「ナマエ、君が好きだ」

切れ長の紫の目が射抜くように私を見つめている。紡がれた言葉は私への好意で、嬉しいものであるはずなのに心は踊らなかった。それは、私が彼に対して仲間以上の感情を持っていないことの現れであることを意味しているから。
そっと目を伏せて一呼吸置いたあと視線を絡ませる。

「……それは、私が応えられないと分かったうえで言っているのよね?」
「ああ。それでも伝えないと、僕は一生後悔すると思ったから」

目の前の少年は私の問いにもはっきりと答える。年齢よりも大人びた彼らしい答えで、私の心を軋ませた。

「そう。ありがとう、ミクリオ。私を好きになってくれて」

謝るのは違うと思ったので感謝を述べる。感謝したところで、少年ーーーミクリオの気持ちには応えられないから。私は家族を持てない、つまりは特別な存在を作ることが許されない制約があり、彼もそれを分かったうえで伝えてきたのだ。その想いを無下にしないために、謝罪は違うと判断しての返しだった。

「諦めろとは言わないんだね」
「言ったところで諦められるの?」
「……いや、多分無理だね。伝えれば諦めもつくかと思ったんだけど……むしろ前より、大きくなった気がする」

ダメじゃない、とおかしくて笑えばむっとしたような顔になってしまった。普段背伸びしている分、そういう子供っぽい表情をするとこは可愛いなと素直に思う。
ミクリオは適わないと思ったのか、一息つくと困ったように笑った。

「でも、想いを抱えたまま過ごすよりずっといい」
「……そうね。天族だし穢れはしないでしょうけど、煮え切らない想いは隙に繋がるから」

ミクリオはのつっかえが取れたように晴れやかな表情で見つめてきたので、私も微笑み返す。
私達人間と違って穢れを生まない天族の少年。けれども、迷いや悩みがあっては油断に繋がってしまう。命懸けの戦いをしてる私たちにとってそれは自分だけでなく仲間をも危険に晒しすことになるのだから。吹っ切れたようで良かったと思った。

ふと、ミクリオの手が私へと伸ばされ肩に触れたかと思うとそのまま彼の方へ抱き寄せられた。線の細い身体だが、しっかりとしていて彼も男の子であることを意識させられる。本当は振り払うべきなんだろうが、彼がけじめをつけるための行動だろうと踏んでされるがままに身を委ねる。腕は、彼の背に回さないままで。

「先手は打ったし報われなくてもいい。ナマエが僕を意識してくれれば、それで」
「先手って……え、どういう」
「なんでもないよ」

ミクリオの言葉の意味がわからなくて体を離そうと手に力を込めるが、抱きしめる力を強められて抜け出すことができなかった。
意識してくれればいい、ということは……彼はこの先私が応えられないとわかった上で口説き落とそうというのだろうか。ああ、そんなことを聞いてしまったら本当に嫌でも意識せざるを得ないじゃない!

じわじわと顔に熱が集まってくるのを感じた。

「さて、そろそろ皆が呼びに来るだろうし戻ろう」
「う、うん」

そう言って体を離し、ミクリオは自然な動きで私の手を取ってキャンプの方へ歩き出す。あんな言葉の後で手を握られて意識しないわけがなくて、赤くなった顔を隠すように俯いて彼の後をついていった。

今度は、私が赤くなる番だった



〜2017/10/29 拍手お礼