九字院
「ん、ふ……んん」
「っは……」
僅かに開いた口に舌を捩じ込み、咥内を蹂躙していく。逃げるなまえの舌を厚く長い舌が捉え、ぐちゅぐちゅと唾液が絡み合う音だけが室内に響いていた。
苦しくてなまえは九字院の胸を数度叩いた。名残惜しそうに離れた口からは唾液が伝い、なまえは荒い呼吸を整えながら目の前の男を見る。
「……く、くじいん、さん……やめて……」
「二人っきりのときは偲、でしょ」
静止の声は届かなかったらしい。
大きな男の手がシャツのなかに入り込み、隠されていた柔らかな膨らみを揉みしだく。手のひらでやわやわと揉みながら指で乳輪を円を描くようになぞれば、あっという間に頂がぴんと大きく膨らんだ。
羞恥に震えるなまえは縋るように九字院を見た。九字院は口許に笑みをかたどったままで、取り合ってくれそうには思えない。
それでも、と藁にもすがるでなまえは必死に頭の中を回転させる。
「あっ、し、偲さん、明日、わた、わたしっ、学校だから……!」
「あたしも仕事ですよ。なあに、すぐ終わりますから、なまえさんは寝ててもいいですぜ」
「こ、こんな状態で寝られるほど図太くないってば、やだ、やりたくないっ」
「本当に? おかしいなあ、下はこんなに湿ってきてるのに」
「あっ……い、いつの間にっ」
胸に触れていない方の手が、いつの間にかなまえの下着に触れていた。
布越しに焦らすように敏感なところに触れる手つきはいやらしく扇情的で、それがどんどんなまえの体を火照らせていく。
(ダメなのにっ、ダメなのに……っ)
止めさせなければと思えば思うほど体が甘い渦に巻き込まれていく。思考が鈍っているのが嫌というほどよく分かった。
「ほらここ、わかります? いつもあたしのを呑み込んでるところ」
「ヒッ、や、やだあ……っ」
身を捩らせながらも小刻みに震える体は興奮を隠しきれていない。薄紅に染まってきた頬がそれを証明していた。
クロッチの上からなまえの陰核を引っ掻くように擦る。半分泣きかけてる声が嬌声へ変化して、理性がじりじりと燃やされていく。
「あっ、あ、やめ、あっ」
「何にも怖いことなんてねえですよ。なまえさんはただあたしに体を任せてくれてりゃあいいだけです」
「うっ……うう……」
ダメだと頭の中で結論が出ているはずなのに抗う力が弱まっていく。九字院の方もそれに気づいてるのか「いい子」と耳元で囁き、そのまま蹂躙を再開する。
(……明日、学校行けるかなあ)
完全敗北だ。甘く混濁していく意識の中、最後に思ったのは明日の心配であった。
◆
「あっ、アッ、そ、そこ、や、んんッ」
「やだじゃなくて気持ちいい、でしょ……っ、はは、こんな締め付けておいて」
ナカに入ったペニスをきゅうと締め付ける感覚が九字院の理性を崩れさせていく。
前も今も彼女との体の相性は抜群らしい。それは喜ばしい事だった。
――前のときは、最期まで会えなかったし、と胸の奥に苦いものが広がっていく。
曲世愛という「悪」を裁くための唯一のトリガーであったなまえは、未来を犠牲にして逮捕に貢献した。
結果として特捜班の死者はゼロ、齋は取り逃したが諸悪の根源である女を逮捕し、法の下で裁くことができた。けれど。
(あたしゃ、あんたの居ない世界にそこまで価値を見い出せなかったもんでね)
ひどい男だったと思う。告白などありもせず、協力者という関係――それもなまえは協力者の妹という関係で、なんとなくそういう雰囲気になったから抱いた。我ながら最低の所業であったとつくづく思う。
けれど最後に想ったのは執着にも似た恋慕だった。その時にはもう、彼女は手をすり抜けて去っていたが。
だから、生まれ変わった彼女がほとんど覚えていないのも無理からぬ事だ。それを浅ましくも自分の狭量さは許せなかっただけで。
奥に押し付けるように楔を打ち付け、なまえの嬌声を聞くことでようやく安心することができる。
今生でも「前」と変わらない姿と名前で生まれ落ち、いつもあの後ろ姿を探すようにして生きてきた。
だから再会した時――兄の絢は全部覚えているらしく、あからさまに嫌そうな顔をしていたが――ほとんど覚えていないにも関わらず、ひしと自分に縋るように抱きついた幼い少女の姿に、やっと救われた気がした。
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