彼女は困っていた。とてもとても、困っていた。
 「マルテ」と呼ばれる少女は、まるで深窓の姫君のような出で立ちをしていた。白金色の腰まである髪と、透き通ったブルーの瞳を持つ、日本人離れした整った顔立ち。しかし彼女は生まれも育ちも日本の生粋の日本人であり、好物は和食、パンよりご飯が好きな普通の少女である。
 そんな彼女は、ある日突然父親を名乗る男とその片翼のような黒塗りの男に拐われてしまった。それから今日に至るまで、どの国なのか、そもそも自分がいた世界なのかもわからない異様な城の一角に囲われていた。それはさながら鳥籠のようだった。

「帰りたいわ、とても……」
 頭に思い浮かぶのは今も帰りを待ってくれているであろう養父母の姿。早く帰りたい、お父さんとお母さんに会いたい――そんな切なる少女の気持ちを理解できる者などこの城に居るわけもなく。孤立無援、断崖絶壁のなかでそれでも彼女は諦めなかった。




 
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