うそぐい


 なまえという女は謎の多い人物だ。十代に見える風貌やどこか世間知らずなお嬢さんといった言動、何よりマルコに対してお姉さんぶっているが梶には甘えたな妹のようになる感じが良い。そう語るのは彼女を連れてきた斑目貘である。
 彼となまえの関係を名付けるなら「恋人」に近いのかもしれない。とはいえ普段の二人は気まぐれな猫とそれにデレデレな飼い主のような関係性であるので、一見そうは見えないかもしれないが。
 見た目こそいとけない少女のようなそれだが、酒が飲めることからおそらく成人していると分かる。なので肉体関係を持っても合意の上なら問題は無い。二人とも成人しているので。

 うつらうつらと頭を揺らすなまえは今にも寝てしまいそうだった。気まぐれな側面のある彼女は度々生活リズムが狂うので、こうして昼下がりにも寝てしまいそうになる事がある。
 大抵はゲームをやり込んでいたのが原因であるため、堅気の仕事をしていない自分が言う話ではないかと思うものの、それはそれとして心配するのは仕方の無いことだろう。
「なまえちゃん、ベッドで寝る?」
「……んーん」
 首を振って拒否するなまえの目はぼんやりとしている。
 目の下に薄らと浮き出る隈が体は限界だと言っているのだが、本人はまだそうななってないようだった。
「そっか。じゃあなにか飲む?」
「……ん。のむ……」
「わかった。ちょっと待ってて」
「うん……」
 ソファの上に三角座りをしてゆらゆらと首が揺れる姿を長めがら、


「マーくんお風呂はーいろ!」
「入る!」
 キャッキャと騒ぎながら浴室に駆け込んでいく二人は声だけ聞けば兄弟のようなものだった。しかし、その見た目は鍛え上げられた肉体の成人男性と十代後半ほどにしか見えない少女。見た目だけなら中々に事案である。
「……あの、貘さん」
「何も聞かないで……」
 斑目が顔を覆う。
 悲壮な声でそう言う彼に、同情の眼差しを向けた梶は「わかりました」と頷いた。

「マーくんシャンプーうまーい!」
「」


 なまえが貘と出会ったのは彼が当時なまえが働いていた店に来た時だった。
 ともに生き延びた同志の少女たちの計らいで、吉田一門を通して歌舞伎町にある事情を知るオカマバーのママの所へ預けられたなまえは、ママや従業員に可愛がられながら穏やかな毎日を過ごしていた。
 とはいえオカマバー。従業員はなまえ以外ハートは乙女な男達。そんな中で働く少女――雑木林に咲いた一輪の花を目当てに来る客は数しれず、おいたが過ぎれば従業員達が責任をもってシバキ倒す楽しいお店。そこで働いていたところ、彼がやって来たのだ。
 カービングをママに教わっていた彼女は、出張でキャバクラやホストでその腕前を披露することも少なくない。
 特に吉田一門の門下生である果恵の姉が働く「すまいる」にはたまにヘルプとして入る事もあった。
 そういう時に限って何故か現れるのが斑目だった。
 やたらとなまえを気に入り、キャバクラでヘルプに入った時は必ず指名して侍らす男。なまえは心の中で彼を「真っ白さん」と呼んでいた。話し上手でなまえのささやかな胸の谷間を見てはデレデレと顔をゆるめる男を、端的に言うと「おもしれー男」と認識していたのである。

 化粧っ気の薄い、まだあどけなさの残る彼女を欲しいと思ったのはいつだったろうか。詳しくは覚えていないが、世間知らずなお嬢さんだった彼女の反応が気に入ったのは覚えている。


「枯葉ちゃんとなまえちゃんは生き残った同士ですもの」
 抱っこちゃん人形のようにひしと枯葉に抱き着いて離れない姿を眺めながらマリアが微笑む。
 不穏なワードに眉をひそめて梶が呟く。
「生き残った同士……?」
「ええ。あたしが枯葉と出会ったのはその後……彼女が高専に入ったあとだから詳しくは知らないけど」

 数百人引き取られた少女たちの中で生き残っていたのは、両手で数えられる程の数しか居なかった。
 そして屋敷の男衆は首を括りもれなく自害、あるいは発狂し廃人に。それも今では全員亡くなり、当時を知るのは当事者である枯葉やなまえ達、わずかな数のかつての少女たちのみだ。

「なまえちゃんは確か地下牢に吊るされてたのを見つけて助けたんだよね」
「何で吊るされてたん?」
「さあ……?」
「なまえは頭弄られてるから、多分そこら辺は覚えてないんだよ」
「頭を弄られた……?」
「そ。だから来る前の記憶も結構ぼやけててね。家族の元へ返すにも本人は一般の家ってことしか覚えてなかったし……」
「名前すらぼんやりだったからね。今の名前は身元引受け人になってくれた人がなまえから根気よく聞き出してそれっぽいのをつけたものだから」


 マリアと呼ばれる女性は、一見夜の仕事をしていそうな洗練された色気の持ち主だ。豊満な谷間や肉感のある肢体を惜しげも無く晒すプロポーションを持ち、しかしその戦い方は鉄球を用いて圧殺するのを得意とするパワータイプである。時折女性専門のSMバーで女王様もしている彼女は、何を隠そう枯葉に惚れていた。
「マリアは元呪詛師だもんね」
「うふふっ、今は枯葉に惚れたからもう足は洗ったわ」
 蠱惑的な笑みを浮かべる姿はまさしく夜の女王。思わずごくりと喉を鳴らした男は数しれない。
「男嫌いで呪詛師も堅気も呪術師も纏めて始末してたあたしを枯葉が見つけてくれたの……運命の出会いだったわ……」
 恍惚とした様子で語るのは甘酸っぱいラブストーリーどころか残酷なスプラッターストーリーだ。やたら具体的に男の抹殺方法を語るのが殺意の高さを伺える。


「なまえが長く居たってことは、そこに自分の力流し込んでたって事だから……まあ」
 一見飼われているような生活をしていたが、その実は守るために場を作り上げていただけである。
 本人は縛りによって能力の精度を上げており、その代わり日常において多少の不便がある。それをカバーでかたのはひとえに貘がなまえを囲っていたからだ。
 だからなまえはそれに報いるようにして『場』を作り上げた。いかにも呪霊が湧き出そうなフィールドである賭郎に、呪霊がけして入れないよう『場』を作り出したのである。故に、今や賭郎本部は外よりも余程安全な場所となっていた。

「『いらっしゃいませ』」
 人工的な音声が客を迎え入れる。裾や襟にフリルやレースがあしらわれた袴を身につけた少女がにっこり微笑んだ。
 足には編み上げブーツを履き、髪を大きなリボンで結った姿はロリータの気配を漂わせるハイカラさんの装いだ。稚い少女の見た目と相俟ってよく似合っている。


 なまえはとびきりの美少女という訳では無いが、人を魅了する独特の雰囲気や間のようなものがあった。
 それが結果して斑目のような男を引き寄せたのだが――本人が幸せなら言うことは何もないだろう。


「そもそもあんなどデカい『場』を生み出してる時点で相当カロリー消費してるはずなのに、お前、飯食うの嫌がってたんでしょ」
 だから睡眠で補っていたんだ、と枯葉。ため息混じりで呟かれた言葉に、頭の中に過ぎる光景。
「そういえば、やたらなまえちゃん寝てたような……」
 梶が呟く。記憶の中にあるなまえは、最近はやたらと眠っていた印象が強い。

「」

「その服は傷を隠すため?」
 貘の問いかけ――もはや確認作業のそれに、名前は微笑むだけだ。しらばっくれる気満々だった。
「地声じゃなくて人工音声ってことは、つまり自分じゃ喋れない状態――肺に傷でも負ったのかな?」
 なまえは微笑んでいる。
「袖の隠れる服装でただ可愛い格好だと思わせておいてその実は」

「ちょっと嘘喰い、いい加減になさいよ」
 張り詰めた空間に低いテノールボイスが響いた。
「やだな、俺は質問してるだけだよ。ママさんだって心配してたでしょ?」
 スツールに座っていた着物姿の女性――ではなく、このバーのママである男は貘の言葉を否定も肯定もせず、淡々と話す。
「あたしはなまえを信用してるもの。お前のそれは『自分のもの』が勝手に消えたことへのでしょう。一緒にするんじゃないわよ」
 黙っていれば妙齢の美女だが、その声は間違いなく男のもの。どこかちぐはぐな印象だが、言葉の内容はなまえを想ってこそのものだ。

「手ひどいなぁ」
「お黙り。第一、お前はなまえをなんだと思っているの? 恋人でもなく所有物と思っているのなら改めな。あの子は自分の意思でお前のところを一時的な住処にしていただけで、自分をお前のものとは考えていないわよ」
 何やかんやなまえも我の強い娘だ。貘に飼われてるような姿を見ることが多いが、その実は気まぐれにやって来る野良そのものである。
 なまえは普段はこのバーで働く社会人でもあり、きちんとしているところはしている妙齢の女性だ。斑目に

 写真に映る幼い少女。無垢な笑みを浮かべる姿が、今隣にいる少女と同じだと気づくのに時間はかからなかった。
「これなまえちゃん?」
「うん」
 斑目の問いになまえは笑顔で頷いた。斑目は写真に視線を戻す。笑顔で映る少女――それが荒れ果てた和室の中で、青痣だらけでガーゼを付けられた姿でなければ素直に可愛いと思えたのだが。
「怪我してたの?」
「うん。私はねー、まだ無事だった。生きてたし」
 動かなくなった子の方が多かったから、となまえが言う。
「そっか」
 斑目はアルバムを捲りながら彼女の成長録を眺める。
 青痣だらけの姿から始まり、数人の同年代の少女たちと駆け回る姿、誰かに頭を撫でられてる姿、誰かに寄り添うようにして眠っている姿……写真は正面から撮られたものから隠し撮りのようなものまで数多く、どれも荒れ果てた屋敷の一角で、少女たちは全員襦袢を着た姿というのが特徴的だった。

「ちゃんみだも見ます?」
「ちゃんみだは止めてくださいよォ〜」
 と言いつつ高い背を曲げ、なまえの持つアルバムに目を落とす。
「この前みんなで見直してたらねえ、これどう見てもホラーゲームの導入じゃんって笑ってた」
「ああ〜……」
 確かに、と写真を見た男達は頷いた。
 どう見ても和製ホラーゲームの導入だ。たぶんこの後陰惨な出来事が起きて少女たちが無惨に死ぬやつである。

「でもねえ、枯葉ちゃんが全部やっつけてくれたから、みんなちゃんと生きてるよ」
 その言葉で、鮮やかな紫色の髪の女性を思い出す。キャミソールにジーパン、サンダルに羽織りを上着代わりに着る女。その顔はよくよく見れば少女と同様に幼げに見えたのを覚えている。

「枯葉ちゃん、術式解いたら?」
「解かない負担よりも、解いたリスクのが大きくてね……」
 シンプルであるぶん汎用性が高く、そして殺意が高い術式が枯葉の能力である。
「普段は呪力を霧みたいに拡散して、レーダー代わりにしてんだけどね」

「そもそもこれやってるもう一人、男だし身長一九〇超えてるし筋肉やべーし比較すんのがおかしいんだって」
 言わずもながな、御三家の一角の若君にして天上天下唯我独尊を地で行く目隠し男である。
「」
「悟くんが居ない今、実質的な最強は枯葉ちゃんだからなあ……命も狙われるってもんですよ」
 果恵が気の毒そうな顔で言う。左半身を覆う火傷の跡が痛々しく歪むが、当人は平気そうな様子である。
 果恵はいっそ残酷な程に平然とした声で言った。
「最強だけど無敵じゃなかった。それだけの話でしょ」


「なまえちゃんが見つかったのは此処です――では」
 参ります、と接田(つぐた)は地面に手を触れる。
 地面から溢れた黒い波が全員を包み込み――
 夢が幕を開けた。

「ハッ……ハッ……」
 息を荒らげながら人気のない道を女が駆けている。
 清楚なロング丈のクラシカルなメイド服にヘッドドレス。顔には特殊メイクなのか、縫い跡のようなものが額から耳の下まであり、あどけない女の顔をどこか浮世離れさせて見せる。
「――なまえちゃん」
 斑目が呟く。
 駆けていた女はなまえだった。この日はハロウィン――彼女も人に紛れるなら人の中と仮装の群れに合わせて装いを変えていたのだろう。
「梶、梶、なまえ姉ちゃん、可愛いよ!」
「そうだね、マルコ」
 純粋なマルコの声に梶は苦笑しつつ頷き、目の前の映像へと視線を戻す。
 なまえは焦った様子で辺りを何度も見渡し、そして走っていた。両手で広がるスカートの裾をつまみ上げながら走る姿は可憐だ。こんな状況でなければ斑目も鼻の下を伸ばして見てただろう。

 なまえは額に汗を滲ませながら相手を睨みつけていた。ジリジリと逃げ道を探すように足を少しずつ後ずさるのを、男はニタリといやらしい顔で見つめる。
「逃げるなよォ〜、なまえちゃぁん」
 忌々しげに睨むなまえの顔色は悪い。対照的に、男の顔はどんどん悦に入るように高揚していった。
「捜したんだぜェ〜? まぁた頭ん中弄ってやんねぇと持たねぇよなって思ってよぉ、俺はプロだからさぁ、『作品』は最後まで仕上げてぇんだワ」
 筋骨隆々の身体は一切の隙がない。なまえを見下ろす目には残虐性と好色じみた色が滲み出ていて――
 圧倒的不利。
 この場に名前をつけるのならそれしかないだろう。
「……ハッ」
 そう、誰もが思っていた。――相対する彼女以外は。
「アァ?」
「相変わらず気持ち悪い。いや、相変わらずと言えるほどわたしの中にお前の記憶は無いんだけど」
 なまえは口元だけを歪めて嗤った。男の額に青筋が浮かぶ。
「……随分知性が戻って来てんなぁ、お前は『お人形さん』になんなきゃいけなかったんだわ、分かってんのか? ――人形の分際でヒトの真似してんじゃねーよ、俺の評価が下がっちまうだろうが!」
「勝手に人を人形に仕立てあげようとした変態がそれっぽいこと言ってんじゃねーよ。さてはテメーナルシストか? やめとけよ、見れる顔でもなし、可哀想になる」
 普段の彼女からは到底考えられない暴言である。
 煽るように男を見て鼻で嗤うなまえは、顔色は優れないが瞳にはギラギラと獣のような光が宿っていた。
 男は天を仰ぎ、深く深く息を吐き出し――
「“調律”が必要だなァ? 下手な口聞けねぇように、あの頃は暗闇に閉じ込めて発狂させてから手を加えたが……今回は俺の個人的な案件だ――お前を躾直して今度こそ完全な『人形』にしてやるよォ。そんで俺と楽しく過ごそうなぁ、キレーなお洋服着せてさァ、毎日セックスして赤ん坊たくさん作ってまた『お人形さん』を増やして楽しく過ごそうぜぇ!」
「やっぱりテメー変態じゃねーか」
 高揚する男に対し、なまえはゲンナリした様子で呟く。そして心底気味悪げに男を見やり、うへぇと顔を歪める。
「なーにが完成させられなかった、よ。お前、枯葉ちゃんに殺られるのが怖くて逃げたクソ野郎ってだけだろ」
 と断言し、なまえはロング丈のスカートの中からいくつかの棒を取り出した。組立式のそれはカシャンと音をたてながら手早く一本の棒となり――
「ほんと、気持ちわるい」
 長棒を素早く振るい、風を切る音が鳴る。
「わたしはお人形さんになる気はない。――お人形が欲しいならダッチワイフでも抱いとけよド変態が」
「お前よりかわいい『お人形さん』は居ねぇよォ、な? 可愛がってやるからさぁ、一緒に行こうぜ、なまえちゃぁん」
「――わたしを名前で呼ぶな、変態!」
 怒りのままになまえが男を拒絶する――それが開戦の合図だった。
 巨体にそぐわぬスピードで迫り来る男を長棒でいなし、更に勢いよく突きや殴打で攻撃する。
「ッ、グァ、こ、のアマァ!」
 血走った目で男が迫る。即座に距離を置いて、なまえは額から汗を滲ませ、息を深く吐き出した。
 普段の彼女からはかけ離れた姿である。いつものなまえは斑目にすら力負けし、その度に悔しげな顔で抵抗しながら足掻くほど非力なのだ。
 だが、今のなまえは違う。
 手馴れた様子で長棒を振るい、相手の勢いを利用して何度も躊躇いなく攻撃を加える。一切の慈悲も容赦も無く、ただ念入りに。
 自身へ迫り来る脅威を迎撃する姿は、立会人の暴にすら匹敵するように見えた。







「なまえちゃん、たぶん“縛り”を自分に課してるんだと思うよ」
 映像を見終わって、果恵が一番に言ったことだった。斑目は聞き慣れない単語に片眉を上げる。
「縛り?」
「そう、縛り。“縛り”って言うのは、術師が自分や他人と交わす制約と誓約で……破った場合、罰は計り知れない。喜多ちゃんのお姉さんの件がそれに相当するね」
 彼女の言葉で思い出すのは到底呪術師などには見えない、儚げな見た目の少女の姿だ。
 結界術に長けた彼女の手により、なまえの行方のヒントを掴むことができたのだ。
「確か、死んで呪霊になったお姉さんが、ご両親を……」
「そ。アレ、ご両親――特に術師だった父親が『無抵抗』で殺されてたの、たぶん“縛り”が要因。お姉さんが殺されて間もなく破ったから呪霊になった、って説もあるんだよね」
 術師とはいえ、ほぼ一般人だった父親に対し、彼女の姉は正真正銘の『呪術師』だった。
 だからこそ彼女の姉は『約束』を交わしたのだろう。愛する妹の未来を守るために。
「縛りには種類があってね。例えば自分の術式の内容の開示――弱点含めて赤裸々に話したり、自分の行動に普段から制限をかけるのも“縛り”に相当する。なまえちゃんの場合は――」
 指をくるくると宙で回しながら果恵が言った。
「たぶん、一般人には一切の手出しをしないとか、力を使えないようになる、ってとこかなぁ」
 縛りをすることで、解放時の呪力の底上げなども期待できる。呪力を体に流せば身体能力の強化に繋がり、あの映像のように手弱女だったなまえが立会人ばりの暴を繰り出すことが可能となる。『縛り』の効果をそこに付け加えれば威力はさらに増す。

「ちなみに、縛りは縛りでも、生まれつき天から強制的に肉体に与えられた“縛り”を天与呪縛といいます。身近な例だと真希ちゃんや、とーじくんがそれ」

「なまえちゃんは貘ちゃんたちを信用、信頼してたんだと思うよ。なまえちゃん基本的にあんまり男好きじゃないしね」
 されたことがされたことである。むしろなまえは珍しい例だと果恵は言った。
「大体の子は異性への恋愛感情根こそぎ絶やされたり同性じゃないと無理になったりするらしいんだけどね」
 よっぽど貘ちゃんのこと気に入ったんだね、と果恵がしみじみ言う。
「まあ今逃げられてるわけなんだけど。ねえねえ貘ちゃん今どんな気持ち? ねえねえ」
「か、果恵ちゃんダメだよ!  コラっ、ほどほどに!」
「にゃんだよう」
 斑目を突きながら愉しそうに笑う果恵。梶が後ろから抱きかかえて注意すると、ムッと唇を尖らせる。
「……果恵ちゃん」
「なあに」
「とりあえず確認なんだけどさ」斑目が果恵に言った。「なまえちゃんやっぱり俺のこと好きだよね?」
「それマジで言ってる? どっちかといえば先に惚れたの貘ちゃんの方じゃん。なまえちゃんは貘ちゃんのこと『おもしれ〜男』としか思ってないよたぶん」
「果恵ちゃん!!」
 スンと真顔で返したマジレス怪獣を梶は抱えたまま数歩下がった。
 ぷらんぷらんと揺れる身体は羽のように軽い。これでマルコ並の攻撃力と身体能力を誇るのだから、呪術師とは恐ろしいものである。

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