果物籠 本文
「姉はーー毒のような女性(ひと)だった」
絞り出すような声で囁かれた言葉が部屋の中に響く。由希は片手で顔を覆い項垂れる#名前#の背に手を当てて、その背中の脆さを知った。
「毒、って……」
「アレは、人の皮を被ったナニカだった……両親すら、それに気づいてしまうほど……猛毒で……」
だらりと覆っていた手が落ちる。隠された#名前#の表情は青褪めていて、ひどく消耗しているように見える。話しているのは彼女の「姉」ーー血の繋がった存在のことについてなのに、#名前#はまるでおぞましいものを見たかのように、病に冒されていくかのように
「ーーにいさんは、私のせいで縛りつけられてしまった」
私が、あの人に恋なんてしてしまったばっかりに、あの人はアレに見つかってしまった。
彼は、早くに両親を亡くしていて天涯孤独の身だった。そんな彼に淡い憧れのような、慕情めいたものを持っていたことに、姉は気づいた。ーー気づいてしまった。
「ーー#名前#ちゃん。おねえちゃんねえ、彼と結婚するから」
「……そう。おめでとう」
「うふふ、ありがとう! #名前#ちゃん、ずうっと彼のこと慕ってたもんねぇ〜、これからは本当に家族になれるよ!」
「慊人、慊人。落ち着いて、ステイよステイ。はい、ひっひっふー」
「#名前#ちゃん、それはラマーズ法」
「あらいやだ、私ったらついうっかり」
初めて見た瞬間、目に焼き付いて離れなかった。兄に連れられて珍しく「外」で泊まれることが嬉しくて、片割れに手を取られて来た神社に彼女は居た。
黒い髪。けれどあの女(ははおや)のような気味の悪さは無い、澄んだ空気のような軽やかさがある髪を揺らして、彼女は自分に笑いかけた。
「ぼく……あきと。きみは?」
「#名前#。……#名前#って、よんで。あきとくんってよんでもいい?」
「ーーうん!」