かえ


「だ、誰か―ッ! 誰か服持ってないかー!?」
「果恵!? どうしたお前それ!」

駆け込んで来たのは前線に出ていたはずの果恵だった。
出ていくときはなんら変わりない状態だった衣服は、もはや服ではなくただのボロ布のような状態になっている。一見してみれば暴漢に襲われ命からがら駆け込んできたようにも見えてしまう状態だった。目尻に涙を浮かべる果恵に、室内は一気に混乱状態に陥る。そんな中、いの一番に声をかけたのは親友である真希だ。
果恵はグッと下唇を噛み締め、ギリギリと歯を鳴らしながら答えた。

「あの呪霊、粘液的な何かを放出してきたのよ! こんな、こんな屈辱、初めてッ……!」

両手でなんとか服の残りがずり落ちないよう押さえているものの、明らかに下着の類も溶かされているのはわかる。この布が無くなってしまえば、彼女は全裸の状態になってしまうということも。
果恵は恥じらい頬を染めているように見えるが、その目がギラギラと鋭く狩人の目だ。相当にキレているのだと付き合いの長い同級生たちはすぐに察することができた。

「――フロイライン、これを!」

少女の踏み荒らされたことのないまっさらな雪原のような柔肌は、瞬く間に黒色の外套で包まれた。その外套は誰よりも早く駆け寄った人物――麗のものだった。
麗は手早く露わとなっていた果恵の体を外套で包み込み、そのまま前のボタンを留める。

「嫁入り前の乙女の柔肌をみだりに晒すことなどできません。どうぞお使いください」
「れ、麗くん……なんて、なんていい子なのかしら……! で、でも良いの? これ、お母様のお友達が下さった一点物だって……」
「どうぞお気になさらず。前線で戦う強い女性(ひと)のために破れるなら、この外套も本望でしょう。それよりもお怪我は?」
「いいえ、怪我は大丈夫。自分の傷は治せるから……ただあの溶液のせいで、服がピンポイントで溶かされてしまって……今は彼女が足止めしてくれているけど、早く戻らないと!」
「お気をつけて。もし危ういと思われたらすぐにお呼びください」
「ええ! ありがとう、麗くん!」

「よっっしゃオラァ反撃してやらァぶっ殺してやるよ!!!」と殺意満点の捨て台詞を残し、果恵は颯爽と部屋を飛び出して前線へと戻っていった。
全員の視線はただ一人彼女に駆け寄った紳士へと注がれている。
やれやれ、と麗は息を吐き、

「こんなにも成人男性が揃っておいて衣服を剥がされた女性を保護しないだなんて、呆れますね」

美しい笑みはそのままに、あまりの出来事に動けなかった一部へ向けて毒を吐き出すのだった。


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