で、工藤新一くんの罪は定められただろう」

 なぁ、どうかただしく工藤新一に伝えておくれよ、江戸川コナンくん。
 そう彼女は泣き笑いのような声で告げる。

「いったいどの世界に、愛しているはずの家族≠ゥら『遺体で見つかってほしかった』なんて言葉を吐かせるような兄がいるんだ、ってね」

 頼んだよ。少女はコナンの頭を一撫でし、そのまま足早に去っていった。
 コナンには、その背をただ見つめることしかできなかった。追いかける権利など自分にはないのだと、わかってしまったからだ。

「……彼女はね、ある事件の目撃者となり、二年間、ひたすらに耐え忍んできた」
「安室さん……」

 音もなくコナンの隣に現れた安室は、子どもの目線に合わせてしゃがんで、苦々しい思い出を静かに吐き出した。

「……公安案件、だったの?」
「ああ。悪逆非道を体現したかのようなシリアルキラーだった。報道も裏で口止めして、必死に追い続けてきた。逮捕に至るきっかけが、彼女の親御さんからの通報だった。当時、彼女は中学三年生で……半狂乱のような状態で、ただごとではないとご両親が即断してね」

 駆けつけた警官に、少女は泣き叫んだ。
 言われたのだと、次は自分だと。君は好みではないのだけれど、見てしまったから君の家族も余さず手に掛けるからねと、まるで挨拶を交わすかのような気軽さで告げられたと。
 制服で訪れた警官に、少女は半狂乱で帰ってと叫んだ。救けられなかった、あなたたちは守れなかった、わたしたちの事もきっと守れない、ならせめて足を引っ張らないで私たちが通報したことを隠し通してくれ殺されたらゆるさない絶対にゆるさないおとうさんおかあさんこわいよおにいちゃんどうしようごめんなさいわたしどうしたらよかったのだってあの子もうしんでいたの真っ赤になってもうなにも音がきえていて――
 最後は過呼吸になりかけた少女を必死で介抱し、次いで上から権限が公安に移ると告げられた警官たちは、ことの重要性が恐ろしいほどに伝わったらしい。
 通報は少女の家からではなく匿名で、警官は少女の家だけではなく、近隣の家に余さず事情聴取をすべく人海戦術でどうにか目撃者情報を分散させるのに尽力した。
 そうして、公安預かりとなった少女は、二年ものあいだ、一度も家から出ることはなく、ひたすらに犯人が捕まることを祈り、耐え続けてきた。
 家族にとっても相当な心労だったことだろう。娘が突然引きこもり状態になってしまったことを、近隣には「優しすぎて、心をすこし病ませてしまった」と伝えた。
 昔から気遣いがちで優しい女の子だったこともあり、近隣住民たちもそれを信じ、家族を気丈に慰めた。一家揃って人の良さを長所に一番に挙げられるような家族だったため、人徳と言えるだろう。

「きっと、紗代子さんのことを放っておけなかったのもそれだろうね。……目の前で人が死んで、恐怖しないことはね、コナンくん。残念だけど、おかしいんだよ。僕や毛利さんは生業や、元の立場で耐性がある。けれど、本来キミ≠ェそれに耐性があっていいはずがないんだ。……強い言い方をするよ。かつて眼前で大切な人を喪った彼女に対して、今更この程度で――だなんて言葉は、あまりにも酷い発言だったと、僕は思う」

 ――少なくとも、実の妹にそんなことを言う兄が今もどこかで他人を踏みにじっていると思ったら、死んでくれたほうがまだマシだと、そう思ってしまうのも仕方のないことかもしれないね。親が死んでしまったら、どうやったって、きょうだいで支え合うこともあるだろうから。

「……帰ろうか。もう遅いし、探偵事務所まで送っていくよ、いいね?」

 安室の言葉に、コナンは青い顔で黙り込んだまま、うなずくことしかできなかった。

「蘭ちゃん?」
「綾実さん! お久しぶりです!!」
「お久しぶり。元気そうでよかった」

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