じん

「やっ、おはよう」
「お、はよう、ございます……」
 にっこりと笑う男の人。着ているものからしてボーダーの人ということには間違いないのだろう。私はどうしたものかと頭をひねる。
「あ、おれは迅。霜月ちゃんからキミのこと頼まれてたんだよ」
「 が……?」
「そうそう。今霜月ちゃんはお兄さんとちょっと外せない用事があってね、それまでボーダー内を案内してほしいって」
「そうだったんですか……」
 頭に思い浮かぶのは小学校からの友人の姿。小柄で真っ白な肌から妖精みたいと連想しがちな、かわいい友達のことだ。おそらく苦渋の決断だったのだろうな、と思う。あの子は責任感の強い子だから、ウンウン悩んだのは想像にかたくない。

「よろしくお願いします」
「はい、よろしくね」
 それじゃあ行こうか、とにっこり笑う彼に私は頷き、大きな建物――ボーダー本部に足を踏み入れたのだった。

「なまえちゃん!」
「 ちゃん」
 タックルする勢いで私の腹部に突っ込んできた友人を受け止める。その後ろには朗らかに笑って手を振ってくる友人のお兄さんの姿。手を振り返し、私は腹部に顔を埋める友人の背を優しく撫でた。
「ごめんね、迎え行けなくて……」
「いいよ。用事なら仕方ない。それよりも」
 それ制服? という問いは曖昧な笑みで黙殺された。彼女の姿はお人形さんのようにフリルのあしらわれたワンピース姿だったのである。
「おっ、 はおめかしスタイルだな。聖のデザイン?」
「……お兄ちゃん、っていうか開発室の人たちが、次のイベントで使えないかってモデリングしたのの試着させられて……」
「あー、なるほど」
 と頷く迅さん。
「聖(ひじり)お兄さんの格好は?」
「これ? 俺は戦闘員じゃなくて裏方――開発室で働いてるからね、そこの制服みたいなものだよ」
 聖お兄さんの服装はツナギのような形のもので、なるほどと私は頷いて頭の中でメモをとる。
 裏方――戦闘員以外の仕事は、主に技術開発などの開発室と、隊員のサポートなどをするオペレーターの二つだと聞いている。私が希望したのはオペレーターの方である。これは『折衷案』なのだが、何より重要なのは入隊することだったので。


「ああ、そうだ。なまえだけど――戦闘員としても訓練させといた方がいいよ」
 迅の言葉に、聖が片眉を上げる。
「――と、いうと?」
「この先、彼女の行動次第で大分未来が変わるんだよ――頼んだ、聖」
「それは別に構いませんが――」



 これは意識の問題だ。
「アステロイド」
 呟くと共に現れた四角い物体。私は頭の中でイメージする。光るこの立方体を、どこまでも細かくするのを。
 割って、割って割って割って割って割って割って割って割って割って割って割って割って割って割って割って割って割って割って割って割って割って割って割って割って割り続けて――そして。
 イメージは霧だ。けれど色として出てしまわぬよう気をつけて、丁寧に、それでいて大胆に。
 霧状のそれを練り上げて――
「えいや」
 ブスッ、と。さながら槍のごとく。私はモールモッドをアステロイドで撃ち抜いた。


「うおっ、マジか」
 仮装戦闘のモニターを眺めながら驚いた声を上げたのは出水だった。隣に立つ米屋も驚いた様子で、楽しげに声を上げる。
「やべーじゃん、あれ。何分割したんだ?」
「わっかんねえ。トリオン量は……シューターとしちゃ十分だな、オレより少ないけど二桁行ってるし」
「二桁行ってなくてもあそこまでできりゃ上等だろ」
「はー、アレでオペレーターなの? 勿体ねえ〜」
「聖さんが言うにはそうみたいだな」


「なまえちゃんは……」
 黙り込んだ迅に、嵐山は不思議そうな顔で首を傾げる。


「運命の人、なあ……」
 我ながらクサイ台詞を言った自覚はあった。
 相手は五つ年下のまだ中学生の女の子だ。手出しどころか、そもそもまだそこまで距離が縮まった訳でもない。だと言うのに――
(未来の選択肢が格段に広がっていってるんだよなあ……)
 それも、自分の未来が。迅はうーんと唸りながら口元に笑みを浮かべた。
 まだ見た事はないが、いずれ見るかもしれない花のように微笑む彼女の姿を――現実でも見たいと思ってしまった。
 第二時大規模侵攻の際、酷いことを選択させてしまっているというのに、それでもと求めるのは滑稽なことだ。窶れた顔で、けれど懸命に笑って強がった顔を思い出す。
 彼女のおかげで重傷者こそいたものの、オペレーターの死傷者はゼロだった。もし彼女が居なければ、最低でも五、六人は死傷者が出ていたはずだ。
 死人は出なかったが、本来オペレーターである彼女に戦闘を強いたこと、救援が来るまで怪我人の手当てに奔走したこと、精神が擦り切れる思いだったことだろう。
 たくさん労われてほしいとおもうが、
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