「おかえり、早かったのね」
「ただいま。ちょっと色々あってさ」
不自然じゃなかっただろうか。顔は赤くなっていないだろうか。そんなふうにオレが考えてるなんて、目の前のこの人は思ってないだろう。ふぅん、と不思議そうに彼女は言って本を閉じた。
「もう読んだの?」
「いいえ、続きは明日にしようかと思って。今日の探検の成果が聞きたいわ」
村の外に出ることを禁じられているナマエは、オレと幼なじみが持ち帰る土産話を楽しみにしている。女の人にとったらつまらない話だと村の女性天族は言うが、彼女はそんな素振りは見せなかった。むしろ興味深そうに聞いてくれるのでつい熱く語りすぎてしまう。
それでも、嫌な顔一つせず相槌を打つこの人は本当に優しい女性だ。きっと自分はそんなところに惹かれたんだと思う。
持ち物を置いて、『天遺見聞録』を片手に彼女の隣に座った。
「たいした成果はなかったんだけど、昨日の続きからでいい?」
「もちろん!楽しみだわ」
オレが話して、彼女が相槌をうつ。代わり映えしない毎日だけど、こんな穏やかな日々がずっと続けばいいと思った。