麦わらの天女
#名前#
とある町にて父親と二人飲食店を営む看板娘。
赤ん坊の頃捨てられていたところを父親に保護されてからそのまま育てられる。
見た目は年齢より幼く見える、華奢な少女そのもの。
しかし「羽衣」と呼ばれる能力が使え、その護りは悪魔の実の能力者の攻撃も受け止めることができる。
その力は有事の際以外は使わないようにと厳命されていたが、ひょんなことからルフィを助けるために使い、目をつけられることに。
その後、一悶着あって海賊団に入ることに。性格は温厚で心優しい。笑顔が可愛い。
純真無垢な一面を持ち、チョッパーのように感情が溢れやすく涙もろい。
チカラを使うときは「羽衣よ」から始まる。
この力は悪魔の実によるものではなく、海軍に目をつけられてからは“癒し手”としてALIVEONLYで懸賞首に。海に愛されているが、別にこちらは海を愛しているわけではない。一方的な愛情ってやーね。
頂上決戦の際、くまによって幸いにも近くに飛ばされていたことから、羽衣で海を飛んでいたところ、ルフィの姉の手引を受け、戦場に潜り込む。
そして赤犬に胸を穿たれたエースを救うため、海に連れ出してくれたルフィへの恩返しとして“羽衣”を使い、最初で最後の大技を施行。エースを蘇生させると同時に、少女の肉体は花びらのように舞い散り、消え去った、
二年後、シャボンシティ諸島にて再会を果たすが、これまでの一切の記憶を失っており、見た目は少女のままだが中身は幼子のような状態になる。
仲間のことも忘れてしまったものの、大切な相手と認識しており、ルフィと再会し新世界に旅立つ。
「ルフィ――ねえ、船長。やくそく、わすれないでね」
「“私を見つけたら、きっとまた、海に連れ出して”――」
エースを羽衣の力で蘇生させた彼女は、代償としてこれまでの記憶を失う。
二年後の時点では全てを失った状態でありながら、父親とその協力者と共に行動し、羽衣を強化することに成功。
救ったエースを連れ、諸国を巡る旅をしている。
エースは蘇生されたもののメラメラの実の能力は失われた。
これは心臓が止まり、一度「死」を迎えたことで悪魔の実が消えたと思われる。
現在はメラメラの実か、あるいは元の戦い方に近い力を身につけるために恩人である#名前#の護衛兼世話係として三人で旅をしている。
◆
大好きな船長の――彼の絶望に染まる表情を見たとき、ああ、今が「その時」なのだとわかった。
「――しっかりするの!」
薄いヴェールのようなものが、ルフィとエースを包み込む。
見覚えのあるそれに、ルフィは驚愕の表情を浮かべ、顔を上げた。
見慣れたワンピース姿の、およそこの凄惨な戦場にはふさわしくない、まだ子どもと呼べるであろう年頃の少女が、地面から数センチ浮いて、そこにいた。
「あ゛、あぁ……ぁ……#名前#……!」
呼ばれたその名に、サカズキもまた目を瞠る。
写真越しでしか見たことのなかった、とても海賊には見えないただの子供。――世界政府にその存在を求められている、悪魔の実ではないチカラを持つ、海より来たるモノ。海に愛され、海に乞われ、海より生まれ、海に還るもの。
「――〈癒し手〉!」
#名前#の作り出す羽衣は、悪魔の実の能力を防ぐ。それだけではなく、人を癒やすこともできる。
だからこそ、彼女は生存した状態であることを指定され指名手配されていた。
隙を縫って戦場に降り立った〈癒し手〉に、サカズキはマグマで攻撃を放つ。
〈癒し手〉はそれを、自身もヴェールで覆うことでやり過ごした。
しかし、マグマの攻撃は#名前#も苦しいらしい。眉をひそめた#名前#は地面に降り立ち、斃れた青年の身体――ルフィの兄の身体を見下ろす。
「――うん」
と、誰にでもなく頷いた〈癒し手〉は、絶望に打ちひしがれる船長に、力強く応えた。
「――今からわたしが彼を治す。だからルフィ、ちゃんとお兄さんを連れてにげるんだよ」
「何を言うとる〈癒し手〉。見てわからんのか、その男はもう」
「『世界政府』がどうしてわたしを求めたのか、今から教えてさしあげる」
地面に膝をつき、#名前#は地に伏したエースの肉体を己の膝の上に乗せる。
誰も、口を挟むことはできなかった。――赦されていなかった。
「まだこんなに温かいもの……きっと連れ戻せる」
少女の額には、五枚の花弁を象った薄紅色の紋様が浮かんでいた。#名前#が力を使うたび、薄く浮かんでいたそれは、今回、遠目から見てもわかるほどにはっきりと色づいている。
その形は、かつてドラム王国で見た雪に咲くあの花とよく似ていて――
「“わたしのすべてを、母なるところへ還します”」
少女の身体が、淡い光で発光し始める。
――ぶわり。
その場に居る全員が、それを『本能的に』感じていた。
大いなるチカラが蠢くところを、今、この場にいる人間は目撃していた。それは本来ありえないことだ。大いなる力とは、下賤な民草が知るものではないのだ。
知っているとすれば、それはきっと、ありもしない寝物語。
――そう思っていたものが、唐突に目の前に現れる。
そういう状況だった。
「――#名前#?」
呆然と呟くルフィに、『彼女』は微笑む。
言葉は返さず、『彼女』は膝の上に乗せた青年の躯をやさしく抱いた。
穿たれた痛ましい傷痕に白魚のような手を被せ、淡い光は青年の躯を包み込んでいく。
「“わたしの火を捧げ、彼岸に向かうかの者の火を此岸に”」
「“わたしの融け出た蝋は、すべてあなたのもの”」
ですからどうか――どうか、お頼み申し上げます。
少女の声が、なぜだか戦場に響く。
『彼女』の肉体は、およそ人とは思えないような状態にまで光っていた。
どうか、ルフィのお兄さんの命を、もういちど。
誰にも聞かれなかったその呟きに呼応するように、目を潰すかのような閃光が、戦場を覆い尽くした。
◆
「――行ぐな、#名前#!!」
#名前#の体が、花びらとなって宙に溶けていく。
ただ微笑む〈癒し手〉はルフィの言葉に応えることはなく、何かを掲げるように両手を天にかざす。
〈――――〉
口は動いているのに、声はまるで聞こえない。
けれど、何をしたのかはすぐにわかった。
「体が、温かい……?」
「なんだこれは……!?」
「まさか、あの嬢ちゃん――海賊にも海軍にも、両方に……」
「――#名前#!!」
無言で睨みつける少女に、赤犬は額に青筋を浮かべ、マグマの拳を衝動的に穿つ。
「――」
それがとどめだった。
胸に大きな穴を開けた少女は――花びらとなって、散っていった。
◆
――ねえ、ルフィ。
「どうした? #名前#」
――わたしを海に連れ出してくれて、ありがとう。
そう告げた少女に、麦わら帽子の少年は一瞬きょとんとした表情を見せて――
「にしし! おう、どういたしまして!」
と。
そう、太陽のように、ニカッと笑顔を見せながら応えた。
(――ああ、じゅうぶんだ)
最期に思い出すことが、これでよかった。
思考が融けていくのを感じながら、少女は想いを馳せる。
(海に出てから、ずっとずっと、毎日が驚きに満ち溢れていた)
悪魔の実を食べてゴム人間になった船長。お酒が好きで、ちょっとだけ迷子になりやすい三刀流の剣士。足技が得意で、女の子にとっても優しいコック。青っ鼻がチャーミングな、頼れる船医のトナカイさん。みかん色の髪が綺麗な、したたかでたくましく、頼れるみんなの航海士。長いお鼻に、飛び抜けた集中力を持っている狙撃手。花のように数多の『手』を使って戦う考古学者。体中を改造している、頼りになって面白い船大工。一番歳上なのにおちゃめな、世にも不思議な骸骨姿の演奏家。
そんな驚きに満ち溢れた人たちの「仲間」として、ここまで来られた。
(――パパ。わたし、パパの言った言葉の意味がわかったよ)
最期の別れになると知っていてなお送り出してくれた父親。再び彼に会うとき、そこにいる少女は『彼女』とは違うけれど、きっと彼は暖かく迎え入れてくれるだろう。
彼もまた、少女と同じところより生まれ出た、同胞なのだから。
だから、怖いことなどなにもない。
むしろ、誇らしい気持ちのほうが『彼女』の胸を満たした。
(ずっと、守ってもらってばかりだったから――今度はわたしが守ってあげる番)
少女は空を見上げる。
――果てしなく続く蒼穹に、なぜだか涙が出そうだった。
◆
マリンフォードで起きた頂上戦争の終盤で起きたそれを、うまく説明できる人間はきっとどこにもいないだろう。
彼らはどこまでもただの人であり――御業を使った姿を目撃した、群衆に過ぎない。
けれど、ただひとつ、わかっていることは。
――あの日、麦わらの一味の〈癒し手〉は、花となって散ったということだけ。
第一部・了