if生存

「言い訳があるなら今のうちだぞ佐野真一郎」
「……ハイ」
「そ、そんなに怒らなくても」
「#名前#ちゃんはそこで大人しくしてな」
「ウィッス」

 逆らえない。本能が逆らうなと叫んでいる。困ったなあと思いつつも体温が高くほわほわした状態の#名前#は親友の言うとおり大人しくソファに座っていることにした。
 目の前にはハリセン片手に仁王立ちの親友と床に正座する彼氏の姿。何事かと言われそうな光景だが、しいて言うなら彼氏の自業自得の一言に尽きるだろう。

「まずねえ、事実確認だけど」
 親友の容赦ない尋問が始まった。
「真一郎くんさあ、なに、いつ仕込んだ? 穴開けたんか? それとも寝てる間か?」
「……ぐ、偶然使ったのが古かったのかなーなんて」
「んなわけあるか。知ってんだぞ、#名前#に会う度新しいの買ってんの」
「なんで知ってんだ!?」
「コンビニの店員が元黒龍のメンバーだからだよ」
「マジか! 気づかなかった……」
「まあ諸事情で居たの少しの間だけだったらしいし……でもまあ頭の顔は覚えてらぁな」
「ウッ……」
「もう一度訊くぞ〜、穴開けたんか?」
「…………も、黙秘権」
「おうおうおう顔に全部出てんぞ兄ちゃんよォ」
「ガラ悪いな親友」
「ったりめーよこちとら花の高校生活ラストイヤーを潰されかけてんだぞ!」
 いいか真一郎くん、と額に今にも青筋が浮き出そうな親友が言った。
「せめて仕込むなら発覚するのが年明けになるようにせんかい!」
「うっっそでしょ親友そっち? 突っ込むのそっちなの? マジで?」
「先生にバレずに無事卒業できればこっちのもんでしょーが! シャレにならんぞこの期に及んで退学とか! #名前#のこれからの人生に影響出ちゃうが!?」
「そういう? そういうこと? なに、妊娠自体は怒ってない?」
「本人が良しとしてるのに親友がケチはつけられんだろうが! でも真一郎くんには怒るぞ、だって君、わたしたちより五つも年上の成人男性だからね!」
「さ、さすが文芸部……たしかな倫理観をお持ちだ……?」

 動揺してるのは自分だけでは無かったらしい。物語を書くのが好きで、色んな知識を蓄えている親友は普段からマイペースな姿しか見てこなかったので、その姿は三年目にして初めて見るものだ。
「いやぁ、 ちゃんが言いたいこと全部言ってくれるから母さんたちの出る幕ないわぁ、ね、お父さん?」
「そうだなぁ、父さん、娘はやらんって言いたいんだけどなあ〜ちゃぶ台ひっくり返したいなあ〜」
「親、そこの親」
 おかしい。何がとは言わないがおかしい。ダイニングの方からお茶を片手にのほほんとした様子でこちらを見守る両親に#名前#が突っ込んだ。
 だって、ねえ? と両親は顔を見合わせる。
「出来ちゃったものはしょうがないわよ、授かりものだし、こればっかりはね」
「先生方には父さんたちから話を通すから」
「まあ、さすがに先生たちもこの卒業秒読みで#名前#が妊娠したなんて話、もみ消しそうだけど」
「出産まで大体何ヶ月だっけ……待って待って待って……あー保健の授業でちゃんと聞いとくべきだった!」
「荒ぶってるな ちゃん……」


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