闇鍋な渋谷事変ネタ

「――後は頼みます」

真人の手が七海に触れようとした、その瞬間。

「ああ、なるほど」

いっそ異様なほどに落ち着いた、涼やかな声が響いた。

「だから私が適任なのか(・・・・・・・・・・・・)」

乾いた銃声が数発。
その音と共に、真人の体が爆ぜた(・・・)。
突然の異分子の登場に、その場に居た全員の視線が一つに集まる。
いつの間にここまで降りてきたのか誰も気がつかなかった。まるで空気に溶け込んでいたかのように急に形を見せたのは、一人の女性だ。細身のパンツにコンプレッションウェア、大手のジャケットを身につけ、ジャケットの下にショルダーホルスターが、片足にレッグホルスターが取り付けられている。
銃を持たない方の手で持っていた革製のショルダーバッグを通路の端、柱の影辺りへ放り投げ、音もなく歩みを進める。
歩きながら女は躊躇うことなく真人を撃ち続ける。カチカチと音がなり、弾切れに気づくと、舌打ちを一つ。

「何、オマエ? 呪術師――じゃないよね? その銃、呪具?」
「ん? ああ、私はただ頼まれただけなんで。あまり期待はしないで」

噛み合っているようで噛み合っていない会話をしながら素早くリロードを済ませ、再び銃口を真人へ向ける。
――が、それよりも早く真人が動いた。
呆然とその姿を見ていた虎杖は、瞬時に正気に戻り女性の元へ走る。
その姿に、女は口元を綻ばせ、「虎杖くん」と女は初対面である筈の虎杖の名を呼ぶ。

「覚えておくといい」

言いながら、素早く女はジャケットの内側から小瓶を取り出し、そのコルクを口でこじ開ける。
女は未知の物体であった。一般人である筈なのに、呪霊の真人へ攻撃が通っている。その時点で異常事態だ。
真人が迫って――その瞬間。
バシャン、と小瓶の中身が真人の顔面を濡らした。

「――っつ!」

それはただの水である筈だった。
だが。
それは真人の顔面をどんどん焼き爛れさせていく。説明のできない痛みが真人の顔面を溶かしていく。

「手持ちのカードは幾つあっても良いものだよ」

動きが止まった隙を突いて素早く真人から距離を置き、女はそのまま棒立ちになっていた七海の元へ走る。
七海は満身創痍の状態だった。左半身は焼け、もはや気力だけで立っているような有様だった。
その彼の残された固めに映し出されたのは、この場にひどく不釣り合いな、婉然とした笑みを浮かべた一人の女。
これが死神であるのなら悪くはない――そう思ってしまうほど、どこか蠱惑的な女だった。

「貴女は、一体――」
「ええ? それ、いま必要? うーん。そうだな、強いて言うなら――」

にこりと女は微笑んだ。

「死にたい貴方にとっては、鬼か悪魔でしょう」

 女性の平均以上はある背丈ではあるが、七海の鍛え上げられた肉体はそれより大きく、重い。体重を掛けただけでも並の女性であればよろめいてもおかしくない。しかし、それを難なく支えてみせた女は「虎杖くん!」真人と戦闘を始めた少年の名を呼ぶ。

「私はこの人を地上へ連れて行く! すまないけど、足止めは頼むよ!」





「私の体に描かれていたモノを再現して欲しい、と?」
「ああ。非術師である君の攻撃が特急呪霊である存在に効いた、というのは我々としても調査しないわけにはいかないんだ」
「ふむ――そうですね」

ム、と唇を突き出しながら思案する様子を見せた女は、ニコリと人懐こい笑みを浮かべた。

「構いませんよ。東京の呪術高専さん……というか、枯葉さんには定期的にうちの会社を綺麗にして頂いてる恩がありますし――何より、私自身も気になっていました」
「すまない。本当に助かるよ」
「ええ、ですが一つ、条件があります」

人差し指を上げた女は、きりりとした表情で夜蛾に言った。

「胸にニプレス、つけてもいいですか?」

流石に上半身知らない人の前で全部見せるのはちょっと、ねえ。
苦笑いを浮かべた女――否、少女に対し、「ぜひそうしてくれ」と夜蛾は申し訳無さでいっぱいになりながら深く頷いた。


白い肌に細かく刻まれた文様。所謂タトゥーシールと呼ばれるそれが、渋谷事変の当時彼女の体に刻まれていたのだという。
同性である家入に前と後ろ、細かな部分まで写真を撮ってもらい、ペタペタと触られてくすぐったそうな顔をした彼女はまた幼さが垣間見える。

「すごいな。相当鍛えてるんだな、君。ある程度体術ができるとは言ってたけど、なるほど、その通りだ」
「仕事がアクションスタントなので、戦闘シーンも多くて――特に海外は演出が派手なので、それに耐えられるように体も鍛えていますから。……でも、筋肉がつきにくいんですよね」
「これは体質だろう。バキバキの腹筋になりたいかもしれないが、諦めたほうがいい」
「ですねぇ。体脂肪率が一桁行ったときでさえこのままだったので、もう半ば諦めては居るんですが」
「女性で一桁は危ないぞ。生理が止まったりリスクが大きい」
「あー、止まりました止まりました。それでドクターストップがかかって」

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