彼岸と屁理屈は使いよう
 もう限界だった。
 長男だからと言い聞かせて、竈門はここしばらくを耐えていた。
 全部気のせいだと、最近視力落ちたからと、ちょっと寝不足だからと、風邪ひきやすい季節だからと、先週雨降ったからと、明日体育あるからと、由縁などありもしないような言い訳をひたすら並べて耐えていた。
 が、ちょっともう限界だった。
 ホームルーム後の教室掃除当番が始まりだすころ、竈門は掃除用具入れのなかにあった顔と目が合った。
 ごっそりと闇だけを湛えたような顔をして、その実目だけは「そこにあるな」とわかるほど爛々と光っていた。端的に言えば、ぱっと思い浮かぶような悪霊が掃除用具入れの中で竈門をひたりと見ていた。
 あー、目が合っちゃった。決定的に見た。完全に見えたこと気づかれた。なんかもうだめだ。
 竈門は諦観の勢いのまま、掃除用具入れに向かってけっこう勢いよく吐いた。教室中に響いた悲鳴は、事件の本格的な始まりの鐘だった。


***


「悪霊ォ?」

 橋本は給湯室ですっとんきょうな声を上げた。「うむ」と頷いた煉獄は、マイ水筒に湯を継ぎ足しながら説明した。

「学園中が噂でもちきりだ。なんでも、よくあるホラー映画の少年の霊のようなのがあちこちに出るとか」
「お前それ白湯だけ飲むの?」
「いや、ティーバックを入れている。二煎目が好きなんだ」
「半日入れっぱなしにしたティーバックとか出涸らしだろ。で、悪霊、お前は見たのかよ」
「いやまだだ。どんなだろうと思っているから、答え合わせしたい気持ちもあるが」
「どんなんだと思ってんの」
「キャビン」
「馬鹿言え、あれはパニックホラーのモンスターでやるスマブラだろ。せめて貞子VS加耶子とか言っとけや」
「あれは怨霊プロレスだろうが。ビールと揚げ物で優勝するタイプの映画だろう」
「それでも悪霊の域だろうが、お前のはそもそもモンスターなんだよ。お前どっち派? 俺は加耶子。インスタがおもしれえ」
「インスタとは何の略だ?」
「あっそ」

 昼休みの給湯室は、意外にも人の出入りが少ない。皆それぞれこだわりの飲物を自宅から持ってくるからだ。悲鳴嶼が持ち込む玄米茶の相伴に預かったことのある橋本は、「あれ常飲してたら急ごしらえのコーヒーなんか泥水だぜ」と感動したのをよく覚えている。
 ともあれ、と話題を変えた煉獄の目は、策を練っているときのそれだった。挑発するようにキロリ、と橋本を見る。

「どう思う?」
「どうも何も、もちきりってことはけっこう広まってんだろ。けっこう広まってるってことは、目撃した人間が多いか、インフルエンサーが発信したかのどっちかだ」
「うむ、どっちもだ。目撃者かそれに同伴していた生徒がそれなりの人数いる。インフルエンサーに関しては竈門少年だ。遭遇した拍子にびっくりして吐いたらしい」
「あーらら。まあ年相応の反応だが、気の毒に」
「まあ、竈門少年が戻す程度にはショッキングな見た目か、茶渋よりもしつこいのだろうな。実際にそれが原因での欠席も出始めている」
「マジか。PTA総会までに解決しなきゃダメなやつじゃねえか。元柱の皆さんは何か動いてんの?」
「いや、鬼でもないし、実体がないと斬れないし」
「忘れてた、脳筋しかいねえんだった、鬼殺隊」

 あーあ、と橋本は泥水みたいなコーヒーを煽った。今朝は自宅で仕込んでくる余裕がなかった。昨晩ネットフリックスで洋ホラーを観ていたら、暗闇がしっとりと怖くなって寝付けなくなったのである。そういう日に限ってとんぶりは近寄ってこない。洋ホラーはパワーにあふれているから、万一遭遇した時に太刀打ちできるか不安になったのである。呆れておきながら、橋本も大概ホラーに対して物理で解決を試みる性質であった。

「学生が昼間学校にいるうちに遭遇してる率が高そうだな。それか下校時刻守らねえでグチャグチャ居残って遊んでるクソガキが多いのか。後者なら因果応報だが、前者ならちょっとちゃんとしてやらねえと」
「後者、間違っても総会で言うなよ。さて、策を聞かせてみせろ」

 そう言って橋本の顔を覗き込む煉獄の顔は、日曜の朝にテレビの前で待っている子供と同じだった。俺はニチアサヒーローじゃねえ、怪獣特撮のほうが好きだし。口には出さず、逆に挑発するように眉根を上げて言った。

「お前、実体さえありゃ斬れんの?」


***


 我妻は後悔した。
 自身の才能をひどく後悔した。
 我妻は、忌憚なく言えば「器用貧乏」であった。大抵のものがそれなりぐらいにできる。どんな無茶ぶりをされても、ある程度形にできるとても器用な少年だった。それで褒めてもらったこともなくはないが、災いしてトラブルに巻き込まれることの方が圧倒的に多かった。
 またかよ。我妻は社会性を怒りが追い越したのを自覚した。教師相手に、同輩にキレ散らかすときと同じ顔を向けている。クソキレ顔の先にいる橋本は、しかしツラッとした顔で静かに繰り返した。

「だからお前、いっぺん悪霊に襲われてこい」
「ごめん俺の耳おかしくなった? なんて? ヤクザとかげ、実験マグロに大慌てっぽい?」
「お前ほんと小器用だな。ビート流すからワンバース蹴れや」
「重ね重ねふざけんじゃないよォッ!」

 放課後の踊り場は噂の影響もあって人通りが少ない。我妻の悲鳴はよく響いた。

「炭治郎が吐くくらいヤバいやつでしょ!? やだやだやだ! 俺に死ねと!? そう言いたいの!? やッだー!」
「そうですよ、いくら善逸の変顔が悪霊みたいだからって、おばけにカチコミさせるのは」
「そうだぜ。紋逸の変顔、いっとき夢に出るくらい人間じゃねえ顔だったが、だからって」
「援護射撃でフレンドリーファイアするのやめてくれる!? 善意のふりした殺意が一番えげつねえから!」
「ふれんどりぃふぁいあ?」
「味方間での誤射のこと」

 ぎゃおお、と踊り場でのたうつ我妻を眺めて、同席した竈門、嘴平、橋本、煉獄は「この動きをする霊が出てきたら泣く自信あるな」と思った。物理法則でケツを拭いたような大暴れで我妻は抗議する。その必死さといったら、橋本が策を練り直すか検討しはじめるくらいだった。びっくり人間というよりも、正気度に訴えかけてくるような挙動である。ちょっと見るに堪えない。

「俺だってこんな綱渡りしたくねえけどよぉ、手ごろなところで頼めるのがお前しかいねえんだよ」
「妥協案で俺なんじゃん! 最低! 俺のことは遊びだったのね!」
「小芝居を打つ余裕はあるのだな、我妻少年?」
「ないです! これっぽっちも! イヤァーッ、せめて説明して! 納得できなくても理解してるだけマシなことって往々にしてあるでしょ! せめて説明責任果たしてッ!」
「うーん、あーこれ言ったらなあ。うーん言って……うーん」
「何悩んでるのよッ! 仕事とアタシどっちが大事ッ!?」
「仕事だバカ野郎」

 橋本は一度どっしりと溜め息を吐いて頭を掻いた。未だ床でビッタンビッタンしている我妻の肩をなんとか引っ掴むと、我妻が飽きて黙るまで静かに待った。幼子の世話かと思った。

「ンェ……わがったよぉ……静かに聞くから……じっと見てくるのやめてぇ……」
「おう。じゃあ話すぞ。まずなあ、お前の前に頼もうと思ってたのが二人。宇随先生は除霊だーっつって美術室以外の場所を爆破されるのが困る。次が姐さん」
「姐さん?」
「見かけたことないか? 昇降口とかにたまに来てる」
「なにそれ!? 女の人を幽霊に突撃させて事件解決しようとかなに!? 効率化に魂でも売ったの? 頭ターミネーター? 溶鉱炉に落とすぞ、溶かしたアンタで日輪刀を作ってやる」
「煉獄ジャッジだ! 今のアウトだぞ!」
「キレ戻ったな。つかよく知ってんな世代じゃねえだろ」

 女性の介在を聴かされた我妻は、橋本が抑え込んでいなければ、間違いなくねずみ花火の再来のような暴れっぷりを披露する。踊り場で絶叫しながら奇妙な振動をしている生徒と、それを力ずくで抑え込んでいる教員がいる。監視カメラとかなくてよかった。これを観た用務員が仕事を休むに違いない。

「ほらな、お前が聞いたら周りも巻き込んで発狂しそうだったし、姐さんにも迷惑だし。で、お前よ。満足したか、お前が頑張れば姐さんが安らかに暮らせるんだから気張れ」
「そッれを最初に言ってよね! 女の人のためだったら最初っから頑張るって言ったわ! あーゴネ損した!」
「ゴネ得じゃねえか? 俺も滅多に会えねえし」
「いいもん、俺昇降口に住むから」
「我妻少年、それは教員として聞き捨てならない。竈門少年からも言ってやれ」
「だからモテないんだぞ、善逸」
「知ってるぞ、これストーカーっていうんだろ」
「ほんっと容赦ないわねッ!!」

 またもウギギィ、と吠える善逸を、抑え込むのを諦めて床に転がしながら橋本は鼻から長い溜息をついた。第一段階の最初がこれでクリアだ。やっと始まった。気が遠くなる。
 そういえば、と煉獄が口を開いた。

「俺もまだ作戦の全容を聞いていないが、周知しないほうがいいものか?」
「あーうーんどうだろ。お前くらいならいいのかも」
「聞いた? 俺たち作戦知らされないままこの戦に投入されるらしいよ」
「まあまあ、鬼殺隊の頃もそんなだったろう」

 竈門の穏やかな口調で吐かれた事実に元上級隊士ふたりが「ング……」となりながら、「それでも本作戦は基本的に俺の裁量で全部やる。幸いこんな時代だ、何かあったら即スマホで連絡がつく。グループ作るぞ」と懐からスマホを出した。

「ラインですか?」
「いやディスコード」
「面倒くさいな、素直にライン使え」
「バッカお前、作戦時に懐からおもくそ呑気にライーンとか鳴ってみろ。めっちゃおもしろくて真面目にやってらんねえだろうが」
「ポキポキにしておきなよ……」
「ラインてなんだ!?」
「お前文化水準おかしいぞ。ひとりだけ縄文かバカ」

 男三日会わざれば刮目し、三人寄ればかしましい。五人も寄っていればなおのこと。五人は決して広くない踊り場で額とスマホを突き合わせてグループをつくり、しばしスタンプで戯れてからその日は解散した。
 スタンプをひとつも購入していない嘴平だけが完全に置いてけぼりを食らっていた。



***



「学年だよりを配る。前の列から順番に回すように」

 一年筍組は欠席者が六人になった。クラスメートが徐々に減っていく実感が、恐怖となって他者をも蝕んでいるのを痛感する。橋本先生が言ってたな、集団パニックってこういうのを言うんだっけ。竈門は前の席から渡されてきたプリントを受け取って、後ろへ渡す前に「ギャア」と叫んで全部放り投げた。

「善逸、善逸……! 絵がうまいな……!」

 びっくりしてバグりかけた心臓を押さえながら竈門はプリントを拾い上げた。
 学年だよりには、「放課後は可及的速やかに帰宅するように」、「学食のB定食が変わります」、「演劇部の公演があります」、最後に悪霊騒ぎについての記載があった。
 竈門がびっくりして紙束を放り投げてしまったのには理由がある。その紙面に、以前ロッカーに吐いた際に見た悪霊がいたからだ。

「悲鳴嶼先生、これイジメすか? 教育委員会に電凸していい?」
「炭治郎くん、これは吐いても仕方ないよ」
「とんだ巻き添えじゃねえか、誰だこの絵描いたやつ。なんだこのサイン」
「読めねえ。ミミズのほうがもっとマシな字書きそう」
「言いたいことは多々あるだろうが、ようは手配書である。この顔を見たらすぐにその場から離れて教員を呼ぶように」

 正しくは、そこにあったのは「橋本の指示により、竈門から悪霊の特徴を聞き出して我妻が描いた悪霊の絵」であった。右下のミミズがのたくった跡が我妻なりのサインなのだろう。いやしかしどう崩したにしても読めない。
 竈門はなるべく絵を見ないようにプリントを折りたたみ、ホームルームが終わってからすぐに例のグループにメッセージを投げた。

「俺が何をしたって言うんですか」
「え炭治郎のクラスも俺の絵配られたの? 恥ずかし」
「あれ全学級分コピーしてる時の俺の気持ちにもなれよ。よくやった」
「橋本、それは誰に向けての言葉だ? 我妻少年か?」
「もんいつのえめちゃくちゃこわいぞ! なんだこれ たんごろうのもらいげろしそう」
「俺がいつも吐いてるみたいに言わないでくれ」

 ぽこ、ぽこ、とあとからあとから湧いてくるメッセージは矢継ぎ早でとめどない。首謀者と実行犯ですらこの心持なのだから、まったく知らないでこれを見せられた生徒の心中はいかばかりか。竈門は顔も名前も知らないだろう全校生徒になんとなく詫びた。南無三。

「お前らに言うのも例えが悪い気がするが、お前ら鬼ってどういうの連想する?」
「どうま」
「兄貴」
「鬼舞辻・ファッキン・無惨」
「お前」
「杏寿郎あとで話がある」

 鬼、鬼かあ。言われてみれば、たしかに俺たちは鬼狩りをやっていたから、一般人が想像する鬼とは違うものをもう知ってしまっている。普通の人が思う鬼ってどんなのだっけ。竈門がなにとなく上の方を見ていると、クラスメートが「竈門、理科室いくぞ」と声をかけてくれた。画面の中の時計を見やれば、ぼちぼちギリギリの時間だ。

「これは説明が長引くからあとにする。お前ら授業中は電源切れよ」

 橋本のメッセージを表示したっきり、トークは沈黙した。自分も早く準備しなきゃ。席を立って教室の外に視線をやった一瞬、教室の隅に黒いものを見た気がした。

「……ッ俺は長男ン!!!!!!!!!!!!」
「知ってるぞ竈門!?」


***


「例えが悪かったって言ってんだろうが」

 いつもは教室で慎ましく弁当を食べている竈門は、慣れない学食の空気にドギマギしながら唐揚げを食べた。四限目が終わった時点で、おばけ退治グループラインに橋本から呼び出しがかかったのである。思えば初めて足を運んだ。ちらりと面々の顔を盗み見てみれば、煉獄以外は居心地が悪そうだった。それもそのはず、根明の煉獄以外はおおよそコミュ障かコミュ弱、学食なんぞ居心地の悪いところで飯を食う趣味はないのである。呼び出しをかけた橋本本人も「俺なんでこんなとこに呼び出したんだっけ」みたいな顔をしている。

「お前ら相手に鬼を例えに出したのが悪かったって自覚はあるんだよ。杏寿郎は放課後マジで話聞くからな」
「しつこい男だなお前も! 新しくなったB定食うまいぞ! ほらこれやるから機嫌を直せ、ゼリーの裏蓋」
「わーいペロペロ〜ってやんねえわボケが! ざっけんなお前本当ふざけんなお前マジで。ああもう話が進まねえな、覚えてろよお前。えーっとな……」

 橋本は持ってきているらしいおにぎりのラップを乱雑に剥きながら眉間にしわを寄せる。嘴平のおにぎりと交互に見ると米粒みたいな握り飯だった。我妻はこの半日で各所から「よくもお前あんなもん描きやがって」と怒られたらしく、しおしおと焼きそばパンを食っていた。

「あーじゃあこれどうだ、河童。どんなの想像するよ」

 橋本はテーブルに備え付けられている紙ナプキンを配って「テキトーに書いてみ」と言ったが、ちびっこ達は「俺たちが学食にまで筆記用具持ち込む真面目学生だとでも?」みたいな顔をしたので、喉の根っこから溜息を吐き出した。
 それぞれ描き出した河童は、化け物みたいな絵だったが、おおよそイメージする通りの河童だった。橋本はフーンと眺めたあと、煉獄が描いた河童の紙ナプキンで煉獄の口元を拭って捨てた。

「あ捨てるのか。ちゃんと褒めろ、教育に悪いぞ」
「誰が保育士だよ。河童が大事って話じゃねえんだ。ようは、全員が想像するものが同じである、ってこの結果の確認ができてよかったんだよ」

 橋本は保冷バッグに入っていた最後のおにぎりを目の高さに掲げて、全員に見える形で握りつぶした。

「鬼、ってのは俺たちにとっちゃあの『鬼』だが、一般人が河童みてえに統一で思い浮かべる姿は『赤い肌にツノ、金髪のパンチパーマで金棒持ってる虎柄パンツ』だと思う。が、鬼の語源は『隠』、目に見えない怪異すべてを指していた。この『隠』には、かつて河童も含まれただろう。が、『隠』から鬼、河童に分離して、それぞれ全く別の妖怪になるまでには、人々がその怪異に対して共通の認識をする必要がある。この認識を形作ったのはまず絵だ」

 橋本は「鬼」、「河童」と言いながらぐちゃぐちゃにしたおにぎりを〇や△に握りなおしてみせた。

「ああ、だから絵描かされたの」
「正直あそこまでクソグロにする必要はなかったというか、観測が難しいからいっそマスコットキャラみたいなほうが良かったけどな。形のない悪霊に、「この形で出力されてこいクソが」っていう型を作る。鋳型がイメージ近い」
「観測が難しい、というのは?」
「黒いモヤに実態を与えるのに黒いモヤの絵を描いても変化したかの判別がつきづらいだろ」
「なるほど! いざ斬ってみて斬れるかどうかで判別するものだとばかり」
「力押し好きねぇー、お前」

 というか、いざそうするとなったら煉獄は学園に日輪刀を持ちこむのだろうか。気になったが、訊くのはやめた。記憶を取り戻したとはいえ、今生はただの教員である。触らぬ神に祟りなし。くわばらくわばら、と橋本は最後のおにぎりに噛みついた。さっき説明がてらメチャクチャにしたので具がひどいことになっている。

「おばけ退治と絵がどう結びつくんだよ」
「不可視の現象を絵に起こす、もしくは擬人化するというのは古今東西あらゆる国で行われてきた、いわば対症療法みたいなものだ。その現象に理屈をこねて理解するんじゃなく、別ベクトルから解像度を上げて対応できるようにする。大昔のロシアには熱中症を引き起こす妖怪の伝承なんかもあるし、日本でも疫神の詫び証文あるだろ。完全に『あちら側』にいるものに絵で姿を、呼び名で定義をつくり、『こちら側』の現象にしちまえば、あとは物理で殴れるようになる。まずそのための絵、名前は放っておけば花子さんとか勝手に呼ぶ奴が出て来るだろ」
「なあるほどね。わからんなりに腑に落ちた」
「待て、名前を放任するのはよろしくないと思う」

 ゼリーの裏蓋をスプーンで丁寧にこそぎながら煉獄が言う。

「絵が物理的な形を決めるものであれば、名前は魂の形を決めるものだ。放っておいて勝手についた名前が「人類一人残らず絶対殺すマン」とかだったらどうする。名は体を表す、とも言うのだし、形を与える以上名前も決めてやるべきだ」
「あー、いやほんとお前がいてよかったな。そこ失念してたわ。俺ディズニー派だったけどもう一回ちゃんとジブリも観るわ」
「何の話してるんですか?」
「たぶん千と千尋の神隠しの話だろう。名前が大事という話だ。お前引き出しが多いのは良いが開ける順番がメチャクチャすぎると前々から言っているだろうに」



 続きは鋭意執筆中です。
 金遣いが悪くて正直出版のめどが立っておりません。ハイステ東京の陣めちゃくちゃおもしろかったです。

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