02
よくどうでもいいことを考えることがある。
例えば「蛇が蛙に睨まれる」なんていう諺があるけれど、もし蛇が蛇に睨まれたらどうなるのだろう、とか。圧倒的な力の差がある者同士が相対するから、一方が逃げることも手向かうこともできず、身がすくんで動けなくなることを表している諺なのだとしたら、力にそこまで差がない者同士が相対したとき、どうなるのだろう。
その答えが、今この瞬間な気がする。
存在が不思議でしょうがないのだ。なぜここに居るのか、なぜ出会ったのか、なぜ身動きが取れないのか。はたして理由があるのか、ないのか。別に考えることでもないと言われたらそうなのかもしれない。しかし、この瞬間は私自身にとって意味のあることではあるような、そんな気がした。
「なァ!お前医者だったりしねェか!?」
炎も凍ってしまうような静けさを断ち切ったのは麦わらを被った男だった。
彼はニッと口角をあげ、まるで小さな子供のように無邪気に笑いながらそう言った。周りはギョッとした顔をしながら彼を見つめた後「そんな訳あるか!」とやいのやいのと責め立てる。
「…医者が必要なのか?」
「そーなんだ!仲間が病気でよ!」
わたしが疑問を投げかけると、麦わらの男は困ったような顔をしながらそう答える。「言ったよこのバカ…」と頭を抱える緑髪、「医者なわけねぇだろが」とため息をつく長鼻、「美しい…」と目をハートにする金髪。
どうやら周りの反応を見ると、”病気の仲間がいて困っているから医者が必要だ”というのは嘘ではないらしい。
「…残念ながら、医者じゃない」
「ほらな」
「だから言ったろ」
「うーん…なんか予感がしたんだけどなァ」
わたしがそう答えると、周りはため息をつきながら当たり前というかのような反応をし、麦わらの男は腕を組みながら首を傾げて唸った。
「でも…」とわたしが続けると、男たちはピクリと肩を揺らして反応する。
「医術は多少齧っている」
わたしがそう言うと、麦わらの男はパァッと花が咲いたように顔を綻ばせた。さっきよりも嬉しそうに笑って「ホントか!?」と船の欄干から身を乗り出す。
緑髪と長鼻は顔を合わせ「本当か?」とでも言いたげな、疑念のありそうな顔をしていた。
「頼む!仲間が苦しんでるんだ!助けてくれ!」
麦わらは今度は顔を歪めながら両手を顔の前で合わせてそう頼み込んできた。
正直、こうして出会ったことは偶然でしかなく、知り合いでもなんでもない彼らの仲間を助ける義理は全くもってない。自分に得は1ミリもないうえに彼らを助ければまぁその内立場が危ぶまれる可能性だってある。デメリットの方が大きいのだ。
「…交換条件は飲めるか?」
そう言うと、麦わらは「おう!いいぞ!」と即答し、緑髪と長鼻は「おい!」と怒った顔をし、金髪は「喜んでー!」とクネクネ踊る。
デメリットの方が大きいのは分かっていたけれど、条件付きでも彼らの要望に頷いた。
何故かは自分でもよく分からない。
でも、こんなにも病気の仲間を助けたいと表情をコロコロと変えながら出会ったばかりの得体のしれない奴に縋り付くこの男が、何だかすこしだけ可笑しくて。
「腹が減ってる、食べ物を分けてくれ」
ほんのちょっとだけ、知ってみたくなった。
わたしの出した条件を聞き、麦わらはまたニシシッと歯を出して笑い「当たり前だ!」と快諾した。
警戒心がないというより、自分の欲に向かって真っ直ぐなんだろう。そんな男と共に過ごすこの頭を抱えた男たちは、なかなか日々苦労しているんだろうなと思いながら、彼らの船の欄干から降ろされた縄ばしごを一歩一歩登った。