審神者動静

審神者動静  薩摩国 固有番号 チ 119番  

        記載者 近侍担当 御手杵


5月4日


 7時30分 起床。昨晩から隣室にて次郎太刀、日本号、千子村正、源清麿らによる酒宴が未明まで行われていたため寝不足の様子。山伏国広が朝食に呼びに来るまで部屋からは出ず。

 8時15分 朝食。本日の炊事当番は別提出の当番表どおり。途中、佃煮を奪い合って乱闘騒ぎを起こしかけた後藤藤四郎、鶯丸両名に対し「通告してある当番を変更する」と通告。

 9時30分 朝礼。熊本での特命調査続行のほか、一部当番の割り当ての変更を指示。演練、各時代への出撃編成は別資料に記載。変更された当番表は担当役員へ報告書を提出済み。

 10時00分 正門を解錠。熊本城へ進軍中の第二部隊と通信を開始。以降進軍指揮任務にあたる。


 10時23分 熊本城闇り通路を踏破。古今伝授の太刀を入手。第二部隊帰城を指示。帰城を確認ののち古今伝授の太刀の励起を開始。間もなく顕現。現時刻をもって当本丸の放棄された歴史への介入を終了。

 12時00分 昼食。古今伝授の太刀、並びに地藏行平は当本丸における自治ルールにおいて「新入生」であるため、食事の項8条の5に倣い担当刀剣男子監督のもと乳児用の誤飲防止スプーンで粥を食する。のりたまをかけると喜ぶ。現時点では突飛な行動は見受けられない。

 13時00分 熊本城へ出陣した第二部隊を解体、在籍していた刀剣男子へ休暇と部隊長に報告書の提出を指示したのち部隊を再編成。明日から次回再編成まで規定シフトでの遠征を指示。

 13時20分 書類製作を開始。

 14時50分 歌仙兼定の呼びかけにより業務を中断。八つ時。本日は菓子パン。地藏行平が監督刀剣男子が目を離したすきにメロンパンを圧縮して一口で頬張る。当然のどに詰まらせる。岩融が逆さづりにしたのち同田貫正国が背中を平手で殴打したことにより一命を取り留める。食事の項8条の9の徹底不足。監督刀剣男子への今一度の周知を指示し自然解散。業務に戻る。

 16時00分 定時配達の内容物確認。爆竹が購入されていることが発覚。発注の際に提出される要望書を再確認。鶴丸国永からの申請書に「正月を祝うため」と記載を発見。本人に確認を求めるも逃走。機動値の高い刀剣に捕縛を指示。返品処理を始める。

 16時48分 鶴丸国永確保の報せを受け、大広間へ移動。同50分、尋問を開始。申請理由の記載が虚偽である旨を確認。予定されていた今後二日の任務を中止とし、謹慎処分とする。編成変更は当番表同様に担当役員へ提出済み。
   (注釈) 当本丸は担当刀剣男子への申請に許可が下りれば原則買い物は自由。今回は虚偽の理由を記載したこと、任意同行を拒否し逃亡したこと、ある程度の危険物を購入したことを鑑みて謹慎処分とした。

 17時50分 業務を中断。夕食の支度手伝いを開始。古今伝授の太刀の内番服に驚き奇声を上げる。江雪左文字より叱責を受ける。

 19時00分 夕食。新刀剣男子歓迎会に参加。途中、「新入生」が「皿に盛られているものは食べられるもの」と誤解し飾りのたんぽぽを食すなど起きるも、特に事故は無し。古今伝授の太刀の要望で大人のふりかけを与えると気に入った様子。

 21時00分 夕食の後片付け手伝いの後、業務に戻る。希望者に二時間程度、キッズプランでのみネットフリックスの視聴を許可。

 22時37分 本日の業務を終了。執務室発。同40分、懇親会会場着。早めの就寝を要請し私室へ戻る。

 22時50分 近侍任務終了。記録終了。現在来客なし。
(5/4 23:11)



「おうい、主」

 伸びをした拍子にバキバキと鳴った肩に驚きながら、御手杵は審神者を呼んだ。審神者はクッションにもたれたまま「はーあーい」と間の抜けた返事をする。

「報告書これでいいか確認してくれえ」
「あいあい。どれどれ……」

 這って端末へ近づく審神者に道を空けるように御手杵も這って退いた。久々の審神者動静担当だった。そういう日に限って書くことが多い。他の刀たちは「運がいいじゃん。書くことなくてヒィヒィ言うより楽だよ」と羨ましがるが、御手杵本人にしてみれば大概のことが「そうかぁ」で済んでしまうので、逆に何までを書くべきかの判断に困る。

「新人さん来るとどうしても育児日記みたいになっちゃうが、こればっかりはしょうがないか。古今さんの私服にびっくりした項目は要らないな。そこ直したらあとは大丈夫」
「あ悪い、もう提出サーバーにぶっこんだ」
「なんで提出してから確認を頼むんだバカタレ。引継ぎ残して上がっていいぞ。お疲れさん」
「うぁーい」

 近侍用端末の隣に積んであるノートから引き継ぎノートを抜き出して、二三言メモを残して御手杵は審神者の部屋を出た。そろそろ日付も変わるというのに、離れからはまだ騒がしい宴会の喧騒が聞こえる。
 ちょっと顔出してさっさと寝よ。主にもはよ寝ろ言われたし。
 御手杵は離れへ足を向ける。今日も戦地の片隅でひっそりと、とある本丸が一日を終えようとしていた。